2-2 俺氏、チートで好き勝手する
「それじゃあ、今夜はどこに泊まるつもりなんですか?」
そのセリフを待っていた!
記憶を操作するタイミング!!
たとえ超一流の魔法使いであっても、記憶は操作できても感情までは操れない。
記憶操作の魔法は、魔素の消費量もさることながら、構造式の複雑さたるやハンパない量だ。
もちろん「ガリ勉」たる俺は暗記していたし、今でもしっかり憶えている。
使う機会などないとしても。
構造式だけじゃない、使える状況――持続時間、範囲、一度にかけられる人数……etc.――実際に使うことを想定して、他の魔法との組み合わせとかのシミュレートはむしろ洗練されているほどだ。
この世界で使える通貨を俺は今現在持っていない。この世界に合わせた服装も、今夜のねぐらも、これから生活するための基盤が何一つない。だから、できればこうやって知り合った4人のうちの誰か――ぶっちゃけアホ毛だ――の家に、この世界の「常識」に慣れるまで居候したいのだ。
だが黒髪ロングは俺のことを疑っている。ツインテールの裏表ある性格も侮れない。この状況下で記憶を操作するなら、俺を胡散臭いヤツと思っている状況を肯定するような「設定」を4人に同時に与えなければならない。
「それじゃあ、今夜はどこに泊まるつもりなんですか?」
この瞬間に、俺は記憶操作と衣服の外観錬成を同時に行った。
「やだなぁ、だからさっきも言ったべ。
今、この瞬間から、俺は田舎から転校してきた
新潟の山奥の村から大学受験に備えて転校してきた、ちょっとダサい服を来た、燕の父のいとこの次男。燕たちと同じ高校2年生。
「田舎から出てきてさっそく置き引き被害って、マジ受けるわー」
プリン頭の
「私が待ち合わせに遅れたせいでごめんね」
アホ毛を揺らして燕が謝る。
「とりあえずその服はあり得ないわよね。『しもむら』でも『ユリクロ』でも売ってないよね、そんなデザイン」
ツインテールの
「で、みんなで服を選んでくれるって話だったのに、いつまで経ってもここから動かないで。俺、オコですよ」
「……そこで『オコですよ』って言うのは、ちょっと男の子としてどうかと思うな。ドリンクバーだって燕に奢ってもらってるのに」
黒髪ロングの
彼女だけはまだ微妙にひっかかっているようだが、想定の範囲内だ。
それはそうと、大量の魔素を一気に使ったから、このファミレスの中の魔素が以前いた世界なみに薄くなったぜ。
手持ちのお金が足りないからってことで今日は解散して、燕にお金を貸してもらってユリクロで部屋着だけ買って三条家へ帰った。
三条家の間取りは既に燕の記憶から確認済みだ。
玄関のドアを開けた瞬間に、燕の部屋の隣に同じ形のドアと亜空間を作って俺の部屋とした。
「おかえりなさい」と声がして、母親が出迎えに来た瞬間に彼女の記憶も書き換える。
彼女の中で俺は、夫の祖父の葬式で会ったきりの、当時はまだ赤子だった夫の従姉妹の息子になった。
「届いた荷物は部屋に入れておいたわよ」
「ありがとう、叔母さん」
さすが燕の母。あっさり俺の設定で記憶が上書きされた。
「ご飯の支度、もうしばらくかかるから、ふたりとも先にお風呂に入っちゃってちょうだい」
「はーい」
燕が当たり前のように返事した。
そうか、この世界の道路で人混みの中を歩いていてもちっとも臭くなかったのは、毎日風呂に入っているからなのか。
燕の表層思考を読んでみたら、「私のシャンプーは高いから、お父さんのを使うように言わなくちゃ」とか「パンツとか靴下とかもお父さんのと一緒に洗濯するようにお母さんに頼んでおかなくちゃ」とかちょっとヘコんだ。
――天使なんかじゃなかった……。
俺は燕と一緒に二階に上がり、さっき燕の部屋の隣に錬成したばかりの部屋に入った。
もちろん「荷物が届いた」のは偽りの記憶だ。がらんとした何もない亜空間がそこに広がっている。
これから「この世界の常識」に合わせて、この部屋を17歳男子高校生らしくコーディネートしていかねばならない。
さっき死んだばかりなのに、この新しい生活にワクワクしている自分がいる。
父さん、母さん、先立ってしまった不幸をお許し下さい。
でも今、俺、この第二の人生を楽しめそうな予感でいっぱいです。
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