第3話薄雲
川名君は違うクラスだから、なかなか会いに行けない。
そもそもフロアが違うのだ。隣とかならともかく、気軽に行ける感じじゃない。
昼休みと放課後くらい。朝は、川名君の登校が遅くってそんな時間の余裕なんてない。
つまんないな。もっと、川名君と一緒にいたいのにな。
一緒にいないっていうのは相当に不安だ。だって、その間何しているか把握できないんだから。
もしも、見えないところで浮気とかしていたら?
川名君はそんな人じゃない。そんなこと、頭じゃ全部わかってる。
でも、感情はついていかない。
手も繋がない、好きってことも言ってくれない。
不安になってしまうのも仕方がないよね。
ね、川名君なら、わかってくれるよね。
怖くて怖くて、堪らなくなって、川名君の制服のポケットに盗聴器を仕掛けた。
もちろん、こっそりと。
こんなことしてるのバレたら、川名君に嫌われちゃうかもしれない。でも、堪えられない。
ごめん、ごめんなさい。
何も言ってくれないから、信じきれないだけなの。もしなんの問題もなかったら、すぐにやめるから、ね?
それから私は、毎日、学校にいる間も、家にいる時も、ずっと川名君に仕掛けた盗聴器から聞こえてくる音を聞いていた。
✳︎
AM8:30
『おはようございます…』
聞こえてくるのは眠たそうな川名君の声。席に着き、そこからすぐに朝のホームルームが始まる。
ホームルームが終わると、川名君に誰かが話しかけている。
『ねーねー川ちゃん、総合のレポートできた?』
『え、全然できてないけど』
女だ!
なんで受け答えしてるの、川名君…!
何よ、「川ちゃん」って…!
『全くもう、またうみが代わりに作っちゃうよ?」
『よろしく』
『もー、川ちゃんったら!」
随分と仲良さそうな感じだ。
え?何なの?
川名君の「ふっ、」という笑いが聞こえた。
何よ、何なのよ。
なんで川名君はあんなぶりっ子に騙されてるのよ…!
川名君は私のものなのに…
AM9:40
『ねえねえ、川ちゃんって、彼女いるんでしょ?』
『ん、まあ』
「まあ」って何よ!れっきとした真っ当な彼女なんだけど!
『どんな子?てか何組の子なの?』
『二組。白鳥八重』
『白鳥…八重?二組なら体育一緒だよね?どの子?』
『肩くらいの黒髪で前髪ぱっつんの子』
この学校は校則が緩いので髪を染めていない女子は少ない。私はこの黒髪が好きだから染めてないのだ。
『ああ、あの地味な子ね』
何とは無しに侮蔑したような口ぶりで彼女が言う。
『川ちゃんには合わない気がするなあ…。告られて付き合ったんでしょ?いやいや付き合ったんじゃないの?』
何よ、あいつ…!
川名君、お願いだから何か言い返してよ、弁護してよ…!
『告られて付き合ったのは事実だけど、いやいやではない』
お、さすが私の川名君!
『へー、そうなんだ』
彼女が興味なさげに受け答える。
『ねーねー川ちゃん、白鳥さんやめて私にしなよ!絶対白鳥さんよりもいい彼女になるよ!』
え、何ありえないこと言ってるの?そんなこと、するわけないじゃない。
ーー私の川名君が。
『いや、流石にそれは…』
言葉を濁さないでよもう!
はっきり言ってやってよぉ…。
川名君の馬鹿…。
*
あの後、川名君にあの女のことを訊いた。
「?なんで長谷川の事…」
「なんていうの、どこの誰?」
「ただのクラスメート。別になんもやましいことないし、ムキになるな」
「でも…!」
「別にいいじゃん、俺が誰と仲よかったって。やましいことないっての。だからなんで長谷川のこと知ってるんだよ、俺と話してたって」
「そんなのどうでもいいじゃない!怖いの、川名君がどっか行っちゃうんじゃないかって…」
「別にどっか行ったりしないから…」
それが信じれないのが怖いんだって。
*
どうにかしなくちゃ。あの女を、何とかして引き離さなくちゃ。
でないと、川名君が騙されちゃう。いや、騙されてる。
悪いのはあの女、川名君は何も知らない、何も悪くない。
騙されてるだけなんだ。
怖い、川名君どこにも行かないで。
行かないで行かないで行かないで行かないで行かないで行かないで行かないで行かないで行かないで行かないで行かないで行かないで行かないで行かないで行かないで!
「そうだ」
あることに気づき、私は思わず笑った。
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