第九十六話 元官僚ダイバダ

 残りの領土問題も無事解決し、近場諸国の王を帰した日の夜遅く、アムリータ王女が馬車を連ねて戻って来た。

 もう帰って来たのか。

 ベッドから飛び起きた俺は、労をねぎらう為に大魔王城の正面玄関へ駆けつけた。


「大魔王陛下、ただいま戻りましたのですわ」


 かなりの強行軍だっただろうに王女は笑顔で俺を迎え、そして、その後ろに立つ初老の男を紹介する。


「陛下、こちらはシャムティアの元官僚で、ダイバダ様と申す方ですの。

 ダイバダ様、こちらが偉大なる大魔王陛下ですわ」 


 元官僚らしいダイバダという男は、人型の俺と変わらないくらいの身長だった。

 だが異常に痩せて頬がこけており、大きくぎょろりとした目で俺を睨んでいる。

 どこか狂気を感じるのは気のせいだろうか?


「今更この老いぼれに用があるという物好きは貴様か?」

「ダイバダ様はご偏屈でお口が悪いのです、どうかご容赦くださいませ陛下。

 その所為で失脚なされてからは、更に辛辣しんらつにおなりですわ」


 元官僚ダイバダの、まったく敬意を払わない態度をアムリータがフォローする。


「ふん、偏屈で悪かったの。

 貴様も相当に口が悪くなったぞ、グリシャの小娘め」


 ダイバダはアムリータをぎろりとひと睨みした後、再度俺の顔を睨んで話し出す。


「伝説の大魔王だと? 

 胡散臭い!

 なんだその人形は!

 幼い子供と同レベルの、幼稚な王だと宣伝しておるのか?

 正直だが愚かな事だ!」


 人形? ああ、慌てていたのでフェンミィを抱いたままだった。


「ダイバダ様、大魔王陛下は疑うべくもない本物の伝説ですのよ。

 胡散臭くなどありませんわ」

「ふん、気に障ったのならばわしを殺すがいい。

 今更この世になんの未練もないわ」


 ええええ……大丈夫なのか? この人……。


「口先だけですわ。

 わたくしの誘いに乗って、こんな遠くまでいらっしゃったのは何故ですの?

 まだくすぶっておいでなのですわ」

「ふん、小娘が、知った風な口を」


 そう言われればそうだ。

 なるほど、この人はツンデレとかそういう感じなのか?


「大魔王陛下、ダイバダ様の手腕はわたくしが保証いたしますわ。

 戦費がかさむシャムティアの財政を立て直したお方ですの。

 そして、一切の妥協や容赦をなさらない方ですわ」


 アムリータはどこか懐かしそうな笑顔でダイバダを見る。


「わたくしが奴隷の首輪廃止を訴えて回った時に、お父様をはじめ、全ての方々が適当にあしらいましたの。

 けれどダイバダ様だけは、正面から徹底的に論破してくださいましたわ。


 わたくしの考えがいかに甘くて愚かなのか、

 衆人の前でわたくしが泣き出しても、一切の容赦なく延々と自説で打ちのめしましたのよ。

 それは近衛兵が取り押さえるまで、いいえ 取り押さえながらも続きましたわ」


「世間知らずで生意気な子供を打ちのめすのは、大人の役目であるからな。

 王女となればなおのことだ、容赦などできぬ」


 大人げないな!

 だがアムリータはどこか嬉しそうだ。


「悔しくて、思い出すたびに涙がでましたの。

 けれどそのおかげで、本を沢山読んで勉強しましたわ。

 いつか、不可能ではないと思い知らせて差し上げるつもりでした」


 そしてアムリータ王女は、掌で俺を紹介するように示して言う。


「ご覧くださいませ。

 伝説の大魔王陛下は、奴隷の首輪を嫌われておりますの。

 この世界から、あの忌まわしい首輪を無くすお考えでしてよ。

 わたくしの勝ちですわ」


 元官僚ダイバダは、ぎろりと俺を睨む。


「ええ、アムリータ王女の言う通りです。

 首輪は廃止して、いずれ奴隷制度も廃止します」


 俺の答えにダイバダはかぶりを振る。


「本気なのか愚かなる王よ? 労働力をどうする? 捕虜は? 犯罪者は?

 民があれほど便利な物を捨てられると思うのか?

 長い混乱が続くぞ、そして多くの不評を買うだろう」


「俺は力ずくで魔族を統べるつもりです。

 逆らう者は腕力で黙らせます。

 大魔王は恐ろしい侵略者で、暴君だ。悪者に不評など当たり前ですよ」


 ダイバダは、その狂気を宿した瞳で俺を睨む。

 俺はとりあえず睨み返してみたが、これでいいのかな?


 しばらく睨み合った後、ダイバダは視線をアムリータに向ける。


「他力本願!

 しかも大魔王などという、伝説の存在を当てにするなど笑止千万!


 だが、実際に成就じょうじゅしたのであれば是非もなし!

 負けを認めよう。

 不可能と言った言葉は撤回するぞ、アムリータ王女」


「や、やりましたわっ!」


 アムリータ王女はガッツポーズだ。

 心から嬉しそうだな。


「く……くくくっ、儂が、この愚かな王と小娘のままごとを、確かな現実の国家へと変えてやろうっ! ありがたく思え! くくくく、くくっ、ふはははははっ」


 ダイバダは高笑いを始めた。

 なんとアムリータ王女よりも嬉しそうだ。

 だから大丈夫なのか? これ?


「え、ええと、とりあえずよろしくお願いします?」


 それでもアムリータ王女が選んだ人なのだ、俺はとりあえずダイバダに頭を下げた。

 そして、嬉しそうな二人の後ろで、所在なく立ち尽くす人達を見る。

 そこには、見慣れた騎士ナルストや王女の騎士と護衛以外に、二十人程の見知らぬ中年が居た。

 小奇麗な私服を着ていて、兵隊といった感じじゃない。


「後ろの人達はどなたです?」


 俺がそう言うと、アムリータ王女が答えてくれる。


「シャムティア王国から、援助がしたいとの申し出がございましたの。

 全員が様々な内政の専門家ですわ。

 色々と目論みはあるのでしょうが、今の大魔王国にとってなによりも必要な人材でしたので、陛下のご判断に委ねようと連れてまいりました」


 高笑いをしていたダイバダが口を挟む。


「大魔王を恐れてのことだ。

 恩を売り、この国の内部に深く根を張るつもりだぞ。

 外国人を政治に参加させるなど最悪の愚行!

 確実に国を乗っ取られるぞ!」


 えええ~、そんな事を言われても、自国の国民だけではお手上げ状態なんですが。

 そしてダイバダさん、あなたも外国人ですよね?


「くくくっくっくっ、だが安心しろ大魔王、このわしがそうはさせん!

 なに、どいつもこいつも不勉強な未熟者どもだ。

 倒れるまで酷使し、使いつぶしてくれる。

 儂の国を、シャムティアに都合よく歪められると思うなよ、小僧共がっ! がっはっはっはっはぁ」


 儂の国? ええと……とても不安なんだけど?

 本当に任せて良いのだろうか?

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