第百話 獣人傭兵団とフェンミィ

「大魔王陛下のおなりである」


 そう言ったのは、人型バッファローのような戦闘形態をしたロサキだった。

 ワルナには内政の会議に参加して貰っている。


 婚約を決めた日の午後、俺はまた、呼びつけた各国の王を相手にしていた。

 呼び出しは、大魔王国からの距離によって段階的に分けられており、道中の安全は近隣の国王改め地方領主に保障させた。


「許す、おもてをあげろ」


 尊大な態度が少しは上手になっただろうか?

 俺がそう言うと、ひざまずいていた各国の王が頭を上げる。


 前回に比べると、皆落ち着いているように見えた。

 情報はうまく広がっているようで、いきなり殺されたりせず無事に帰れる事が分かっているからだろう。


 出席率は更に良くなっており、来なかったのはたった一国だけだった。

 それは滅亡したバルハ王国と軍事同盟を結んでいた、軍事大国らしいホグトバ王国だ。


「喜べ、お前達にも面白いショーを見物させてやれるようだ」


 俺は各国の王を連れまわし、竜形態の圧倒的な力を見せつけてホグトバ王国を解体した。

 さすがに大国で、軍隊を壊滅させるのに翌日の午後までかかった。

 もちろん徹夜の強行軍などではなく、ちゃんと食事と睡眠は提供した。


 全ての決着がついた後、元ホグトバと隣接した国の王改め地方領主達には、望むままに領土を割譲かつじょうした。


 最後に、領地へ帰ったら今回の出来事を広め、俺を称える様に命じたので、情報は更に拡散したはずだ。



 ◇



 翌日の朝、黒しっぽ傭兵団がシャムティア王国へ帰る事となった。 

 大魔王国では傭兵としての仕事は終えていて、頼める雑用もほぼ無くなっていた。

 またシャムティア王国に雇われて、人族との境界にある最前線へ戻るそうだ。


 大魔王城の前庭で、五十名以上の獣人傭兵団を俺とフェンミィとワルナが見送っていた。

 傭兵団のガブリ団長が、俺の顔を見て呆れたように言う。


「しっかし、大魔王陛下がこの調子で魔族を征服したら、俺達は飯の食い上げだな」

「その時は別の仕事を斡旋あっせんできると思うよ、ガブリ団長」


「大魔王様よぉ、そりゃ死体の処理じゃねえだろうなぁ?」


 たしかグオゥという名だった大柄の獣人傭兵が、不機嫌そうに言った。

 黒しっぽ傭兵団も、進んで死体の処理を手伝ってくれていたのだ。


「ああ、もう少しマシな仕事を考えておくよ」

「頼むぜ、いくら金払いが良くても、あの臭いがよぉ……」


 グオゥがしかめっ面をして鼻をつまんだ。


「なんなら当家で全員を雇っても良い、仕事は護衛と治安維持だ」


 ワルナがそう言って笑った。

 新領地を得ているリトラ侯爵家の台所事情は、とても良好だそうだ。


「いいのかお姫様、本気にするぜ?」

「もちろん、大歓迎だ」


 ガブリ団長とワルナが笑い合う。

 この二人はとても親しそうだ。


「食いっぱぐれたら押しかけさせてもらうぜ。

 よし野郎ども、懐かしの戦場へ向けて出発……」

「あ、あの……みなさん、ありがとうございました」


 今まで俺とワルナの後ろに居たフェンミィが、前に出てきて傭兵団に頭を下げた。

 出発しようとしたタイミングで、どうにも間が悪い感じだった。


「ああん? なんだテメー? 馴れ馴れしいんだよ。

 てか、その耳はなんだ?

 おいおいおい、オムツでもつけてるんじゃねーのかぁ?

 初めて見たぜ、その年でよぉ」

「がははははは」


 グオゥと獣人傭兵団にフェンミィがあざ笑われる。

 悪い奴らじゃないんだが、どうにも言葉が汚い。

 とはいえ、この程度で今のフェンミィは動じないだろう……と、思っていたのだが、彼女は両目に涙をいっぱい溜めていた。


「おいおい、泣いちまうのか? こりゃマジでお子様だな」

「がははははは」


 グオゥにそう言われて、フェンミィは悲しそうに笑った。

 今にも涙がこぼれそうだ。

 いかん、止めた方がいいな。 


「よせグオゥ、只者ただもんじゃねーぞ、このガキ。

 オメーにもそんくらい分かんだろ?」

「ちっ」


 俺より先にガブリ団長がグオゥを止めてくれた。

 そのままフェンミィに話しかける。


「お前だろ? 一人で敵陣へ突っ込んで生きて帰って来たって奴は。

 凄げえな、その歳で」

「はい、私を鍛えてくれたのが、とても強くて面倒見の良い人でしたから」


 答えるフェンミィは少し涙声だ。


「そうかい、世の中はひれえな。名前を聞いていいか?」

「フェンミィです」


 ガブリ団長は豪快に笑う。


「覚えておくぜフェンミィ、お前を敵に回さねえようにな。

 俺の名前は……」

「知ってます、ガブリ団長。よく……知ってます」


 フェンミィは嬉しいのか悲しいのか、よく分からない笑顔でそう言った。


「そうかい。じゃあなみんな。行くぞ野郎どもっ!」

「おうっ」


 黒しっぽ獣人傭兵団は馬より早い徒歩で、大魔王城を出発した。

 当然のごとく一度も振り返らない。


 その後ろ姿を、フェンミィが目に焼き付けるように見つめていた。



 ◇



 改造人間である俺の目でも傭兵団が見えなくなった頃、フェンミィがこちらを向いた。

 少し涙ぐんではいたが、ちゃんと笑顔だった。

 そして、やや上目づかいになって言う。


「大魔王様、抱きしめてもらっていいですか?」

「え? あ、うん」


 なんだか様子のおかしかったフェンミィを、俺はしっかりと抱きしめる。

 柔らかいな、良い匂いだなぁ、ああ、朝っぱらから変な気持ちになりましたよ?


「ふっ」


 ワルナが呆れたように笑って城の中へと戻る。


 俺達はしばらくそのまま、大魔王城の前庭で抱き合っていた。

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