第百三十二話 決着と今後

「大魔王陛下のお手を煩わせる事となりましたか。申し訳ございません」


 侯爵城の中庭でそう言ったのは、昨日会ったラスートの代官だ。

 彼は、百台を超える兵士を満載した馬車を引き連れ、ここへやって来ていた。


「いえ、助かります。

 けれど、どうしてこんな絶妙のタイミングで?」

「昨夜遅く、大魔王城からマフィアの取り調べ結果が届きました。

 協力者として、アールワット侯爵の名が挙がったため、逮捕し聴取するつもりでまいりました」


 俺の疑問に代官が答えてくれた。

 ああそうか、大魔王城と連携してるのか。

 考えれば当たり前だ。


 俺はマフィアの送り先を間違えたようだ。

 本来は代官所へ連行すべきだったのだろう……いや、代官がグルだった場合は困るか。

 やはりこれで良かったのかもしれない。


 ちゃんとこうして、素早く情報を交換してくれているしな。

 みんな優秀で助かるよ。


「大魔王陛下のおかげで、戦闘をせずに済んだようです。

 後の処理をお任せ頂ければ、私自身が徹底的に調査いたします」

「お願いします」


 この人に任せれば大丈夫だろう。

 あとは分身を使って調べた情報を渡しておこう。


「反政府活動家のアジトを調べてあるんですが」

「それは助かります大魔王陛下。誰か、地図を持って来てくれ」

「はっ」


 代官の側にいた役人が、駆け足で地図を取りに向かった。


「総動員体制で反政府活動の調査を始めました。

 連中も、じきに捕縛する事が可能かと存じます」


 仕事が速いな。

 有能な代官だが、ひとこと言っておいた方がいいかもしれない。


「それなんですが、反政府活動自体は取り締まらないで欲しいんですよ。

 あくまで違法行為についてだけ処罰をして欲しい。

 微罪による別件逮捕とかも無しの方向でお願いします」


 それをしてしまったら、本物の恐怖政治による独裁だ。

 悪質なプロパガンダやアジテーションには、政府広報で対抗していくべきだろう。


「はい陛下。

 厳格なる法の執行をもってあたるつもりです。

 嘘のつけない魔法を使用した結果、法に背いてなければ釈放いたします」


 取り調べは強制になってしまうが、仕方ないだろう。


「それでお願いします」

「はい大魔王陛下」


「……べええっ、余の、ぐずっ……先祖代々、ぐずっ……余の、領地なのにぃ……ぐずっ、先祖代々、うべえええん」


 俺と代官の横を、アールワット侯爵が泣きながら連行されていった。

 領主だった貴族たちの気持ちも理解できなくは無いのだが、それを許す訳にはいかない。


 俺は役人が持ってきた地図に、反政府組織のアジトを書き込んで代官に託す。


「では、後を頼みます」

「かしこまりました大魔王陛下」



 ◇



「大魔王陛下、知らぬ事とはいえ数々のご無礼、どうか、どうかお許しを……」


 慌ただしく大魔王国兵士が働くアールワット侯爵城の中庭で、温泉宿の女主人シェムリさんが、ひれ伏してそう言った。

 人型擬装形態に戻っていた俺は、慌てて口を開く。


「止めてください、こちらこそ素性を偽ってすいませんでした」


 そう言って、ひれ伏すシェムリさんと従業員二人に立ってもらった。


「どうか今までどおりでお願いします。

 しのび旅ってやつなので」

「……はぁ、大魔王陛下……ゴインキョ様がそうおっしゃるなら」


 女主人と一緒に立ち上がった従業員少年ぺノンが、不思議そうな顔で言う。


「けどさゴインキョ様って、本当にさっきの大魔王様と同じ人なのかい?

 迫力が全然違うから、とてもそうは思えないや」

「これ、ぺノン」


「あ、いえ、本当の事なので……」


 シェムリは咎めたが、これはぺノンが正しいな。



 ◇



「しかし、監査の強化が必要か」


 侯爵の城から温泉宿までは、代官が馬車を二台だしてくれた。

 帰り道を走るこちらの馬車には、俺の家族と護衛の兵しか乗っていない。


「貴族には陛下の脅しが効いておりましたの。

 アールワット侯爵のような方は珍しいのですが、大魔王陛下に同意いたしますわ」


 俺の言葉に賛成してくれたアムリータは、しかし浮かない顔だ。


「監査の強化と同時に、今回の事件も大きく伝えますの。

 大魔王陛下が身分を隠して、あちこちを漫遊されているという情報は抑止力になりますわ。

 ただ……」


 彼女は少し寂しそうにうつむいた。


「また恐怖で抑えつけるやり方になりますの。

 皆、陛下のお心も知らずに、誤解したままで……」

「仕方ないよ、一時的なものだしね」


 アムリータに答えながら自分にも言い聞かせる。

 そうだ、一時的な処置だ。

 劇薬だが使わざるをえない。

 たとえ反発から、反政府運動が活発になろうとも。

 豊かさと教育さえ行き届けば、緩和していける筈だ。


 全てに指示される王などあり得ない、そうダイバダに言われた事がある。

 政治は妥協の産物だと。 

 歯を食いしばって、一番マシを選び続けるしかないのだ。


 生まれたての超巨大国家は、常に変動し、なにもかも警戒し続ける必要がある。

 最善の妥協を探していこう。

 大丈夫だ、俺には頼もしい仲間たちが居る。

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