好きな和歌は

 なかしとやさしとおもへどもちかねつとりにしあらねば


 山上憶良の作。その人の代名詞のような作品「貧窮問答歌」なる長歌に付された反歌。これこそ和歌中の和歌、和歌はかくあるべしの感を持つ。誰の言葉だったか、かなしみは憶良に聞けとはよく言ったものだと思う。和歌は恋の文学といわれることもあるそうだが、平安時代以降のことと信じて疑わない。同じ作者の、


 しろかねくがねも玉もなにせむにまされる宝子にしかめやも

 常磐ときはなすかくしもがもと思へども世の事なれば留みかねつも

 をのこやもむなしかるべき万代に語り継ぐべき名は立てずして


も良いと思う。長歌も同じ作者の


 瓜食めば 子ども思ほゆ

 栗食めば ましてしぬはゆ

 いづくより 来たりしものぞ

 まなかひに もとなかかりて

 安寐やすいさぬ


が好きだ。これほど短い長歌は他に知らず、短い長歌と言っても過言ではないと思う。口に馴染みやすいようにも感じる。瓜も栗も当時は庶民の口に入るものではなかったらしい。この和歌を読むと、我々はどこから来てどこへ行くのだろうかと今更のように思う。

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