第八十八話 愛の告白

*主人公、大魔王視点に戻ります。

 

 城下町で思考加速状態のまま、瞬間移動をするために俯瞰ふかんした視点で、玄関ホールを詳しく見た俺は驚いた。

 守備の兵士達が全て倒されており、アムリータ王女がたった一人で敵の改造人間に立ち向かっていたのだ。


 どうして城の正面玄関などという危険な場所に王女様が?

 しかも、なぜ一人で対抗できているんだ?


 ともかくまだ無事のようで良かった。

 だが、迂闊に乗り込んで超加速の戦闘を行う訳にはいかない。

 一般人の彼女は戦闘の余波に耐えられないだろう。


 幸い敵の改造人間は五人という少数で、思考加速を行っていないようだった。

 これなら瞬間移動による奇襲が可能だろう。

 俺は右手を大きく広げて突き出し、翼を四本に分けて細く長く伸ばし、正面玄関ホールへと跳んだ。


 大魔王城の内部へと現れた俺は、間髪入れずに敵改造人間の頭を握りつぶす。

 同時にその配下らしい奴隷兵士の頭も、伸ばした翼で破壊する。

 さすがの自動防御システムも、この瞬間移動による奇襲には対応できなかったようだ。

 動きは最低限なので周囲への影響は抑えられている筈だ。


『定速』


――リターン トゥザ レイテッド――


 俺は普通の時間へと戻る。


「アムリータ王女! 無事か!?」


「は……はい、陛下、ぐすっ」


 その返事とは裏腹に、彼女は酷い有り様だった。

 殴られたのであろうその両頬は、傷つき赤黒く腫れあがり、小さく可愛かった顔が無残に膨らんでいた。

 そしてとにかく左手が酷い。

 五本全ての指先を丁寧に潰されていた。


 経緯は分からないが、彼女がされていた事は明らかだろう。

 拷問だ。


「どうしてこんな酷い事に……」

「あ……あなたが戻って来ると信じていたからだ、大魔王陛下!

 だから、たとえほんの少しでも多くの時間を稼ぐために、王女殿下は耐えたのだっ」


 さっきまで気絶していたようだった、床に倒れている騎士ナルストが声を張り上げた。

 よく見れば彼も重傷で、大声をしぼりだすもの大変そうだった。


「俺の帰りを信じて?

 その時間を稼ぐために、こんな仕打ちに耐えていたのか?」

「は、はい、ぐずっ、わたっ、くしは陛下のお留守を、ひっく、守るお役に、た、立ちましたでしょうか? えくっ」


 アムリータ王女は泣きながらも頑張って答えてくれる。


「どうしてそこまで……」


 してくれたのだ?

 子供で、何不自由なく育ったであろう王女様が、こんな仕打ちに耐えられるものなのか?

 なにが彼女をこうまでさせたのだ?


「愛しているからに決まっている! 王女殿下を支えたのはあなたへの愛だ、大魔王」


 アムリータを代弁するようにナルストが叫ぶ。

 

「ぐすっ、その、ぐすっ、はい、ですわっ、お慕いっ、ひくっ、申し、ううっ、上げておりまっす、ぐずっ」


 激痛があるだろうに、アムリータは泣きながらも頑張って無理に笑顔を作ろうとする。


 以前にも同じ言葉を聞いた。

 だが、その重みは比べ物にならない程に増していた。

 俺には、この子にこれ程まで好かれている理由が分からない。

 けれど……


 俺は辺りを見回す。

 立っているのは彼女一人だ。

 ここを敵に突破されていたら、大魔王国が一気に崩壊した可能性もある。

 この場に味方の死者が居ないのも彼女のおかげだろう。

 この子の真剣な気持ちに疑う余地はない。


「ありがとう、心より感謝するアムリータ王女、君は凄いな」

「う、嬉しい、ですわ、うう……うわぁあああぁぁぁ」


 俺の言葉で、アムリータ王女は腫れた顔を歪ませて本気で泣き出した。



 ◇



 俺は倒れている兵士約百名の中から、重傷者を選りすぐり自分の周りに集めた。

 その中にはアムリータ王女と騎士ナルストも含まれる。

 幸いなことに、誰一人として命に別状はなさそうだ


 このまま瞬間移動で治療できる場所へ運ぶつもりだった。

 俺は俯瞰ふかんした視点で状況を確認する。


 城内にも城下町にも敵の反応はない。

 どうやら戦争は終わったようだな。

 魔法治療師が居そうな場所だが、フェンミィを送った所にはこの人数と置き替える空間が無かった。


 お、ワルナが居る大きなホールがあるな。

 魔法治療師も居るようだが、患者は少なく空間もある。

 よし丁度いい、彼女とは話すべきことが沢山ある。

 俺は重傷者と共に瞬間移動した。

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