第六十六話 特訓

「五日後に国王同士による会談を提案か。

 しかも場所がガガギドラ国内、国境に近い村でだと?

 ワルナ、どう思う?」


 ガガギドラからの使者が帰った後、俺達は大魔王の執務室でその内容を検討する。


「罠の可能性は高い。だが行くべきだろう。全軍を引き連れてな」


「それってそのまま戦争に突入するんじゃないか?」


「向こうの出方次第だな。

 なにが起きても対応できるように、万全を期すべきだろう。

 シャムティアに増援を要請してみよう」


「ありがたい」


 もう、なし崩し的に軍事同盟国となったな。

 戦力の増強は必須なので本当にありがたい。

 あの国を信用し過ぎな気もするが、今は疑っている余裕が無い。


 他に出来る事だが、本日、地方都市ナーヴァの商人ギルドから、残りの針を明日納品してくれるとの連絡が有った。

 ダンジョンからの魔力が満ちたので、大物も運んで来てくれるそうだ。

 十五トンもの重さを持つ針を、運搬出来る馬車があるとは驚きだった。

 元の世界なら、大型のトラックと肩を並べる積載量だ。

 これで高高度爆撃がまた出来るようになる。


「後は魔法の習得か……」


 なんとしても仮面アベンジャーと同じ戦闘力を手に入れたい。

 魔法でどうにかなるだろうか?


「あの……大魔王様」


 フェンミィがおずおずと手を上げて発言する。


「私も強くなりたいです」


 俺が頼りない所為で、フェンミィに心配をかけているのだろうか。

 彼女にまでそんな事を言わせてしまった。

 だが悪くない、いざという時に生き残る可能性は上がるだろう。


「分かった。ワルナ、頼めるか?」

「任せてくれ、バン、フェンミィ、心当たりはある」


 ワルナが請け負ってくれた。

 フェンミィには、俺の補佐として様々な雑用をして貰っていた。

 代わりを獣人村人の誰かに頼んでみよう。



 ◇



「やっとワシの出番じゃな」


 翌日の早朝、東の空が白み始めた頃、大魔王城の前庭で小さな胸を張るのは、スクナ族の元大魔術師アルタイだ。


「まず言っておくのじゃ、今日からワシの事は師匠と呼ぶのじゃ!」

「……はあ」


 昨日、彼女に魔法の指導を頼んだところ、とても張り切って承諾をしてくれて、こんな早朝からの特訓を指示された。


「心構えは大切なのじゃぞ、ほれ、呼んでみるのじゃ」

「よろしくお願いします……師匠」

「うむ、良い気分なのじゃ」


 アルタイ改め師匠は、俺の足元でご満悦のようだ。俺は不安な気分ですよ?

 大丈夫なんだろうか? この元大魔術師は。


「早速始めるのじゃ、まずはどのくらい魔力を扱えるのか見せてもらうのじゃ。

 両手を胸の前に出して、見えないボールを持つようにするのじゃ。

 その掌の間に、魔力を集める事はできるかの?」


 改造人間は魔法炉からの魔力で動くので、体内の魔力を扱う事には慣れていた。

 それを外に出力するのは初めてだが、例えばこの両手の間に、新しく取り込んだ機能があると仮定してみよう。


ブオォン

「おっ」


 人型では、本来の性能をまるで発揮出来ない魔法炉から、俺の両手に魔力が伝わり、その間へと放出される。

 そこには小さな光球が生まれていた。

 ジンドーラムの森で見た、ゴロツキのマジックミサイルにそっくりだ。


「ほう、手慣れておるではないか、とても初めてとは思えんのじゃ、筋が良いのじゃ」


 褒められれば悪い気はしない。

 問題は山積みなのだ、順調な進行は大歓迎だ。

 よし、もっと力を……俺は更に魔力を集めようと力をこめる。


――アラート オートマチクリィ トランスフォーム――


 あれ?

 聞きなれた機械音声が俺の脳内に響く。

 俺は戦闘形態へと移行していた。

 え? 力を欲したからか?


ズヴァアアアアア


 同時に真価を発揮する魔法炉から、大量の魔力が両手の間に流れ込み、光球は大きく高密度な塊へと成長する。


「うおおっ」


 瞬く間に両手の間には収まらない大きさとなり、俺はバンザイの姿勢で光球を頭上に掲げる。

 更に巨大化し、エネルギーの密度を上げていく光る玉。


「な、なにをしておるのじゃ、止めるのじゃ、いや駄目なのじゃ、今力を抜くと爆発するのじゃ。


 こ、ここ、このエネルギーは危険なのじゃ、下手をすると城が……ともかくワシは確実に死ぬのじゃ。

 ももも、もう駄目なのじゃ。

 だ、誰か、助けて欲しいのじゃぁ」

「師匠なら簡単にさじを投げないでくれ!」


 情けない事を言い出した師匠に、元気を分けてくれ玉状態の俺が突っ込む。

 光球の直径は十メートルを超え、高密度の魔力によって太陽の様に輝いていた。


 あ、これはマジでヤバいだろ、このまま上昇出来るか?

 俺はゆっくりと飛び立つが、慣れない事をしているのでバランスが難しい。

 ほんの一メートル浮いただけで安定を欠く。いかん、光球の制御が……、


「えーいっ!」


 可愛らしい掛け声と共に、俺が破裂させようとしていた巨大な魔力の塊が消滅する。

 パジャマ姿のサティが大魔王城の玄関前に居た。



 ◇



「サティも一緒じゃないと駄目でしょっ!」


「はい、すいませんでした」

「ごめんなさいなのじゃ」


 戦闘形態の俺と師匠は、ココを従えたパジャマの天才少女に叱られていた。

 城の玄関先で、二人共、なんとなく正座をしている。


「もう、こんな朝早くから何してるんですか?」


 旅支度を整えたフェンミィが、呆れたように笑いながら玄関から現れる。

 彼女は強くなる為に、ワルナが紹介した場所へと修行に出かける事となった。

 てっきり大魔王城で訓練をするのだと思っていたから、少し寂しい。


「フェンミィ、これが紹介状だ。向こうで渡せば、あの者は必ずや力になってくれるだろう」

「ありがとうワルちゃん」


 続いて玄関から現れたワルナが、封蝋ふうろうされた手紙を渡す。

 手紙をリュックにしまったフェンミィが、皆を見回した後、ぺこりと頭を下げて言う。


「ワルちゃん、サティちゃん、ココさん、あとアルタイさんも、大魔王様をお願いしますね」


「気をつけてな、フェンミィ」

「はい、大魔王様もお気をつけて、行ってきます」


 俺の言葉にうなずいた後、フェンミィは皆と挨拶を交わして旅立った。



 ◇



 ズドーン


 爆音を立てて、俺が集めた魔力が爆発する。


「魔力はとんでもない量じゃが、まったくコントロール出来てないのじゃ」

「これは困ったな」


 戦闘形態の俺は頭を抱える。

 フェンミィを見送った後、俺達は前庭で魔法の修行を続けていた。

 だが、結果はかんばしい物では無かった。


「魔力が潤沢じゅんたくすぎるのじゃ!

 お主はまるでダンジョンコアのようじゃ、その出力はワシでも簡単には制御出来んのじゃ」


 魔法炉から供給される魔力が多すぎて、初心者の俺にはまるで扱いきれないのだ。

 自動車教習所で初めてハンドルを握るのがF1マシンだった、くらいの理不尽な難易度となっていた。


 出力が低い人型で初めても、どういう理由なのか結局自動防御システムが反応してしまう。


「まいったな、諦めるしかないのか?」


 先行きを考えると不安だ、今の戦闘力でどこまで通じるだろうか?


「ねえ、サティがやってもいい?」

「え?」


 いつもの黒いゴスロリ風の服に着替えているサティが、そう言って戦闘形態の俺をぺたぺたと触る。


「う~んとね、こうかな?」


ポンッ

「うわっ」


 俺の目線が一気に低くなり、目の前には黒い靴下に包まれた少女の巨大な脛が有った。

 俺はいつもの、三十センチ程度しかない小さなぬいぐるみのクマにされていた。


「いやサティ、この姿だと今度は全く魔法が使えないから」


 ……あれ?


「しゃべれるぞ! えっ? どうして?」

「そういう風にしたからだよ」


 サティは無邪気な笑顔でそう言って、俺を抱き上げる。

 なるほど、いつもぬいぐるみの俺がしゃべれないのは、サティがその様に望んだからなのか。


「あと、凄い魔力が出てくるところは止めたけど、そんなに凄くないのが三つ有ったから、それは使えるよ」


 なんだって?

 そこまで自由自在に俺の身体をいじれるのか?

 なんて非常識な力だろう。

 いや、改造人間を無力なぬいぐるみに変える事が、そもそも常識を外れている。


「もうなんでもありじゃな」


 師匠が呆れた顔をでサティを見上げていた。


 俺はぬいぐるみの身体を確認する。


 凄い魔力が出てくる所ってのは魔法炉の事だろう。

 だが、そんなに凄くないのが三つというのは?

 あ! もしかしてゴロツキを取り込んで得た、ダンジョンからの魔力を利用する機能か!

 そうか、あれで得られる程度の魔力量なら扱えるかもしれない。



 ◇



「はっ」

 ゴガッ


 布と詰め物で出来た小さなぬいぐるみの拳が、瓦礫の岩にヒビを入れた。

 身体の強度と運動能力を強化する魔法のおかげだった。


「うむ、上手いぞ、その調子じゃ」


 ダンジョンからの魔力は扱いやすく、クマのぬいぐるみになった俺の特訓は順調に進んでいく。


「驚くほど筋が良いのじゃ、お主も十分天才の域に居るぞ」

「いや、元々魔力の扱い自体は慣れているんだよ」


 改造人間として魔力を使い続けてきたのだ。

 特に身体強化の為に体内で行う魔法は、要領が同じで使いやすかった。


「む~、アルちゃん、サティにも魔法を教えてよ」


 じっと俺達を見ていたサティだが、どうやら退屈しだしたようだ。


「う……お主に教えられる事が、有るとは思えんのじゃが……」


 アルタイ改め師匠は、サティに対しては腰が引けている。

 だが、これはいい機会かもしれない。


「サティはずっと独学……というか才能だけで魔法を使って来たんだ、ちゃんと習ったら得るものがあるかもしれない。

 俺からも頼むよ、師匠」

「……ふむ、分かったのじゃ、やってみるのじゃ」

「わーい」


「しかし、何を学びたいのじゃ?

 お主はその実力で、これ以上魔法に何を望もうというのじゃ?」


 師匠がそう尋ねると、サティは元気に答える。 


「サティは強くなりたい!」

「それ以上の力を欲するのか? その年で? やはり末恐ろしいのじゃ」


 アルタイ師匠は、驚きと呆れが入り混じったような表情でそう言った。


「うん。

 サティね、昔はこんな力が無くなれば良いって、ずっと思ってたよ。

 でも今は違うの、バンお兄ちゃんが居るから、ココが、みんなが居るから。

 もっともっと強くなりたい。

 だって、バンお兄ちゃんはサティが助けてあげないと、全然駄目だからっ」


 う……そんな事を思ってたんだな。

 おっしゃる通りですサティさん、いつもありがとうございます。


「ふむ、分かったのじゃ、ならば師匠と呼ぶが良いのじゃ」

「やだっ、可愛くないからっ」

「えええ~なのじゃ」


 俺達の特訓は続く。

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