第5話小雨

私が今いるのはあの女の家だ。

憎い憎い、私の川名君を誑かそうとするあの女。

朝霧先生の机から失敬したものは、クラスの個人情報である。PC音痴の朝霧先生は紙媒体で机の中に入れてあるのは知っていた。勿論机には鍵が付いているけど、それは朝霧先生が持っているのだから造作無い。

そう、私は聞いちゃったんだ。

朝霧先生が死んだ時。あの女が川名君に言っているのを。

『朝霧先生殺したのってさ、白鳥さんなんじゃないの?』

何を言っているの?

そうやって、川名君を私から引き離そうとしているの?

勿論川名君は否定していた。そうよね、川名君は…信じてくれるよね。

でも、この事があって一刻の猶予もなくなった。私の川名君に要らないことを吹き込む危険因子は、さっさと取り除かなくちゃ。

彼女を殺すのは危ないと思った。川名君の周りの人が殺されてくって、誰が気づくか分からない。でも、なんとかしなくちゃ。

彼女の名前は長谷川愛美はせがわうみ。お嬢様育ちで、欲しいものはなんでも手に入ったみたいだ。

明るい茶髪をツインテールにしていて、いかにも自分に自信がある系女子。

私とは対極にいるような子だ。

そう、私を選んでくれた川名君が絶対に好まないだろうタイプだ。

ああ、よくこんなのと仲良くしてたわね。

でも大丈夫。私が川名君を守ってあげるんだから。

豪邸だけあって、防犯カメラとかも沢山ある。さて、どうやって忍び込もうかしら…。

仕方ない、ふつうに入ろう。

「ごめんください、私、愛美さんの友達なんですけど…」

「あら、愛美の友達?おあがりなさい」

制服姿の私を、何の疑いもなく上げてくれた。

「愛美部屋にいるのよ、行っていいわよ」

よし、これで…。

「こんにちは、長谷川さん」

「…!あんた、川ちゃんの…」

「白鳥八重です。ちょっと話したくて。すぐ終わるからさ」

「なによ、愛美のことも、朝霧先生みたいに殺す気?」

「イヤイヤ、殺しちゃったらすぐにばれちゃうでしょ?私の仕業だって…。だからそんなリスクは負わない」

「じゃあ…なによ」

私は相棒を彼女の首に突きつける。

「川名君に近づかないって誓って。二度と、川名君に余計な事吹き込まないって」

「…カッターごときで脅したつもり?」

「お嬢様が出会い系してるって拡散してあげようか?」

「な…」

とある出会い系サイト。顔写真付きで『うみ』という女のプロフィールを見つけたのだ。

「この間、二十代のお兄さんに抱かれたでしょ?あれ、私の友達なの」

「…⁉︎」

私は川名君の為なら使えるものはなんでも使う。あまり治安が良くないところに住んでいる私の幼馴染は、今ではヤンキーで、今回行ってもらったのは彼のお兄さんだ。

「川名君に知られたくないわよね?こんな事。裏アカ使って学校の掲示板書き込んであげようか?それとも…大人しく言うこと聞く?」

「…」

彼女はなにも言わない。これでは、面白くない。

「返事がないのは拒否と捉えて投稿するわよ。勿論、投稿者が私だとわからない方法でね」

「わかったわ。川ちゃんに近づかなければいいんでしょ」

「それだけ?」

「川ちゃんにあなたが犯人だなんて吹き込まない。これでいいの?」

「ええ。それと…今日のことを誰かに言ったら…ね」

一度痛い目に合わせたい気持ちはあるけど、それはリスクが高すぎる。

ここら辺で許してあげよう。

私は、そこで暇乞いをして帰った。

これで危険因子はひとまずなくなった。勿論私の気持ちとしては全然足りない。川名君を誑かしたことを後悔させ、懺悔させるくらいじゃないと私の気持ちは収まらない。

でも、川名君の周りの危険因子はなくなったからいいか。

ふふふ。

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