未来へ向けて

※パラレル時空でする。


 今日は天築学院の入学式だ。学院内は新入生勧誘に勤しむ各部活の生徒で賑わっている。

 そんな中にOBである、春日寿は来ていた。

 ――他にやることないしな。

 来年度の向けての自分は自分なりには進めているつもりからここにいても問題はない。

 部室へと足を向けているが既に新生オカルト部は動いているようで部室へと直接来た人を対応するために残った月代瑠璃だけだ。

「こんなところで油売ってていいんですか? 春日先輩」

「まあ、勧誘活動の方に行っても皆の邪魔になるし。ここで待つよ」

 適当な椅子に腰かける。しばらくするが人が来る様子はない。

「ほぼほぼ毎日先輩達来てますけど、他にやることないんですか?」

「そういわれると本当にないんだよなぁ」

 4月からの生活の準備はある程度は進んでいる、剣の稽古もしてはみたがいまいち身に入らなかった。

 卒業してからそれなりにオカルト部に顔を出している筈だが徐々に距離を感じていた。

 部室自体変わっているところは少ない。家光の私物は相変わらず置きっぱなしであり、資料類の整理も雑多だ。それでも遠くに行くような感覚がある。

 4月になればさらにこの感覚が強くなることになるかもしれないと思うと、少しでも来てしまいたくなる。

「先輩は、先輩でせっかくなんですからオカルト部以外の事もして見ればいいと思います」

「――ああ」

 今の自分はOBだから今後は武暁達が、まとめていくのが部としては正しい在り方だ。けどそれは、どこか自分の知っているオカルト部がまた遠くに行くようで。

 ――しかし、それを受け入れなければいけない。

「それでたまに帰ってきてください、徳川先輩だって私物置きっぱなしでまだ使う気ですから。遠慮することないですよ」 

 瑠璃は自分の額に手を当ててためいきをついて。

「そんな寂しそうな顔しないでください、帰って来るな、なんていいませんから」

「ありがとな」

「……どういたしまして」

 三年になるのに相変わらず、素直でない時は視線を逸らす。鈍い自分でも長い付き合いだから分かる。

「もう少し素直でもいいと思うけどな。瑠璃は」

「素直ですよ」

 そんな話をしていると部室へと向かってくる賑やかな話し声が聞こえてくる。それは良く耳慣れた話し声だ。

「徳川先輩、一体何しに来たんでござるか……?」

「何って宣伝だよ。決まってんだろ」

「自分の動画のっすよね」

「まあ、そりゃあ風紀委員から注意喰らいますよねー」

 どうやら勧誘活動の結果は芳しくなかったらしい。

 瑠璃は話し声を聞けばやれやれと肩をすくめて。

「あんな具合ですから、もし、徳川先輩が来てたら手綱、握っててください」

「了解」

 とはいっても手には負えなさそうだけども、とは言わない。瑠璃の言葉に自然と笑って応じていると皆がこちらに気づいて。

「寿先輩も来てたのでござりますか」

「来ても良かったんすよー?」

「いや、俺OBだし、現に風紀委員に注意されたんだろ?」

 苦笑する。といやいやと喜介は首を横に振って。

「いや、寿先輩は大丈夫でござるよ。徳川先輩と違って余計なことしないので」

「結果的に部員は増えるからいいだろー? あんまり小姑してると後輩に嫌われるぞ。喜介」

「余計なお世話でござりますよ……お茶用意するので少々お待ちを」

「俺がやるっすよ?」

「こん助は頑張ったから休んでいいでござるよ、武暁も」

「じゃあ、お言葉に甘えますね」

 そうか、静葉がいないから喜介が茶を入れているのか。と小さな変化を感じつつ。

 ――家光のお茶から先に入れる辺り、喜介も素直じゃないよなぁ。

 微笑ましく思ってる中。

「お前、茶の入れ方下手だなー熱い」

「文句があるなら自分でやってくだされ」

「まあまあ二人とも」

 喜介と家光がお茶の入れ方について言い合いになり武暁がなだめる。

 ――皆少しずつだけど変わっていってるんだな

 去年はもう少しバタバタしていた気がするが落ち着いてきたように思える。

 武暁は部長としての雰囲気が出るようになってきた。手際よくミーティングの準備を進める。

 こん助と喜介は少し気が回るようになってきた。

 ところどころ至らない点や細かいところは瑠璃がフォローしてくれている。

 ――俺も先輩らしく、少しはしないとな。

 オカルト部は心地よいけど、ずっといるわけにはいかない。

「折角、皆さん来てますし。静葉先輩も呼びますか? 夕飯皆でいきましょうよ。また面白いネタ入ったんですよ!」

「ん、いいんじゃね」

 家光は武暁の提案に適当に返しつつさも当然のように部室のPCを弄っている。最近はバーチャルユーチューバーの台頭やらで忙しいらしい。

「じゃあ、俺が連絡するよ」

 喜介たちが止めようとするが大丈夫、と手で制して、スマホを手に取り、通話をする。

 二つ返事で静葉は了承してくれた。そのことを皆に伝えれば一時間ほどの時間が出来ればその間は特に誰と話をすることなく話をふられれば適当に返しながら部室内の様子を見る。

 後輩たちはミーティングで今後の予定をしっかり決めていく。この辺りの手際は家光が部長の時よりスムーズな気がする。

 当面は飛び級してきた天才少女とやらを部員に引き込もうという狙いらしい。

 ――五月、その頃、自分はどうしているだろうな。

 オカルト部からは少し距離をおいてしまうけれども、少しは頼れるようになっているだろうか。

「……寿先輩? 目を細めてどうしましたか?」

「何でもないよ、喜介。ただ皆、頑張ってるなって思って」

「概ね、いつも通りでござるよ。徳川先輩が余計な事をしないだけで」

「聞こえてるからなー、喜介」

 聞こえるように言ってますので。といつものやりとりを喜介と家光は交わしている。

 喜介もリハビリを終えて、調子を取り戻している。最近は少し鍛えているのか体つきがしっかりしてきている。

「トレーニング、順調だな」

「ええ、寿先輩がいないので自分の身は自分で守りたいので……三年の先輩方に心配かけないように、あと寿先輩のように誰か守れるようになりたいです」

 喜介はぐっと拳を握って答えるがそれに、ついつい笑ってしまう。

「いやいや、俺らみたいになっちゃダメだろ」

「先輩達がいたからオカルト部に手出そうとするやつがいなかったというのはあると思うのでござる。動画配信者に真剣使いでしたので」

 当時を振り返るがそうだろうか? と首をかしげると喜介は頭をかいて。

「先輩は、自覚なさそうでござりますね……じゃあ、少し目標を修正するでござるよ」

 こほんと喜介は、咳払いして。

「寿先輩より、強くなるでござるよ。先輩方に負けっぱなしは嫌なので」

「……お前ならそうなれるよ、きっとな」

 喜介の肩をぽん、と叩く。事実、不器用なところはあるが、真面目だ。しっかりと道を決めてるからそうなれるはずだ。

 ――俺も、少し前に出ないとな。

「ありがとうな、喜介」

 首をかしげる喜介に、いや、何でもないと答えたところでこん助がやってくる。

「今後の目標についてかな?」

「そうでござるな」

「こん助は何か今後の事について決めてるのか?」

「えー俺っすか? んー」

 こん助は宙を見て。

「やっぱり、上級生になったんで、獅童先輩みたいにパシらせたりとか、男らしくもてたいっすね」

「こん助、すでに絡んできた一年生ぶちのめしてバケツ番長とか呼ばれていたでござるよ」

「マジっすか、きーちゃん」

「まず、俺じゃなくてこん助を超えたほうがいいんじゃいか。喜介」

「じゃあ、ついでにということで」

「なんの事っすかー?」

 ああ実はな、先ほど喜介が話してくれたことについて話をするとあーとこん助は納得して。

「まあ、色々あるっすからね」

 声色からしてにやにやしているのだろうか、自分の中に思い当たる節はない。

 喜介がにらみを利かせていることから察するに内緒にしておきたい理由なのだろう。

「お待たせ、みんな、待たせてごめんなさいね?」

 静葉がやってきて皆で部室を出る支度をする。

 ――逃げる場所ではなくて、帰ってくる場所としてここがある。

 頑張る後輩達の手前、ふらふらしてるわけにもいかないだろう。次に来るときはちょっと変わった自分を見せられるといいな。そんなことを思いながら部室を後にした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

バイサマアフターSS まとめ 三河怜 @akamati1080

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ