第百八話 結婚式典

『これより、大魔王陛下の結婚式典を開催する。刮目せよ!』


 魔法により複製分散、及び増幅された音声が城下町の周囲で響く。

 同時に、昼だというのに周囲が夜のように暗くなる。

 大魔王国近衛兵団の魔術師部隊による幻覚だ。

 ざわめいていた観客たちが、何かが起こる予感にシンと静まり返る。


 俺と三人の花嫁、そしてウルバウを始めとした式典のスタッフ数名は、大魔王城のバルコニーに居た。

 そして城の他のバルコニーや庭には、招いた各地方の領主達が居る。

 もちろん全員出席していた。

 彼らには新たに創設された爵位、『領王りょうおう』が与えられている。


 数百のイナズマが轟音と共に暗い空から、人で埋め尽くされた城下町の周囲へと落ちる。

 おいおい幻覚に見えないぞ、大丈夫なんだろうな?

 近衛の魔術師達はアルタイ師匠とサティの指導をうけて、幻覚を始めとした様々な術式を、かなりの高レベルで扱えるようになっていた。


 上空からひときわ大きなイナズマが大魔王城に落ち、その場に身長三百メートルはあろうかという俺の竜形態が現れる。

 もちろん幻覚だが、大きさ以外は本物と区別がつかない程の出来だった。


 うおおおおおおっと観客から、地鳴りのような歓声が上がる。


 この世界では幻覚による演出は珍しくない。

 だが、これ程の高さに届く幻覚は前代未聞だそうだ。

 ダンジョンからの魔力に左右されない、人獣族が多い大魔王国の近衛兵団だからこそ出来た芸当なのだ。


「ふははははっ、よく来たな愚民ども! この俺様がお前達の支配者である大魔王だ、見知りおけっ!」


 観客の歓声に負けない巨大大魔王の声が轟く。

 かなり馬鹿みたいなしゃべり方だが、この方が伝わりやすいと言う事で採用されていた。


 ギャオーンッ


 天に響き渡る鳴き声とともに、全長一キロ以上はありそうな超巨大ドラゴンが地平線の彼方から現れる。

 もちろん幻覚だ。

 緊迫感のある音楽があたりに鳴りひびく。

 ドラゴンが吐いた大迫力のブレスを、竜形態の巨大俺が片手で蹴散らし、電磁投射機から撃ち出す散弾で反撃する。


 ズドォォン


 幻覚の巨大ドラゴンは派手な爆発とともに消えた。


「逆らう者はいっさいの容赦なく殺す!

 だが、従う者には庇護と繁栄を約束してやろう。

 この俺様について来るがよいぞっ、愚民どもっ!」


 うおおおおおっ


 再び大歓声を上げる観衆の後ろから、今度は巨大なフェンミィとそれを追うリザードマンの幻影が現れた。

 幻影の俺は、リザードマンを一蹴してフェンミィを助ける。

 そのまま巨大な幻影達による、大迫力の野外演劇が始まった。


 俺が魔族を征服するまでの軌跡をねつ造した、ピカレスクな感じでダークな英雄譚が繰り広げられる。

 自画自賛のあざとい物語だが、観客の反応は良好のようだ。

 

 本物と見まごう程に、幻覚の出来が素晴らしい所為だろうか?

 お、巨大なフェンミィがこちらに走って来た。

 可愛い……けどでかいな! 凄い迫力だ。

 俺達が居るバルコニーをまたいだ。

 あまりにリアルすぎて、踏みつぶされそうで怖い。

 俺は真上にそびえる巨人を見上げる。


「あ……」


 空を覆う巨大なスカートの中心で、幻覚巨人フェンミィの下着が丸見えだった。

 凄いな、こだわりを感じるような作りこみだ。ちゃんと茶色いぞ、いつの間に調べたんだろう?


「え? あ……あああ、あ、えええ?」


 フェンミィが絶句し俺の顔を見た後、上空の巨大パンツを指差す。

 見る見るうちに、その頬が赤くなっていく。


 うん、気持ちは分からなくもないが、ここで演劇を止める訳にもいかない。

 ごめん俺も知らなかったんだ、諦めてくれ。



 ◇



 巨大な幻覚による演劇は大好評のまま、幕を閉じた。


 次は指輪の交換だ。 

 俺はバルコニーで三人の花嫁に指輪をはめる。

 見た目は平凡なシルバーリングだが、魔法の産物で強力な護符になっており、装着者の変化や成長に合わせてサイズを変化させる優れものだ。

 俺の指にもフェンミィがつけてくれたのだが、戦闘形態にもちゃんと適応してサイズを変えることができる。


 この世界には結婚指輪の風習は無かったが、花嫁達には大好評で、特にアムリータが感激で泣き出した。


「大切にしますわ、命よりも大切に……ぐすっ」


 そう言って、左手の薬指につけられた指輪を胸に抱く。

 いやいや、頼むから命を大切にしてくれよ。

 その為の指輪でもあるんだ。


 一連の儀式は、巨大な幻覚として周囲に投影されているので、集まった観衆もしっかりと見る事が出来た。

 アムリータの涙に、もらい泣きしている者もいるようだ。


 最後に、竜形態になった俺と花嫁三人は、近衛の魔法で空を飛ぶゴンドラに乗り、城下町の周囲を飛び回った。

 俺達が手を振るたびに大歓声が巻き起こる。


 ちょっと熱狂的すぎないか?

 俺のイメージは悪の大魔王で、征服者で支配者の筈なんだが。


 それなのに……いや、ここに居るのはわざわざ並んでまで来てくれた人達だ。

 この過酷な世界で苦しんできた者が多いのではないだろうか?

 ともかく頑張って彼らの期待に応えよう。

 俺は手を振りながらも決意を新たにした。



 ◇



 国民向けの式典が終了し、大衆の帰宅が始まった。

 数多の転移ゲートがあるとはいえ膨大な人数だ、移動が完了するのは夜になることだろう。


 人型に戻った俺と花嫁達は、各地方領主『領王』との謁見をこなし、心にもないお世辞と贈り物を受け取った。



 ◇



 そして夜になると、大魔王城のあちこちで祝賀パーティーが開かれる。

 貴族たちは城のホールなどに集まっていたのだが、俺は大魔王城前庭の焚き火を囲んだ宴会に参加していた。

 もちろん三人の妃も一緒だ。


「よし、みんな、酒と食い物はいきわたったね?

 それじゃいくよ、大魔王様、王妃様、おめでとう」

「おめでとう」


 ウミャウおばさんの音頭で、集まった皆が手に持った酒を掲げ、俺達の結婚を祝福してくれた。

 かなり広い筈の前庭は、いくつもの焚き火とそれを囲んだ人で埋まり、入りきれない者たちは別の庭で焚き火を囲んでいた。


「大魔王様の意向で、こっからは無礼講だ。さあみんな、飲んで騒いで祝おうじゃないか」

「おおーっ!」


 ウミャウおばさんが、盛大な宴の始まりを告げた。

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