大晦日の一日
天築学院オカルト部は九重宅に集まっていた。貧乏とはいえ昔ながらの日本家屋。こたつもあり、部室が使えない時はここを使っていた。
両親が空けていることも多く、理解も得ていたため問題はない。
大晦日もこうしてここに来ていた。
畳みのある和室と居間をつながる襖をあけて広いスペース。
一通り料理を食べ終えて一息つく中、喜介は洗い物の準備をする。
「いやー今年も、もう終わりだな」
「高校最後の年末も終わり、か」
「来年はどんな年になるかしらね」
そう、こたつでしみじみ話すのは家光、寿、静葉の三年生の面々だ。
「来年は僕たちの時代ですね」
「いやー緊張するっすね……」
「まあ、どうせ何も変わらないんでしょうけども」
二年生の武暁、こん助、瑠璃達もお茶を片手にテーブル席で落ち着いている。
その様子を見て喜介は咳ばらいを一つして。
「こん助、それと先輩方、後片付けの方をですね――」
「いやー喜介ん家は便利だわー」
「ああ、本当に助かるな」
「いやー温かいお茶が染みるっすー」
「ですねぇ。」
男性陣が一斉に目を反らす。女性陣が立ち上がろうとするがいやいや、それを手で制し。
「瑠璃と静葉先輩は座っててください。準備の方頑張っていただいたので。男子、仕事するでござるよ!」
ぱんぱんと手を鳴らすがえーっと声を上げて、一向に動く様子はない。
「小姑かよー」
「徳川先輩、一応、ここ、拙者の家ですからね? それなりに動いてくだされ」
「なんだかんだ、すっかり中学の時からお世話になってるな」
ずずーっと寿がお茶をすする。
「そーっすねー」
「いや、ここでの年越しの蕎麦最高ですね」
「持ち上げてもダメでござるよ。しっかり洗い物するでござる」
寿の言葉にうんうんと頷くこん助、武暁に対してきっぱり言ったところで鐘の音が響く。除夜の鐘だ。
「ほら、しっかり煩悩を払いつつ。洗い物を済ませて、初詣いくでござるよ」
「いや、お前、偉そうに言ってるけど。お前のエロ煩悩もどうにかしろよ」
「エロくないでござる!」
「いや、今更だぞ。喜介」
「そーっすよ、きーちゃん」
「長い付き合いですからね」
これ以上、話しても無駄と判断。洗い物に移ろうとする。
「そういえば九重君、えっちな本は、まだ畳の下?」
静葉の言葉に頭から床に突っ込む。男子は爆笑、瑠璃は視線をそらした。
「な、なんでその話を――」
「思い出しちゃって」
ふふ、と微笑する姿は魅力的だが、それを以てトラウマを抉るのはやめていただきたい。
ちなみに原因は、部屋を離れた際、武暁がふざけて「忍者の家なら畳み返したら隠し部屋とかありませんかね?」と、畳返しをしたのが原因だ。
「しょうがないっすね。手伝ってあげるっすよ、先輩方と女子は休んでてくださいっす」
「こん助、お前はもともとやる予定だったでござるからな?」
「じゃあ、僕もやりますか……」
渋々と2年男子が動き、洗い物をはじめる。
除夜の鐘が響く中、洗い物の音と談笑する声。
――いい空気だな。
「そういえば、皆。初詣の願い事は決めたのか?」
「もちろん、一攫千金だな。そういう寿は?」
「なかなか決まらなくてな。静葉は?」
「やっぱり受験の事かしら」
あるべき3年の願いらしい。
「2年生組は―?」
寿の問いかけに皆は、宙を見て。
「僕はやはり、新たなる未知との遭遇ですね! UMAに宇宙人、まだまだ謎がいっぱいですよ!」
はい、挙手して答える、オカルト部らしい答えだ。
「俺はこうして、またみんなで集まりたいっす!」
素直な答えだ。洗い物をこなしつつ、元気に答える。
そしてそれは、自分も同様に考えていた願いの一つだ。
「あーとられたでござる。そうなるとマスコットが欲しいでござるよ。癒しが欲しいでござる……」
この部において、何故かつっこみやら雑務を任されるとそういうものも欲しくなるもので。
「お前、それ、部費で飼うんだろ? 部活を何だと思ってるんだよ」
「徳川先輩、自分のやってることはなんでござるか?」
「まあまあ、二人ともその辺で」
武暁がなだめてとりあえずその場は引く。それぞれが願い事を話せば自然と視線は瑠璃へと集まるが、瑠璃は一息ついて。
「話しません。願い事はあまり、人に話すものではないので」
「えー、ここまで来て話さないんですか?」
「話しません、寿先輩は願い事決まりましたか?」
「とりあえず、瑠璃の願いは聞きたいけどな。まあ、無理にとは言わないし、そうだな」
んーっと寿は唸って。
「みんなの願いが叶いますように? とか、かな」
「うわー、ごく普通だな。もう少し面白いことないのかよー」
「神様の願い事なんだと思ってるんでござりますか」
「ばーか、神様だって面白い願い事のが聞いてくれそうだろ、なんかネタになりそうだから面白い願い事だしてみよう」
「それなら、寿君に素敵な出会いがありますようになんてどうかしら?」
家光に突っ込みを入れるより先に静葉が乗ってきたため機を逃した。
「彼女は別に、できても家光のところにいるだろうしなー。なんか申し訳ないよな」
「別の願い事っすか……あ、一回くらいモテたいっす!」
洗い物を済ませて、こん助が両手で挙手する。
バケツを被った学生に黄色い声援を浴びつつ女子が集まる。なかなかにパンチ力のある絵面だ。
家光も同じ想像をしたのか。少しだけ笑って。
「それはそれで見てみてぇな」
「面白いですね、それ」
周りの反応も良いようだ。この流れはつらい。
なんか面白いことを言わなくてはいけないような気がする。
こういうフリの場合、まずまず瑠璃は答えないだろう。よって、視線はこちらへと集中するのである。
「海外進出。とか、どうでありましょう?」
とりあえず、ネタがないときは適当に言ってさっさと次の話題に移るに限る。そう思っていたのだが。
「それだ!」
と、家光が勢いよく立ち上がる。
「来年は卒業旅行で海外いこうぜ。部費で!」
「さっきの部活の話をそっくり返すでござるよ」
「まあ、それは問題だけど、確かに卒業旅行はいいかもな」
「海外……想像つかないっすね」
寿はまんざらでもないといった様子でこん助は不安そうな様子だ。
「一応、調べてみましたけど、バイトをすればある程度の場所はいけるかもしれませんね」
「瑠璃、調べるの早いでござるな」
「興味がないわけではないから」
「楽しいそうね、皆でお泊り」
「いくならやっぱりアメリカですかね?」
やんややんやと盛り上がる中。
「しかし、いいんですか? 卒業旅行ならその、先輩方3人で行ったほうが」
遠慮がちに瑠璃が言うと。何言ってんだよ、と家光は言って。
「オカルト部で行くのに決まってるだろ。その方が楽しいし」
「とか、部長らしいこといってるでござるがスタッフ確保のためでござろう」
「当然だろう、何言ってんだ。行くからには皆で行って動画撮るぞ」
「……まあ、いいでござるよ。結果的に思い出にはなるでござるし」
「本っ当お前、終始偉そうだよな」
「誰かが止めないとえんえんと突っ走るでござろう? 徳川部長は」
「まあまあ、二人とも卒業旅行の行きたい場所でも話しましょう?」
静葉の言葉に一先ず家光への言葉を止めて、あーでもないこーでもないと話を続けているうちに時計が23時を示していた。
「あ、皆さん、そろそろ出ないと!」
「そうね、急ぎましょうか」
こうして、オカルド部の一年が終わる。来年は来年で、また、楽しくも忙しい日々が続くのだろう。そんなことを思いながら初詣へと皆で駆け出した。
――勢いで海外進出と言ってしまったが。果たしてこのメンバーでどれだけ海外に対応できるやら。
一抹の不安と多くの楽しみが想像して。今年を終えた。
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