第百十九話 大魔王城地下

 結局、オルガノンに何度も頭を下げてお願いし、どうにか補佐を引き受けてもらった。

 おい、これで本当に、大魔王の役に立つ事を存在価値だなんて思ってるのか?

 ノリで適当な事を言ったんじゃないだろうな?

 ゼロノはフェンミィを連れて出発してしまったので、もう確認はできなかった。


 とりあえず後は、二人でなにか休暇にふさわしい行動をするだけだが、その前に、先ほどの会議で気になった事を片付けておこう。



 ◇



 俺達は大魔王城の裏庭へと移動した。


 そこには最近増築された建物があり、その中には馬車が通過できる転移ゲートがあった。

 建物へ入り、敬礼をする衛兵に挨拶を返し、転移ゲートを通過する。

 ゲートの先は、大魔王城の地下へとつながっていた。

 これで大魔王城の中央にあるエレベーターよりも早く、しかも大きな荷物のやり取りも出来るようになっている。


 東京ドームに匹敵する程の広大な地下空間には、大魔王国の魔法技術省を始めとした様々な人間が働いていた。

 大魔王城のコアや付属する設備も改良され、オルガノンに許可された人間なら使用できるようになっている。

 ここでは金の精製や様々な研究が行われていた。


「あ、バンお兄ちゃんだ!」


 目ざとく俺を見つけた第二王妃、黒翼ゴスロリの幼女サティがぱたぱたと走って来る。

 そして、けっこうな距離を一気に走り切り、俺に抱き着いた。


「えへへ~」

「やあサティ、お疲れ様」


 あれ? 小さな元大魔術師アルタイ師匠の苦しいのじゃ~が聞こえないぞ?

 よく見ると、アルタイはサティに抱かれておらず、見慣れない馬車の側に居た。

 その周囲には魔術師達が居て、俺に気が付いてひざまずき頭を下げる。

 あ、ジンドーラム王国で出会った最底辺だが絶世の美女、地味なメイド服のココも一緒だな。


「突然すいません、皆さん頭を上げて作業を続けてください」


 俺はそう叫んだ後、サティを抱き上げアルタイの側へと向かう。



 ◇



「どうしたのじゃ大魔王? 珍しいではないか」


 かたわらまで接近すると、アルタイがそう声をかけてきた。


「ちょっと聞きたい事が有って……あれ? この馬車って……」

「そうじゃ、奴隷商人ギルドの馬車型の改造人間じゃ。

 やっと人型に戻す目途めどがついたのでな」

 

 おお! そうなんだ! それは良かった。


 俺は馬車にそっと触れながら考える。

 この人達は、ある日突然、無理やり改造されたのではないだろうか?

 だとすれば俺と同じだ。とても身につまされる。


 そして、俺よりずっと悲惨な身体にされてしまったのだ。

 それがやっと人間らしい姿に戻れる。

 なんだか我が事のように嬉しいな。


「ありがとうアルタイ師匠、ありがとう皆さん」

「まあ、ほとんどサティの手柄なのじゃがな」


 俺が皆に礼を言うと、アルタイ師匠がそう答えた。


「えっへん」


 俺の腕の中で、小さな大天才が胸を張る。


「そっか、いつもいつも本当にありがとうな、サティ」

「えへへ~」


 また君に救われたよ、とても愛おしいなぁ。

 小さなお嫁さんを抱きしめて頬をよせると、彼女は気持ちよさそうに目を細めた。


 あれ? 後ろから鋭い視線を感じる。

 振り向くと、なぜかオルガノンがジト目で俺を睨んでいた。

 なにやら複雑な表情で、感情が読み取れない。

 なにか怒らせるような事をしたかな?



 ◇



「で、聞きたい事とはなんじゃ?」


 俺はアルタイ師匠とサティに、監視カメラを安価で大量に作れないか相談をする。


「ふむ、実物があれば複製は難しくないじゃろう、費用も言う程かからぬとは思うのじゃが……」


 アルタイは俺の背後に居るオルガノンを見た。


「そこに居るコアのインターフェイスに相談するのが一番ではないのか?」

「え? ……あっ!」


 そうか、監視カメラをイメージしていたが、小型の偵察機の様な物の方が更に便利だろう。

 城下町の地下で、小型のカメラ付きオートマタは作れないだろうか?


「ええと、オルガノン……さん、いかがでしょう?

 話を聞いてくれてました?」


 先ほどからずっと、不機嫌そうなジト目で俺を睨み続けているオルガノンに、つい腰が引けてしまった。

 彼女は溜め息をついた後、俺に向けてプロテクターに包まれた右手を差し出した。


 一瞬の間が過ぎた後、その手にグレーのひもが巻き付く。

 それは、よく見ると蛇を模した球体関節の人形、オートマタだった。

 初めて見る形だな。


「汎用小型オートマタであると報告します」


 なるほど。大型、中型があったのだから、小型もあって当然だな。


「それで、それは監視カメラの代わりになるのか?」

「数件の改良が必要だと推測しますが、可能だと返答します。

 現状の生産ラインで月産九百機以上、ラインを増設すれば八倍以上の生産が可能です」


 俺の知りたい事を、オルガノンが先回りして答えてくれた。

 後は予算だが、これは問題ないだろう。

 今までも、オートマタの生産に予算は一切かかっていない。


「明日の会議で承認されたら、量産をお願いしたいんだけど構わないかい?」

「イエス、マスター」


 オルガノンはこくりと頷いてくれたが不機嫌そうな顔のままで、サティを抱いた俺を睨んでいる。

 あれ? 大魔王の役に立つ仕事を頼んだんだけど、機嫌が直らないな。

 ゼロノの奴、やっぱり適当な事を……いや、まてよ? もしかして……


「サティ、ちょっと下ろすな」

「うん」


 抱いていたお嫁さんを床に下ろした俺は、じりじりとオルガノンに接近する。

 そして両手を広げ、敵意の無い感じをアピールした。


「マスター、突如として本機を威嚇いかくした理由について説明を要求します」


 不穏な空気を察したのか、じりじりと後退しながらオルガノンがそう言った。

 いや、威嚇してるつもりはないんだ。


「ええと、感謝を伝えるために抱きしめて、頭を撫でようかと……」


 彼女が睨んでいたのは、サティと同じように誉められたいからではないかと思ったのだ。

 だが、ビシビシっと音が聞こえるような勢いで、オルガノンの眉間にしわが寄った。


「断固として拒否します! 即刻その痴漢行為の停止を要求します!

 同時に現在のマスターは変態で、存在そのものが猥褻物わいせつぶつであると強く非難します!」


 う、猥褻物わいせつぶつ扱いをされてしまった。

 弁明しよう。


「痴漢とかそんなつもりは全く無い。そんな気持ちにはならないし……」


 オルガノンが身に着けている、身体のラインがモロに浮き出たスーツの、薄い胸と腰を見て俺はそう言った。


「!」


 俺の視線に気がついたオルガノンは一瞬驚いた後、更に目つきを険しくした。

 あ、殺気を感じる。


告訴こくそを検討します、強制猥褻犯きょうせいわいせつはんのマスター」

「ええええ~」

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