第百十話 フェンミィとの初夜

「さて、私はそろそろ眠るとしよう。

 バン、フェンミィ、二人も寝る時間ではないのか?」


 ワルナがそう言って立ち上がると、フェンミィの側に来て飲んでいたガールルが同意する。


「そうよ! そう! 忘れてたわ! 初夜なのよ!」


 とても大きな声だった、辺りに響いて注目を集めている。

 ガールルも立ち上がって、フェンミィをうながす。


「こんなところで食べてる場合じゃないでしょ、フェンミィ。

 ほら立って、その欲求不満で毎晩持て余してるエッチな身体を、やっと慰めてもらえるのよ! 今日! これから!」


 ガールルに腕を引かれ、立たされたフェンミィは、真っ赤な顔で慌てている。


「ちょっ、やめてよルル姉っ、そんなっ、あ」

「さあ、行くわよ! まずはお風呂ね」


 ガールルがフェンミィの手を引いて城へ向かう。

 

「よっ、頑張れよフェンミィ!」

「可愛がってもらうんだぞ」

「孕ませてもらいな」

「うんうん立派になってまぁ」


 獣人村人から声援が飛び、更に注目を集めるフェンミィ達。

 なんだろう、この公開処刑は。


「ありがとう、ありがとう、今日、この子は女になります。応援してねっ」

「……え……ええええええ?」


 ガールルが手を振って皆にこたえ、フェンミィはひたすら狼狽うろたえたまま引きずられていく。

 最後は満場の拍手が沸き起こり、それに送られて二人は城の中へと消えていった。


「バン、貴公も風呂へ入って準備を整えろ。花嫁を待たせるものではないぞ」


 ワルナがにやりと笑ってそう言った。


「分かった、ココ」

「あいっす」


 俺は側で控えていたココに、膝上で眠るサティを手渡した。

 アムリータは黙って俺から身体を離し、にっこりと笑う。

 夜の生活については既に話し合われていて、一日交替で王妃の寝室を俺が訪れる事になっていた。

 今日はフェンミィの番だと決まっているのだ。


 俺が立ち上がると、辺りから声援が沸き起こる。

 そうか、俺もか……


「頑張ってください、お優しい王様」

「若くて美人の嫁さんがうらやましいですよ、大魔王様」

「ヒューヒュー」

「応援してますっ」

「王様、がんばれー」


 なるほど、これは恥ずかしい……。

 フェンミィが真っ赤になって狼狽うろたえるわけだ。

 俺は笑顔で手を振りながら、その場から逃げ出した。



 ◇



 コンコンコン

「き、来たんだが、フェンミィ」

「は、はい、どうぞ……」


 風呂で念入りに身体を洗った俺は、フェンミィの寝室へとやってきた。

 許しを得たので、ドアを開けて中へ入る。


 ガチャリ


 ふわっと甘い匂いのする部屋には、白い大輪の花が咲いていた。

 フェンミィがウエディングドレスに着替えていたのだ。


「ええと……なんでウェディングドレスを?」


「ルル姉が、盛り上がるからこれで行けと……ど、どうですか? あなたの花嫁ですよ?」


 そう言って、頬をそめたフェンミィが上目づかいで俺を見た。

 可愛くて色っぽい、ルル姉、グッジョブだ。

 俺は心の中でサムズアップをする。


「ただ、コルセットは簡単に縛っただけで、しかもお腹がきつくて長くはもちません……は、早めのお召し上がりを……」

「分かった、フェンミィ」


 ウエディングドレスの狼少女を抱きしめると、風呂上りのとても良い匂いがする。

 俺が顔を寄せると、フェンミィは息を止め目を閉じた。


 二人の唇が合わさる。


 ああなんて柔らかな感触なんだ、それだけでとろけそうだ。

 もう止まらない。

 俺は彼女をベッドへと押し倒した。

 フェンミィが恥ずかしがって言う。


「……あ、あかりを消してください」 

「え? もったいないから嫌かな?」

「えええ……んっ……」


 俺は彼女の唇をふさいで、それ以上の言葉を紡がせなかった。

 


 ◇



「すまんフェンミィ、乱暴すぎたかな?」


 欲望のままに彼女を求めて、その体内に三回も放ってしまっていた。

 フェンミィは初めてだったというのにだ。

 シーツにはその証がしっかりと刻まれている。


「だ、大魔王さまはどうだったんですか?」


 裸の身体に掛け布団を引き上げ、口まで隠したフェンミィが恥ずかしそうにそう聞いた。


「よ……良かったです、もの凄く、ごちそうさまでした」


 俺は男なのだから最初から気持ちよくて当然だ、けれど君は……


「なら、私も満足です。こんなの痛いうちに入りませんよ?」


 そうだよね、君は大けがとかしてたよね。

 ごめん、すごく苦労をかけてます。


「その……肌を合わせるだけで、とても満たされる気がします。

 強く求められてるのもすごく嬉しいですよ」


 そう言って、照れたようにフェンミィが笑った。



 ◇



「私たちの願いは叶ったんでしょうか? 大魔王様。

 これで、戦争も犯罪も起こらない、誰も理不尽に殺されたりしない、全ての人々が苦しまず幸せに暮らせる世界になるんですよね?」


 部屋の明かりを消して、俺とフェンミィは手をつないでベッドに並んで寝ていた。


「ダイバダ閣下は、それに近づける事しか出来ないと言っていた。

 そして、むしろこれからが本番で、その後に維持するのは更に難しいとも言ってたな」


 俺は、口は悪いが誠実で優秀な男の顔を思い浮かべる。


「だが、最後には高らかに笑い、儂に任せておけとも言っていたよ。

 うちの宰相閣下は頼りになるからな。

 残された俺の仕事は、最強最悪の軍事力として怖がられる事くらいかもしれない」


「そうですよね、良かった、本当に……」


 フェンミィは心から安心したような声でそう言った。


「でも、もしもいつか、また大魔王様が傷つくような事があっても私が居ますよ。

 ずっと一緒ですから」


 そう言ったフェンミィが、ぎしりとベッドを軋ませて俺にピッタリと身を寄せた。

 う……どうして好きな人の肌って、こんなに気持ちが良いんだろう?


「うっ」


 また、したくなってしまった……。


「あ!」


 フェンミィにそんなつもりは無かったようだが、俺の変化には目ざとく気が付いた。

 俺の耳に、フェンミィが口を寄せる。


「あの……いいですよ、何度でも大丈夫ですから。

 大魔王様がしたい時に、したいだけ、してください。

 もう私は、あなたのものですよ?」


 そして、そんな風にささやかれてしまった。


 もちろん我慢できる筈も無く、俺はフェンミィを抱きしめた。

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