第九十五話 蹂躙
「な……なんという事でしょう、ここは……」
元ルチアス女王が目を見開いて驚く。
一気に瞬間移動でとんだからな、無理もない。
俺は他の元王様たちと護衛、そしてロサキを連れて、元ルチアス王国とバルハ王国の戦う最前線に居た。
ルチアスは王都の近くまで侵攻されていて、滅亡寸前といった感じだ。
元ルチアス王国の小さな砦をバルハ王国が攻めていた。
戦力差は
「ロサキ、領主達と護衛を守れ、死守だ」
「はい大魔王陛下」
俺はみんなから少し離れて思考加速装置を起動する。
「加速」
――オーバークロッキン スタートアップ――
そしてそのままバルハ王国軍の後衛へと向かう。
後衛の人数から推測される敵兵の総数は、一万人未満だろう。
このくらいの数なら、一人も殺さずに無力化できるだろうか?
ともかく戦意を喪失させよう。
敵後衛の中に飛び込んだ俺は、魔術師達の手や足を一~二本づつ破壊して進む。
魔法治療師らしき存在は攻撃しない。
レーザーで丁寧に止血する余裕はないので、失血死する前に治療して欲しいと思っていた。
◇
「分かった、降伏する」
砦を攻めていたバルハ王国軍の司令官が、元国王達の前でそう言った。
彼の背後では約三分の一を戦闘不能にされ、完全に
攻撃は全て俺の身体で受け、なんの効果も無い事を見せつけながら戦ったので、敵の士気は最低だった。
「よし、お前らは速やかに自国へ退却しろ」
損害は大きいが魔法の存在する軍隊だ。
馬車も多数見受けられるし、撤退は可能だろう。
「え? あ、はい大魔王陛下、ありがとうございます」
捕虜にされると思ったのであろうバルハ王国軍の司令官が俺に礼を言った。
「お待ちください大魔王陛下! それでは回復した敵兵がまた攻めてまいります!
それに、被害の賠償を求めたい!」
元ルチアス女王は不服のようだ。
「安心しろ、お前の領地を侵す敵国は今日、この地上から消滅するぞ。
それと、復興は援助してやろう」
「はっ?」
俺は呆けた様な間抜け顔になった女王に向けて、にやりと笑った。
◇
「なぜ俺の呼び出しに応じなかった?」
「くっ、はな……せ……」
俺はバルハ国王の頭を、片手て掴んで持ち上げる。
小太りな男で、完全に持ち上げると首が折れそうだったので、つま先が床に残る程度でとめておいた。
ここはバルハ王国の王城で、俺は城内の兵士を全て無力化してから、元国王達をつれて乗り込んでいる。
「もう一度だけ聞いてやるから心して答えろ、なぜ呼び出しに応じなかった?」
俺はそう言いながら、少しだけ頭を握る手に力をこめる。
間違って潰さないように細心の注意をはらっていた。
「いっ、痛いっ、止めろっ、わかっ、分かった、答えるから、下ろせっ、下ろしてくれっ」
俺は頭を掴んでいた手を離す。
ドシンッ
「ぐぶっ」
バルハ国王は尻もちをついた後、床に座ったまま俺の顔を睨みつける。
「おのれぇ……無礼者めぇ。
誰がいまさら不変の約定などという、大昔の遺物を守るというのだ。
無効に決まっておる、この醜い化け物め」
お、意外に元気だな。
言っている事も間違ってないだろう、だが馬鹿だ。
目の前で護衛の兵士達が倒れるのを見ただろうに。
もう誰にも守られていないんだぞ?
「余にこのような事をしてただで済むと思うなよ?
我がバルハ王国は、大国ホグトバと軍事同盟を結んでおるのだ。
貴様などひとひねりだぞ」
う~ん、この人は交渉相手に向かないな。
どうせ呼び出しに応じなかった王家は解体する予定なのだ。
退場してもらおう。
「汚らしい鳴き声だな、聞くに堪えん、加速」
俺は思考加速装置を起動した後、瞬間移動でバルハ国王を大魔王城の牢屋へと運ぶ。
ここもオルガノンによりちゃんと整備されており、バストイレ付きで冷暖房完備と意外にも快適な住み心地が保たれている。
そして、間を置かずに自分だけ元の場所へと戻る。
「誰かまともに話せる奴はいないのか?」
思考加速を解き、俺が周りを見回してそう言うと、家臣の一人が恐る恐るといった感じで口を開く。
「こ……国王陛下はどこへ?」
「消した、魂ごとな」
「ひっ」
ザワザワ……
怯えた声が聞こえる。
もちろん嘘なんだが全員が信じたようだ。
お、連れ回してる元国王達も顔が真っ青だ。
良い傾向だ。
「次に偉い奴を出せ。
さもなくば、端から順番に殺していくぞ」
俺がそう脅すと、国王の行き先を尋ねた男が口を開く。
「わ、私が宰相をつとめております、大魔王陛下」
良かった、この人は話が通じそうだ。
「よし、たった今、お前たちの国は滅び、ここは大魔王国の領土となった。
俺に従うなら王族以外の貴族は身分を保証してやる。
安心しろ。
後ほど代官を寄こす、俺の命令だと思って従え。
逆らう奴は国王と同じ目にあってもらうぞ」
「し、しかし大魔王陛下、我が国の同盟国ホグトバが黙っておりません……」
さっきから度々名前の出てきたそのホグトバだが、たしか明後日を期限として国王を呼び出してあるはずだ。
「かまわん、その国も二日後には我が国となっている」
「は……はぁ」
宰相は事態が飲み込めてないようだが、今はどうでもいい。
「元ルチアスの女王」
「……はっ、はい」
事態が飲み込めていないのはこっちも同じようだった。
「戦争の発端はなんだった?」
「りょ、領土問題です。
不当に占拠されていたルホン川の西部に対して行われた、我がルチアス軍による奪還作戦です」
女王の方から仕掛けて負けたのか。
「言いがかりだ、ルホン川西部は古より我らがバルハ王国の領土だ」
「いいえ、あの土地は元々ルチアスの物です」
宰相と元女王の口論となったが、正当性なんかどうでも良い。
「黙れ二人共。
元ルチアス女王、お前が望む領地はどこまでだ?」
「ルホン川せ……いいえ、東部の穀倉地帯も
欲張ったなこの女、だが好都合だ。
大魔王国に従った方が得だと、分かりやすくなるだろう。
「いいだろう、そこまでをお前の領地としよう」
「あ……ありがとうございます、さすがは伝説の大魔王陛下」
「そ……そんなバカな……」
「ひいっ」
「恨むなら、俺の呼び出しに応じなかった愚鈍な王を恨め。
いいか? 心に刻むのだ。
統治が面倒だから、お前たち貴族を生かしておいてやるだけだ。
逆らうなら、別に皆殺しにしてもいいのだぞ?」
宰相は可哀想なほどに怯えて震えだした。
ごめん、頭を掴むのはやりすぎだったかな?
俺はそっと宰相の頭を放して言う。
「後日、国王の一族を全て差し出せ、大魔王国で処刑する」
嘘だった。
従わなかった国の王族は、大魔王国で平民として生活してもらう予定だ。
「よし、大魔王城へ戻って解散だ」
俺が連れてきた元王様にそう告げると、そのうちの二人が膝をつき頭をさげてしゃべりだす。
「恐れながら大魔王陛下、我が国も領土問題を抱えております」
「我が国もです」
「相手国は?」
俺がそう尋ねると、両方とも呼び出しに応じなかった国の名を告げた。
ちょうどいい。
「いいだろう、解決してやる。
そして領地へ帰ったら俺を称えろ。
今日の事をなるべく多くの者に知らしめよ」
「はっ」
「ははー」
元国王二人が頭を下げた。
さっさと片付けよう。
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