第七十七話 ベルトの正体

*フェンミィ視点となります。


 向かってきた前衛の兵士を魔力の腕でなぎ払う。

 あれからどのくらいの時間を戦っているだろう?

 自分の気持ちでは、朝ごはんからお昼までくらいの時間は経ったと思う。

 敵の魔力攻撃は増していて、もうお城の防御が有っても厳しくなっていた。


――フェンミィお姉ちゃん、もう大丈夫だと思うよ――

――分かった――


 サティちゃんの言葉をきっかけに、私は飛び上がる。

 どんどん、どんどんと高く昇っていく、でも何かおかしい。


 もうかなりの高さまで来たのに、敵の魔力がほとんど弱くなってない。

 どういう事だろう?

 敵の後衛はほとんど魔族に見えたけど、実は人獣族が多いとかだろうか?

 そうかもしれない。

 でも、逃げられない程じゃないし、急いで城下町へ戻ろう。


――フェンミィお姉ちゃん! 気を付けて、凄いスピードでなにか来るよ! 上から!――


――ヒャッハー! 見つけたぞ! 暴れてんのはオメェかぁ――


 頭の中に下品な男の声が響いた。これって敵の声?

 大魔王様の執務室で、魔道具から聞こえてきた声に感じがよく似ている。


 私の真上から、超加速で接近してくる。

 つまり私たち獣人族と同じ、ダンジョンからの魔力が関係ない敵だ。


 遠視でその姿が確認できた。

 見慣れない姿をしていて、獣人でも人獣でもリザードマンでもない。

 なんだっけ? こういうの……そう、キメラだ。

 いろんな動物を合成したみたいな異様な形をしている。


 どこか大魔王様に似ている?

 ううん、全然違う、大魔王様はもっとずっと凛々りりしい。


 その下品な顔の下には首輪が見当たらない。

 奴隷兵士達の指揮官だろうか?


――死んだぞ、オメェ、さあビビれ――


 キメラが両手から何かを大量に放つ。

 それはとても小さな塊だが、まるで見当はずれに飛んでいく。

 狙うのが下手なのだろうか?

 キメラは構わず、大量に放ち続ける。


 駄目だ、そうじゃない。ガブリ団長に言われた。

 敵が自分には理解できない行動をしたら、最大に警戒しろと。


 とりあえず回避だ。

 私は高度を下げつつ遠くへ逃げようとして気がついた。

 どの方向へ逃げても、敵が大量に放った小さな塊にぶつかる。


 石火の状態であれに触れれば致命傷だ。

 しまった、私は小さな塊で出来たおりに閉じ込められたんだ。

 敵の魔力による圧迫感もどんどん強くなる。

 残された時間は少ないだろう。


 どうする?


 私の武器は魔力で作った腕だけだ、接近しないと戦えない。

 けれど、あの数の塊を放つ相手だ、まっすぐ向かうのは自殺行為だと思う。


 だったら檻を突破しよう。

 今ならそんなに厚くない。

 あの塊を腕で防いでなんとか逃げるんだ。


――ヒャハハッ、利口な犬っころじゃねーか、だが無駄だぁ――


 キメラが移動する私に合わせて、また檻を作り直す。

 う……敵の魔力が強すぎて、怖い感じが抑えにくくなってきた。

 身体の動きも鈍くなる。


――ふぇんみ……ねえちゃん もう、あぶな……――


 敵の魔力に押されているからか、サティちゃんの声が届きにくい。

 いけない、魔力で作った腕が、形を保てずに消えてしまった。


――ヒャッハー、死ねぇ――


 距離を詰めたキメラから、大量の塊が降って来る。

 檻はどんどん小さくなり、いよいよ私を狙った塊が放たれる。

 駄目だ、逃げる場所は無く、防ぐ事もできない。



 このままじゃ……死ぬ。

 あの人の心に深い傷を残して。


 

 嫌だ! そんなの絶対に許されない! 力だ! 力を!


 魔力を絞り出そうとした私の、お腹の奥が熱くなった。


 同時に、信じられない程大量の魔力が爆発するように生まれ、身体中に、両手に満ちる。

 なんだろう、これ? 質も量もおかしい。

 ううん、今はどうでもいい。

 私は再び両手に大きな獣の腕を作る。


 魔力で作った大きな腕が、まるで実物のような質感と感覚を持って現れる。

 白い鎧のような、あるいは甲殻を持つ生き物のような見た目だ。


 私は目前まで迫る敵の放った塊を、両手でなぎ払う。

 塊はまるで液体のように潰れた後、塵のように飛び散った。

 私の両手はびくともせず、形を保ったままだ。


 なにこれ?

 塊にふれた感触まであった。

 自分の腕みたいだ。


――ああん、なにしやがった――


 キメラが私に向かって突っ込んでくる。

 ともかく、この手で迎え撃とう。


――死んどけよ、ヒャハハハ――


 キメラが大量の塊を放つが、私の両手はその全てを蹴散らして無傷だった。

 そのまま、驚いた顔をしているキメラの身体に、右手を叩き込む。


 拳に空気より硬い抵抗が有り、それを突き破り進む。

 キメラの上半身がゆっくりと爆発して飛び散っていく。

 私の右手は無傷だ。

 なんでこんなに丈夫なの?


 あれ? いつのまにか敵の後衛による魔力攻撃が気にならなくなっていた。

 物凄い敵魔力を感じるけど、まったく気にならない。

 どうして?



 ◇



「ちょっとあんた!」


 大魔王城の入り口まで後退した私を出迎えたのは、ダークエルフの魔術師ゼロノさんだった。

 とても慌てているように見える。


「そのベルトはどうしたのよ?」


 ベルト?

 ゼロノさんの視線は、獣化している私のお腹に向かっていた。

 私も自分のお腹を見る。

 そこには、以前に大魔王城の地下で身に着けた、銀色のベルトが有った。

 いつの間に? すっかり忘れていた。


「ともかく、それをめなさい! 今すぐ!」


 そうだ、こうして私の外へ出てきてくれたんだ、取り外そう。

 ベルトを掴もうとして思い出す、私の両手は魔力で作り出した大きい形のままだった。


 本来なら集中してないと形が保てないのに……あ、でも、そもそも、いつも作る腕とは全然違うんだった。

 これどうやって戻せば良いんだろう?

 いや、ベルトが先かな? 


 幸いこの大きな腕は、自分の腕のように自由に動く。

 私は大きな指でベルトを掴んで引っ張ってみる。


「あう、痛たたた」

「なにやってんのよ、取れないわよ、もうあなたの一部なんだから。停止するのよ、早く止めて」


 え、ええと……どうやって?


「ああもうっ、じれったいっ」


 ゼロノさんがイライラした感じで、私のお腹、ベルトに手を当てる。

 あっという間に、お腹からベルトが消えた。同時に手も元に戻る。

 次の瞬間、


「ぎっ!」


 私の全身に激痛が走った。

 身体中をたくさんの長い針で貫かれたような痛みだ。

 特にお腹と両腕がひどい。


「かっ、はっ……」


 痛みで呼吸すらできない。


「ああ、そういえば最初のうちは酷く痛むのよね。

 ほら、これでどう?」


 痛みが一気に消えた。

 ゼロノさんが魔法で消してくれたのだろう。


「あ、ありがとうございます」

「一時的に痛みを遮断しただけだから、後で魔法治療師にかかりなさい。

 それで、そのベルトはどうしたのよ?」



 ◇



 私は大魔王城の地下で起きた出来事を、ゼロノさんに話した。

 そして気になっていた事を聞いてみる。


「やっぱりさっきの力は、このベルトのおかげなんですか?」


 あの絶体絶命のピンチを、いとも容易たやすくひっくり返した凄い力は。


「そうよ、でもね、そのベルトはもう使っちゃ駄目よ」

「なんでですか? 身体が痛むからですか?」


 たとえどんな激痛が待っていても、是非使いたい。

 あの力があれば、もう大魔王様の手を汚さずに済むかもしれない。


「違うわよ、痛みなんて身体に導線どうせんが出来れば無くなるわ。

 そんな甘い話じゃないのよ、死ぬより辛い目に会うのよ」


 死ぬより辛い目?

 どういう事だろう?

 そんなのって、好きな人が死ぬとか苦しむとかぐらいなんだけど。


「ゼロノさんは、どうしてこのベルトに詳しいんですか?

 そして、死ぬより辛い事ってなんですか?」


「このベルトは私が作ったの」

「え?」 


 作った?

 世界最強の魔術師と呼ばれる人だ、ありえない話じゃない。


「私が昔作ったのよ。

 そして死ぬより辛い事だけど、いい、よく聞きなさい」


 ゼロノさんが真剣な顔で私の目を見つめて言う。


「このベルトはね、装着者の存在を消費して動くのよ。

 使い続けると、あなた、この世界から消えるわよ」

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