第8話 毒草混じりの食べ放題セット 08(終)
対象は20代前半の男。あれほど体調が悪そうに見えたというのに、男はクラブハウスを出た途端、人間離れした脚力で走り始めた。
恐らくは既に、足にも発症による変化が訪れている。17番はそう察すると、自分よりも足の速いミィに目配せをした。ミィは大きく頷くと、先回りをするべく別の道に走り込んでいった。
時刻は21時過ぎ。クラブハウス付近は緩やかに包囲されているとはいえ、検問が行われているわけではない。ここで逃がしてしまえば、民間人に大きな被害が出てしまう。17番はぐっと足に力を込め、スピードを上げた。その後ろを控えめについてくるのは33番だ。
「1ブロック先を右折」
ミィからの簡潔な指示が通信機から響く。
「33番、バックアップをお願いします」
そうやって指示すると、17番は一気に対象との距離を詰めた。飛びかかろうとした17番に気付き、対象は右側に避ける。スピードが落ちたところを狙って、33番は飛び上がり、対象の目の前に着地した。
対象は咄嗟に右手の細い道へと走り込んだ。しかしそれこそが17番たちの狙いだ。
「そーれっ!」
人通りのない道で待ち構えていた化物姿のミィが対象に抱き着く。その衝撃で対象の骨はいくらか折れただろうがむしろ好都合だ。17番はコートの下から縄を取り出すと、素早く対象の手足を縛り上げた。
17番は耳につけた通信機を押さえて問いかける。
「こちら17番。対象を捕縛しました。処分しますか?」
*
「ネコたちが対象を捕まえたそうだ」
店の入り口付近で通信を受けたロウは、トシヤたちに伝達する。
「処分するかを聞いてきてる。シジマ、どうする?」
「初期症状であれば連行して『活用』したいところですが――現状を見てみないことには判断しかねますね。現場に急ぎましょう」
活用。その言葉にトシヤは表情を硬くする。連行後、彼はカミガカリ病の治療のための研究材料にされるのだろう。しかし一度発症した人間は二度と元には戻らない。つまりは恐らく死ぬことを前提とした実験に『活用』されるはずだ。
シンゴのいる前ではシジマに真相を尋ねるわけにもいかず、苦々しい思いを抱えながらトシヤは拳を握りしめた。
ネコたちに繋がる通信機の向こう側から、妙な音が響いてきたのはその時だ。
何かが噴き出る音、苦しそうな怪物の咆哮、誰かが咳き込む音。
トシヤとロウは顔を見合わせ、通信機に向かって叫んだ。
「どうした、ミィ!」
「17番、応答しろ!」
*
発症者を追い詰めた細い路地。捕縛された発症者の横に、ミィと17番も苦しそうに倒れ込んでいた。
二人の傍らにはピンの抜かれたグレネードが落ちており、その先端からはまだ緩くガスらしきものが噴射されている。
「何故ですか……」
息も絶え絶えになりながら17番は必死で体を起こす。震える腕で体を支え、目の前に立つ少女を睨みつける。少女は冷たく二人を見下ろしていた。
「――33番!!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます