第百七話 花嫁フェンミィ

「よっ、来たね、大魔王様」


 フェンミィが待つ部屋の扉を開けると、ウミャウおばさんが陽気な声でそう言った。

 うっ、部屋の中が猛烈に酒臭い。


 その部屋には百人近い獣人村人と、大魔王国の近衛兵が居たのだが、大量の酒が持ち込まれ全員が酔っ払っていた。


「さあ、こっちへおいで大魔王様」


 すでに出来上がっているらしい村長ウミャウおばさんに招かれて、俺は部屋の奥へと進む。


「ご、ごめんなさい、と、止められませんでした……」


 真っ白なウエディングドレスを着たフェンミィが、済まなさそうに小さくなってそう言った。

 しおれた耳が可愛いな。

 膨らんだスカートに隠れて見えないが、椅子に座っているようだ。

 彼女はこの部屋で儀式の後、俺の正妃となる……予定だった。


「なに言ってんだい、めでたい日なんだ、これで良いんだよ。

 さあ、あんたもお飲みよ大魔王様、ほらほら」

「飲んだ飲んだ」

「そうそう」

「良い酒だ、うん、めでたいなぁ」

「ぐっといこうか、大魔王様」


 ウミャウおばさんに、地酒がなみなみと注がれたグラスを渡され、獣人たちが飲むように促してくる。


 もう飲まないと収まらない雰囲気だった。

 しかたないなぁ。

 俺はグラスを一気にあおる。

 改造人間の身体は便利なもので、アルコールを脳には回さず、すぐに分解した。


「おお~」

パチパチパチパチパチ


 その場の皆から歓声があがる。

 獣人村人はともかく、大魔王国の近衛兵はなにをやってるんだか。


「あたしがね、どれだけこの日を待った事か……。

 この子にもう一度家族が出来て、ちゃんと幸せになる日がきたんだ。

 心から嬉しいよ、肩の荷が下りた気分だ、ありがとう大魔王様」


 ウミャウおばさんが、そのごつく大きな手で俺の両手を包み込んだ。


「ウミャウおばさん……」


 フェンミィが目を潤ませながらそう言った。


「おめでとうフェンミィ」

「おめでとうよ」

「あの子が、いつの間にか大人になってまぁ」

「ほんと、綺麗になったよぉ」

「おめでとう」


「あ……ありがとう、みんな……」


 次々と獣人村人に声をかけられ、フェンミィが感極まる。

 式の段取りは台無しになっていたが、この方が獣人らしいだろう。

 良い雰囲気だ。


「おめでとうフェンミィ、本当によかったわね」

「あ……ありがとう、ルル姉、うっ」


 獣人姉さんガールルがフェンミィの肩を抱いて祝福する。 白いドレスの花嫁は、今にも泣き出しそうになった。

 まるで仲の良い本物の姉妹みたいだな。

 ガールルが祝いの言葉を続ける。


「これで夜中にひとりで悶々として、眠れない事もなくなるから」

「うん、うん、もう悶々としなくても……え?」


 泣き出しそうだったフェンミィが固まった。


「自分では上手く慰められなくて、一人エッチのやり方を聞きに来られた時はどうしようかと思ったもの。

 今日からは、そのいやらしい身体を持て余さなくてすむわよ。

 よかったわね」

「な゛っ……ななななぁ……」


 一人エッチだと?

 というか、なにを言い出したんだろうなぁ、この姉貴分は……。

 よくみるとガールルの目がすわっている。

 そうとう酔っているみたいだ。


「大魔王様も! 他人事じゃないでしょう?」


 う、ガールルが俺と目を合わせてそう言った。


「ぬいぐるみ事件の時にあれだけの事をしておいて、一月半も放っておくとか、プレイなの? ドSなの?

 女にも性欲はあるのよ? この子が毎晩どんな感じだったか詳しく教えてあげましょうか?」

「やめて、ルル姉! もうやめてぇ! ひ、秘密だっていったのにぃ……う……ううう、うわぁぁーん」


 フェンミィが、さっきまでとは全く違った意味で泣き出した。


「あっはっは、今夜はたっぷり可愛がってもらいなフェンミィ。

 ばんばん股を開いて、ぼろぼろ子供を産むといいさね」


 ウミャウおばさんが、豪快に笑いながらそう言った。

 ガールルもケラケラ笑い、フェンミィは真っ赤になって泣いている。


 困った。

 どうすればいいんだろうなぁ? これ?

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