第7話 契約に決めた。

 私が豊島美次てしまみつきの頭部の葬式の際、μチップやそれに関連するデスゲームソフト『マジカルガールパッチ』について演説していた。

 その時、とあるお偉いさんが私に話しかけた事で彼が何か関係ありそうだと思いながら、彼の話を聞く事にした。


「皆さま。藍那様のいう通り、この世界ではμチップを利用したデスゲームソフト『マジカルガールパッチ』というものが販売されている。若い女性の頭に埋め込むことによって細胞を書き換えられ、ある部分を除いて不老不死になると言われているのです。」


 私は美次の件である部分は何処なのか大体、想像できる。

 その部位は脳みそだと…。

 つまり、脳みそだけが死滅させる事で身体を永遠の命を与える手段、頭だけを証拠隠滅に追い込める手段が予想されていると断定できた。


「あぁ、貴方…、貴方の言う通りです。『マジカルガールパッチ』は若い女性の脳に埋め込ませる事で首から下の細胞は脳細胞となって、生かされます。けど…、」


 何だろう。

 詳細を離していく毎に何だか私の目から涙が溢れ始めてくる。

 どうしてこんなに涙が溢れるのか私にはわからない。

 けど、私の脳みそが凄く悲しんでいる感情は読み取れた。

 一方、小腸や大腸などは脳細胞が多く作られたせいか、嬉しい感情が湧き込んできた。

 私の脳が悲しんでいるのに、身体の多くの臓器は歓喜で喜んでいる。

 この複雑な感情は今の私にはよくわからないけど、『マジカルガールパッチ』の副作用から来ているものなの?と思ってしまった。


「うっ…。うっ…。『マジカルガールパッチ』の件を離すと頭が悲しいのに体は嬉しさを感じる。μチップが破壊されたのに、細胞は書き換えられたから私の身体はずっと、この姿のまま生きなければならないのはどうしてなのか私にはわからないんだよ。」


 この時の私は冷静な判断が出来る状態でなかった。

 寧ろ、冷静な判断が出来なかったのはμチップが破壊されてもμチップによって書き換えられた身体の細胞は元に戻らない悔しさだった。


「どうしたんだ。藍那…。さっきまで冷静だったのに急に泣いたり、冷静さを失っている。どういう事なんだ…。」


「藍那…。私にはわかるよ。μチップが破壊されても書き換えられた細胞は元に戻らない。身体は永遠に残され、脳みそがなくなってしまう。つまり、脳が死んでしまえば私達の姿は同じでも別の誰かに変えられてしまう事を…。」


*******

 ―――それから私は演説の際に乱れたせいか、まともに演説が出来ないと判断した葬儀屋側は有名IT企業の社長に演説の続きをやるように葬儀社側から命じられた。


「先程、藍那様が演説で上手くやろうとしていたのですが、それが上手くできなくて恐縮でした。しかし、私はこの事件の犯人は『レイスブック社』なのは間違いないと断言できます。何故なら、『レイスブック社』は私達のウィルスソフトである『べゾバスノスチ・ミール(Безобасности Мировой.)』 の開発に妨害した犯人だからです。」


 ―――嘘、彼が例の有名IT企業『ヤポン・ルースキー』の取締役社長の鳩平雅道はとだいら まさみちさんなのか?


 鳩平雅道というのは『ヤポン・ルースキー』の取締役社長でロシア語・ペルシア語電子構文を駆使して日本で初めて非英語による電子構文防犯ソフトである『ベズ・ラスチ』を開発した本人じゃないか?

 私は彼がどうして『レイスブック社』に対して非常に恨んでいるのかよく理解出来なかったが、彼がレイスブック社によって何か企業的被害を出したのだと理解できる。

 私は冷静さを失った後も、雅道が『マジカルガールパッチ』の演説を行った事で豊島美次の頭部のお通夜は無事に終える事が出来たのだった。


********


「ねぇ、雅道さん。私と礼音。そして美次さんの身体だけ残って何をするの?」


 美次は今後、何をするのかはっきりしてきた。

 だが、これから雅道に時彦から提出した例の契約書の件について見せなければならないと思った為か…、


「雅道さん。私と礼音は時彦さんからこんな契約書が届いたのですが、この契約書は大丈夫なのか読んでみてください。」


 私は契約書を読んでμチップが破壊医師になりたかったが、契約書の悪い点についてあまり理解できなかったので彼にそれを見せようとした。


「分かった。私が今日中に引き受ける。但し、君は礼音と共に今日はここに残ってもらう。」


「うん、それは覚悟できているよ。」


「よろしい。で、美次の身体。君はこの資料を纏めてくれないか?」


 と私と礼音の契約書を雅道が呼んでくれるついでに、美次の身体が纏めてくれるようだ。

 それを知った、私は少しだけ安心した。

 すると雅道さんが時彦についてある事を話した。


「ところで藍那さん。礼音さん。」


「どうした?雅道さん。」


「雅道。時彦について何か知っているのか?」


 雅道さんが時彦さんの件について何か知っていると感じた。

 すると…、


「礼音。藍那。君達を私のドアホな元同僚がこんな事を巻き込んで済まなかった。」


「てっ、えぇ~。」


 嘘…。

 雅道さんが時彦の元同僚なのは本当だと解った瞬間、私は半信半疑で疑いながらも彼の話を聞くしかなかった。


「君達が時彦と接触しているならあのμチップ『マジカルガールパッチ』を開発したのは彼だと解っているよね。」


「うん、時彦から聞いた。」


「で、彼は私が危険だと判断した『マジカルガールパッチ』の原型ソフトの開発を行ったんだよ。」


「で、そのソフトは…。」


「当然ながら没だ。その後、時彦は解雇され、アメリカの『レイスブック社』に就職した。」


 成程、雅道さんが危険だと判断したソフトを彼がアメリカの『レイスブック社』で完成させた事で自分がそれで上手くいくと思ったんだね。

 けど、時彦は雅道さんのいう事を聞かなかった事で、こんな大ごとなゲームが開発され、被害者は年々増加しているのを受け入れないでいた。

 恐らく、彼は『マジカルガールパッチ』の副作用をよく知らないで開発した。

 そして彼がμチップソフトで後悔している理由があると私は感じた。

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