第百二十話 獣人子供達と裏庭の畑

 転移ゲートを通って、オルガノンと二人で大魔王城の裏庭へ戻って来た。

 彼女は思い切り怒っていて、世間話をふっても答えてくれなくなっていた。


 あれ?

 今日はオルガノンをねぎらう予定だったのに、おかしいな?

 どうしてこうなった?

 挽回しなくては。


「ええと、これからなんだけど、どこか行ってみたい場所とかあるかい?」

「……………………」


「い、良い天気だね? 例えばピクニックとかはどうだろう?」

「……………………」


 オルガノンは一言も答えずに、ジト目で俺を睨んだままだ。

 激しい怒りが伝わって来る。

 困ったな、どうすれば良いのだろう? 

 もう接し方がまったく分からない。

 気まずい空気が漂う中に、突然、


「あ、だいまおーだっ!」


 そう言って走って来る小さな影があった。

 それは獣人村の子供ミニャニャで、そのまま俺に体当たりを実行する。

 ようし、バッチ来い!


「とーっ」


 ドォン


「ぐふうっ」


 遮断する程でもない痛みを感じる。

 おいおい、また威力が上がってるぞ、タックルに開眼したのか?


「なにやってるんだよ? 大魔王」


 そう言ってミニャニャの後から現れたのは、コガルゥと他二人の獣人子供たちだ。

 全員がリュックを背負い、その隙間からは野菜が顔を出している。


「地下に用事が有ったんだ、皆は畑仕事の帰りかい?」

「ああ、俺達の仕事だからな」


 コガルゥが少しだけ誇らしそうにそう答える。

 大魔王城の裏庭にある畑での仕事は、フェンミィから子供たちへと受け継がれていた。


「そっか、偉いな」

「えらい、えら~い、あははは」


 ミニャニャの頭を撫でて誉めると、嬉しそうに笑った。


 最初の国民である獣人村人の約半数が、大魔王国のいろんな職についてくれている。

 彼らの主な仕事は、俺とフェンミィ、そしてウルバウの手伝いといったところだ。


 残り半数は以前と変わらない生活をしているが、それでも全員が予備役の近衛兵で、定期的な訓練を受けており、いざという時は力になってくれる。


 彼らは既得権益として、旧大魔王領で唯一自由な狩猟を許可されていた。

 といっても他に狩りをしたがる者は居なかったのだが。

 人獣族は奴隷の歴史が長く、狩りの風習が絶えている。

 魔族の住人に狩人は存在しなかった。


 更に革細工の店と食堂を経営しており、両方とも繁盛しているみたいだ。

 王都は非常に景気が良い。


「あっ! なんかこわい人だ!」


 ミニャニャが今更オルガノンに気が付いたようだ。

 オルガノンの顔は知っているようだったが、怖い人呼ばわりなのか。

 まあ、いつも目つきが悪いからなぁ。

 そして、俺から離れて、今度はオルガノンへ飛びついた。


「とーっ」

「ひゃっ?」


 オルガノンが珍しい声を出した。

 ミニャニャがピッタリとしたスーツの腰にしがみついて、ぺたぺたと触っていた。


「あはは、こわーいっ、へんな服~」

「あーっ、私もっ」

「僕もっ」


 コガルゥ以外の獣人子供二人が、ミニャニャと同じようにオルガノンに抱き着いて、その身体を触りまくる。


「ひっ、あっ、ううっ……」


「こわーい、あははは」

「こわい、こわい、へんな服~」

「こわ~い、なんか柔らかくて暖か~い」


 いや、お前ら全然怖がってないだろ?

 まったく……遠慮や躊躇ちゅうちょ微塵みじんも感じられないな。

 オルガノンのスーツがよほど珍しいのか、全員で触りまくっていて止める気配がない。


「ほ、本機に対する接触の中止を要請します!」


「ほんき?」

「ほんき~」

「あははは、ほんき~」


「あ、う、接触の拒否を、うう」


「きょひぃ」

「きょひい?」

「あはは、やわらかーい」


 オルガノンの言葉は、子供達には理解できなかったようだ。

 あ、オルガノンがすごい困ってる。

 止めさせたいのだが言葉が通じず、腕力を振るう訳にもいかないのだろう。

 ただ、おろおろと慌てるだけだ。


 子供と遊んだ経験とかは無いのだろうか?

 頬を染めて、若干の涙目という珍しい表情だ。

 普段はどちらかと言えば有能でクールな感じなのに、こうして戸惑う姿はなんか可愛いな。


 そして彼女は、半べそのとても情けない顔で俺の方を向いた。


「……マスター、救援を要請します」


 もう少し見ていたかった気もするが、ここは直ぐに助けた方が良いだろう。


「ほら皆、お姉ちゃんが困ってるから止めようか」


 ミニャニャ達の頭に触ってそう言うと、素直に従ってくれた。

 子供らに悪意は無いのだ。



 ◇



「……感謝を伝達します」


 子供たちが門の外へと消えた後、オルガノンが疲れたような顔でボソリとそう言った。


「どういたしまして」


 そう笑顔で答えると、彼女の眉間にしわが寄る。


「若干の感謝に変更します。

 復唱します、本機の感謝を若干の感謝に変更します」


 あ、照れてるな。

 どうやら機嫌は治ったみたいだ。

 ありがとう子供たち。

 よし、後はどこへ行くかだな。


「なあ、オルガノン、普段着が欲しいと思った事はないのか?」


 彼女が着ている、子供たちに珍しがられたメタリックブルーのスーツ。

 自分で生成できるみたいだが、いつも同じ格好だ。

 女の子なのだから、可愛い服が欲しいとは思わないのだろうか?


「皆無であると返答します。

 このスーツは、ナノマシン及びマイクロマシンの集合体で、防御力と快適性に優れた、現状では最高の装備であると主張します」


 そう言ったオルガノンは、胸を張りどこか誇らしそうだ。

 そうか、気に入ってるのならそれでいい。

 しかし、そうなるとショッピングも駄目か?


 そうか、漠然と休むっていうのも難しいな。

 なるほど、オルガノンも休めと言われた時はこんな感じだったのかもしれない。

 なんかごめん。


 う~ん……


 今後の予定を考えていると、ふと畑に目が向いた。


 そういえば、この畑は不思議なんだよな。

 大魔王城周辺の土地はとてもせていて、耕作には適さない。

 だが、この裏庭にある畑だけは、なぜか作物が良く育つのだ。


 特に獣人族がなにかした訳でもないそうだが……まてよ?

 オルガノンなら何か知っているかもしれない。


「あのさオルガノン、この畑はどうして作物がよく育つんだ?」

「!」


 彼女は驚いた顔になった。

 あれ何故だ?

 そして、何かを期待するように口を開く。


「マスターの留守中、本機が任務を継続し、土地の肥沃化を研究した成果であると報告します」


 そう言って黙ったオルガノンは、じっと俺の反応を待っていた。

 え? いや、なにを期待されているんだ?

 分からない。


「そ、そうなんだ凄いな、うん、大したものだ」


 結局、当たり障りのない返答しか出来なかった。

 答えを聞いたオルガノンは分かりやすく落胆した。

 どう答えれば良かったんだろう?


 でも凄いと思ったのは本当だ。

 この技術なら、城下町の周りを畑に出来たのだ。

 残念ながらもう舗装してしまったが……


 いや、待てよ?


「なあオルガノン、せっかく研究したんだ、外周都市の外側に畑を作ってみないか?」

「!」


 オルガノンが目を見開いた。

 そして、すぐに嬉しそうなジト目となって言う。


「賛成です! 本機はマスターの提案に賛成し、強く支持を表明します!」


「よし、これも明日の会議に提出してみよう。

 反対される事も無いだろう。

 それと……今から下見に出かけないか?」

「賛成します!」


 オルガノンはとてもやる気になってくれたようだ。

 よし、なんかいい感じだ

 天気は悪くない、軽いピクニック気分で出かけよう。

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