第六十一話 大魔王城始動

 俺達は城の一階を進む。

 目指すは中央部、開かずの扉だ。


 扉は頑丈で、俺以外の者には操作できない可能性が高い。

 あの地下空間なら、とりあえず敵の攻撃からはのがれられるのではないか?

 

 時間さえ稼げれば、諜報能力の高いシャムティア王国が気づいてくれるかもしれない。

 援軍が来る可能性は低くない。


 隠れた事がバレなければ、時間を置いての奇襲が可能になるかもしれない。

 あの地下に水と食料を備蓄すべきだったな。

 後悔先に立たずか。


 俺達は、相変わらず襲い来る人間爆弾を蹴散らしながら行く。

 皆強いな。 


 ウルバウは明らかに超加速で戦闘している。

 ウミャウおばさんも恐らくそうで、他にも数名が目にも留まらぬ速さで動いている。

 俺はフェンミィに抱かれて運ばれているだけだ。


「すいません、こんな事になって」


 情けない気分で俺は皆に謝る。

 判断ミスが重なっている。


 合流できなかった国民はどうなっただろうか?

 それを考えると胸が苦しくなる。

 この状況を招いたのは俺の責任で、国王失格と言われても仕方ない


「なに言ってんだい大魔王様はよくやってくれてるよ。それに、まだ考えがあるんだろ?」


 村長ウミャウおばさんが虎の顔で牙をき、豪快に笑った。


「ええ、作戦はあります」

「なら全然上等だ」


 俺の答えにウミャウおばさんは満足そうに頷く。


「そうそう」

「この程度、余裕余裕」

「どうって事ないよ、大魔王様」


 大魔王国の国民、獣人達が明るい声で同意する。

 そのほとんどが、なんらかの怪我を負っているのにだ。


「あたしらの絶望はね、こんなものじゃなかったよ」


 どこか遠くを見てウミャウおばさんがそう言った。


「だから、この程度なら楽勝さね、大魔王様」


 ウミャウおばさんの迫力ある笑顔は、こんな状態の俺を安心させる頼もしいものだった。



 ◇


 

「おっそいわよ! なにしてたの?」


 開かずの扉の前でそう言ったのは、長身で美人のダークエルフ魔術師ゼロノだった。 


「居たのか!」


 昨夜、宴会が終わった時には消えていたので、てっきり帰ったのかと思っていた。

 しかし、俺はまともに動く事すら出来ないのにゼロノは普通に立って歩いていた。

 魔力の空白地で、魔族に分類されるダークエルフなのに?


「お前、どうして平然としていられるんだ?」

「ちょっと貯蓄をね、取り崩しているのよ」 


 魔力を貯める装置は存在する。

 通信用の魔道具などに使われ、魔力の空白地でも使用を可能にしている。

 だがそれほど強力な物ではなく、発生する魔力は少ないらしい。


 世界最強の魔術師ともなれば、破格の出力を持つ魔道具でも持っているのだろうか?


「こうしていてもゴリゴリ減るのよ、もったいない。だから早く大魔王城のコアを起動してちょうだい」

「なんだと? なにを起動するって?」


 ゼロノが聞き流せない事を言っていた。


「地下にある大魔王城のコアよ。

 そうすれば私は魔法を使えるし、防衛装置も起動するわ。

 その為にここへ来たんじゃないの?」

「防衛装置? コアってダンジョンのコアと同じ物か?」


 俺が質問すると、ゼロノは怪訝な顔をする。


「そうよ。あなた大魔王なのにどうして知らないの?」

「いやいや、いきなり召喚されたんだぞ、この世界の事を一番知らないのが俺だろ?」

「……ふ~ん」


 ゼロノはなにやら複雑な顔をしたが、気を取り直したように言う。


「まあいいわ。

 コアを起動すれば、ここは魔族用の魔力に満ちて空白地ではなくなるの。

 もう一度言うけど、私が魔法を使えるようになるし、城の強力な防衛機能も使用可能になるわ」


 大魔王国が魔力の空白地ではなくなる?

 それは獣人のみんなにとってどうなんだ?

 だが、まずは現状の打開を優先すべきだろう。


「ともかく地下よ、ここを開けて頂戴」


 ゼロノが扉をバンバン叩いてそう言った。



 ◇



「で、これをどうやって起動するんだ?」


 俺達は大魔王城の地下千メートルにある広大な空間で、中央にある塔の前まで来ていた。

 塔の根元には操作盤の様な物が有り、隣にはSF映画などで見かける冷凍睡眠装置みたいなカプセルが設置されている。

 そして、その中には裸の美少女が眠っていた。


 エレベーターを三往復させて国民全員を地下へ運んである。

 これでひとまずは安心だ。

 深く潜るに連れて敵魔力の影響は少なくなり、俺はかろうじて自力で歩ける程度には回復していた。


「命じればいいのよ、動けって、言葉で」


 そんな簡単な事で良かったのか。


「分かった、動け!」


 俺はゼロノの言葉に従った。


 ………………。


「動かないぞ?」

 バシャッ、ウイイイイイイイ。


 ワンテンポ遅れて少女の入ったカプセルが開き、低く微かな唸りと共に塔が光りだす。

 呼応するように、床に置かれている機械のような何かも光を発した。

 全裸の少女が目を覚まし、カプセルの外へと歩み出る。


 十二~十五歳くらいに見え、青い長い髪とどこか人間離れした繊細な美しい顔立ちをした少女は、ボーっと辺りを見回した。

 胸は薄く、腰も小さめで、どこか中性的な体つきをしている少女の視線が、俺の顔でピタリと止まる。


 きゅっと、可愛い顔の眉間にシワがよった。

 くりっとした大きな目が半分閉じられ、ジト目になる。


 物凄く不満そうな顔だ、眠っているときは天使のようだったのに。


「マスターの性的興奮を確認、色魔のごとき視線の是正を要求します」


 はっ?


 不機嫌そうな半目で、俺をめちゃくちゃ睨みながら青髪少女がそう言った。


「本機は、マスターに視線で陵辱されるのが不快だと主張しております」


 ええと、マスターってのは俺の事でいいだろう。

 視線で陵辱した覚えは無いが、要するに裸を見られるのが嫌なのか? 

 獣人は全て獣化しているので服を着ていない。


「分かった、俺の服で良ければ……」

「その必要は無いと応答します。念着ねんちゃく


 俺の言葉を遮って少女がそう言うと、眩い光が煌き一瞬でその身に服をまとっていた。

 それはメタリックブルーを基調とした、全身にぴったりと張り付いたようなスーツで、身体のラインがモロに出ている。

 手足は金属っぽい大きなプロテクターで覆われていて、武器の様な物が装着されている。


 やけにメカメカしく、この世界に似合わない。

 どちらかといえば俺達改造人間が居た世界の住人という感じだ。 


「ええと……君は誰だ?」


「!」


 俺の質問に青髪少女は目を丸くして酷く驚いた顔をする。

 そしてすぐにジト目に戻り、その視線は更に厳しくなる。

 眉間のシワも増え、もう不機嫌とかそういうレベルじゃない。

 まるで世界一苦い物を口に含んでいるかのようだ。


 なぜそんな顔を?

 いや、今はそれどころじゃない。


「まず名前を聞かせてくれないか?」

「断固拒否します」

「ええええ~」


 俺が青髪少女の扱いに困っていると、ゼロノが呆れたように言う。


「なにやってるのよ。

 その子はコアのインターフェースよ。

 あと、ちゃんと命じなさい。

 コアは起動したから、次は城の防衛機能を起動するのよ」


「コアのインターフェース? もしかして人間じゃないのか?」

「人造人間、ホムンクルスよ、さあ、早く命じて」


 ホムンクルス? そういうのも居るんだ。


 しかし命令か。

 頼んだから断られたのであって、命じれば言う事を聞いてくれるんだ。

 そういえば俺のことをマスターとか呼んでいるしな。

 あまりいい気分はしないが、今は仕方ない


「城の防衛機能を起動しろ」

「イエス、マスター」


 ヴォン


 目の前にそびえる塔が身震いするような音を発し、俺を圧迫し続けた頭痛と麻痺が消える。


「お、直った」

「良かった……」


 いつでも俺を支えられるようにと、ずっと側に居てくれたフェンミィが胸をなでおろす。


「それで、君の名前を教えて欲しいんだが……」

「拒否します」


 ホムンクルスの青髪少女に名を尋ねたが、また断られてしまった。


「なにしてるの? 命じろって言ったでしょ? その子は大魔王の命令に逆らえないわよ」


 ゼロノがそう言った。

 う……そう聞くとますます命令とかしたくないなぁ。


「ごめん、頼むから名前を教えて欲しい」


 俺が困り顔でそう頼むと、青髪少女はため息をついた。

 そして、どこか同情したような声で言う。


「本機の名前はオルガノンです、薄情者のマスター」

「あ、ありがとう、オルガノン」


 俺が礼を言うと、オルガノンと名乗ったホムンクルスの少女は、また眉間にシワを寄せたジト目で睨み返してきた。


「う……うう……どこなのじゃ、ここは?」


 フェンミィに抱えられたアルタイが目を覚ました。


「なんじゃ? これはコアなのか? うわっ! ゼロノが居るのじゃ!」

「ね、フェンミィちゃんだったわよね、お師匠様は私が持った方が良くないかしら?」

「駄目なのじゃフェンミィ、ワシを抱きしめて放さないで欲しいのじゃぁ」

「え、ええと……どうしましょう?」


 フェンミィが狼の顔を引きつらせて困る。

 なんか一気に空気が緩んだな。

 まだ戦争中で、敵の攻撃は続いているんだが。

 ともかく確かめよう。


「臨戦」


――トランスフォーメーション コンプリート――


 敵魔力の影響も無く、俺は一瞬で戦闘形態へ移行した。


 よし行ける。


 さあ、逆襲だ。

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