第二十七話 ロリっ子のぬいぐるみリターンズ

「おっはよ~、バンお兄ちゃん。えいっ」


 ポンッ


「うきゅ?」


 リトラ伯爵邸に帰還した翌朝。

 朝食を食べる為に廊下を歩いていた俺は、軽い目眩を感じて目を閉じた。

 同時に高いところから落ちるような感覚がする。


「うん、かっわいい」


 目を開いて振り向くと、巨大なサティが俺に両手を伸ばしていた。


 ぎゅむっ

「えへへ~」


 そのまま持ち上げられて抱きしめられた。

 俺の全身が彼女の腕の中にすっぽりと収まっている。

 おそらく俺はまた、三十センチに満たない小さなクマのぬいぐるみに変えられていることだろう。


「きゅ、きゅきゅー(こら、サティー)」


 問答無用の急襲に俺は抗議の声を上げる。


「フェンミィお姉ちゃんが元気になるまで、バンお兄ちゃんはやることないんだよね?」

「きゅ?(え?)」

「だから、いいでしょ?」


 フェンミィが体力を回復し復調するまで、数日はかかるという見立てだった。

 確かにその間、俺はなにもする事がない。

 まあいいか、交換条件だったしな。でも、あくまで時々だからね。


「きゅきゅきゅきゅー(しかたないなぁ)」

「わーい、大好き」


 サティがそのぷにぷにとしたほっぺで俺に頬ずりする。


「ふあ~、バンさんかわいいっすね。サティ様の魔法はすごいっす」


 サティの後ろに控えていたココが、覗き込んで感想を漏らす。

 今の俺からだとココは見上げるような巨人だ。

 ワルナの家に就職したからだろう、実用的で地味なメイド服を着ていたが全く似合っていない。

 その美貌びぼうと不釣合いだし、身体がエロすぎてどこか風俗っぽい。


「ココも触りたい?」 

「あいっす、いいんすか?」

「うん、貸してあげる」

「ありがとうございますっす」


 俺はサティからココへと手渡しされる。

 もう完全に玩具のやり取りだな、まあいいか。


「ふわふわで柔らかいっす。これはめろめろっす。駄目になる感触っすぅ」


 ココがサティと同じ様に俺へ頬ずりした後、その胸で抱きしめる。


「むぎゅっ」


 ううっでかい、圧倒的だ。

 ココのおっぱいは下着の所為かあまり柔らかくなく、その質量で俺のぬいぐるみボディを押し潰す。

 これ、今の俺より確実に重いな。


 ジンドーラム王都では悪臭にまみれていた所為で気がつかなかったが、いかにも雌って感じのエロい匂いがする。

 なにこれ? フェロモン? 俺が小さくなって、体臭が相対的に大量になった事も関係あるのだろう。


「あれ? バンお兄ちゃんえっちな気持になった?」


 サティの無邪気な瞳が、俺のいやらしい欲望を暴き出す。


「マジっすか? 良かったっす、やっと少しでも恩返しが出来るっす。

 でもバンさん変態入ってるっすね、こんなプレイが好みっすか?

 とりあえず、ああしのここに……」


 ココが長いスカートをまくって、その中へと俺を運ぶ。

 それはまるでテントのように巨大で、その中に住めそうな程大きかった。

 薄暗い空間には淫靡いんびな匂いが満ち、ココのなまめかしい下半身が……って違うっ!

 お前、朝っぱらから幼女の前で何する気だ!


「きゅきゅきゅーっ! きゅきゅうきゅきゅきゅー! (やめろぉぉっ! サティ助けてぇぇ!)」


 俺は恥も外聞も無く、子供に全力で助けを請う。


「本気で嫌がってるみたいだね。ココ止めよう」

「あう~、残念っす」


 ココががっくりと肩を落とす。

 ふぅ~、この歩く十八禁め。

 俺はココの手からサティへと戻される。



 ◇



「はい、あーん」


 サティが俺の口元までスプーンを運んでそう言った。


「きゅ、きゅーん(あ、あーん)」


 俺が口を開けると、その中へスプーンからスープが流しこまれる。


「おいしい?」

「きゅ……きゅん(う……うん)」


 俺はリトラ家の食堂で、ぬいぐるみのままサティに食事の世話をされていた。

 テーブルにはワルナが同席し、周囲には大勢の使用人が立っていた。ココもその一人だ。


 そして、みんなが俺を見ている。

 幼女に食事の世話をされる、無力な赤子の様なこの俺を。

 とても恥ずかしい、なにこの公開処刑……。


「うんうん」


 なぜかワルナだけは嬉しそうに頷いている。

 いやこれ、微笑ましい光景じゃないだろ……。



 ◇



「きゅきゅきゅいきゅうきゅききゅ(フェンミィの様子を見に行きたい)」


 俺達だけではなくココの朝食も済んだ後、俺はサティに提案する。

 フェンミィは体力が回復するまで、しばらく客室で安静となった。


 怪我や病気を治せる魔法やポーションのある世界だが、体力そのものは自然回復させた方が良いとの事だ。

 無理やり回復させる魔法もあるそうだが、強い副作用があるらしい。


 ずっと部屋に一人では退屈だろう。

 ちょうど良いからこのモフモフボディでいやしに行こう。


「うん分かった、行こっ」


 サティが快諾かいだくしてくれたので、ココを加えた三人で客室へ向かう。

 俺はもちろんサティに抱きしめられたままだ。


 他愛無い話をしながら、しばらく廊下を歩くとフェンミィが居る部屋に着いた。

 ノックを……、


 ガチャ

「フェンミィお姉ちゃ~ん」


 せずにサティはいきなりドアを開けた。


「あ、サティちゃん」


 フェンミィはちょうど朝食を終えたところだった。

 使用人が回収している皿には、食べ切れなかった料理が半分程残っている。


 ココがサティの後ろに下がって控える。

 おお、ちゃんと使用人みたいだ。


「きゅきゅいきゅきゅきゅ?(具合はどうだい?)」

「え? それってまた大……えっと、バンさんなの?」


 フェンミィは、俺の呼称変更に苦労しているようだ。


「そうだよ、はい、抱いて良いよ」


 サティは、いきなり俺をフェンミィに差し出した。


「え? あ! ありがとう。ふふっ可愛い、ふわふわ」


 一瞬戸惑ったフェンミィが俺を受け取る。

 フェンミィに抱きしめられ、あちこちを撫でられる。

 体温が高いな、やっぱり熱があるのだろう。


「あっ!」


 フェンミィが突然、俺を持った両手を伸ばし身体から離すように遠ざける。


「わ、私、汗臭くないですか?」


 そして、恥ずかしそうにそう言った。


「きゅきゅきゅ。きゅきゅうきゅうう。 

 きゅうきゅ、きゅきゅうきゅ。きゅっきゅきゅきゅうきゅ。

 きゅうううきゅきゅ、きゅきゅきゅうきゅ?

              

(大丈夫、良い匂いしかしない。

 ちょいエロで、すごく安らぐ感じ。一緒に寝たいくらいだ。

 それより体温高いな、苦しくないか?)」


 言葉は通じないので話し終った後、俺はサティを見る。

 サティは察して、完璧に翻訳してくれた。


「ありがとうございます。だるいだけで苦しくは無いんですけど……え? ちょいエロ?」


 俺を赤ん坊のように優しく抱き直したフェンミィが、ついこぼれてしまったエッチな感想に、なにか複雑な顔している。


「きゅうきゅきゅーきゅ(そこはスルーで)」


 ぐっと片腕を突き出して、ドヤ顔で俺はそう言った。

 言葉は理解できなくてもニュアンスは伝わったようで、


「もうっ」


 フェンミィは呆れたような顔で笑った。


 コンコンコン


 客室にノックが響く。


「フェンミィ様にお客様がお見えです」


 続いてリトラ家使用人の声がした。


 バタンッ

「どうぞ」


「フェンミィ! 良かった無事だったのね」


 ノックの返事を待たずに飛び込んで来たのは、村で会った美女獣人のガールル姉さんだった。

 いつもの作業着ではなく、薄いセーターにスカートとという女性らしい服装だった。


 その勢いのままフェンミィに抱きつく。

 俺は美少女と美女の巨体に挟まれた。

 下着の違いか、ココと違って二人とも胸が柔らかい。

 なるほど、天国は地上ここに有ったんだな。


「良かった、本当に良かったぁ」

「ルル姉(ねえ)、ごめんね、ありがとうぅ」


 喜び、抱き合う二人は共に涙声だった。



 ◇



「そうなんだ、そんな事があったのね」


 ベッドの端に腰掛けたガールルに、フェンミィが一連の出来事を説明した。


「みんな心配してたのよ。大魔王城へ見に行ったらあなたが居なくて、こんな事初めてだったから。

 それで、ここに来ればなにか分かるかもってね」


「心配かけてごめんなさい」


「ううん、よく生きていてくれたわ。

 あと偽大魔王様と、サティちゃん? 

 ありがとうね、本当に。

 でもまさか偽大魔王様がそんなに強かったなんてねぇ……これ本当に偽大魔王様なの?」


 ガールルがぬいぐるみの俺を指差して言う。

 俺は、室内に備えられている低いソファに座ったサティに抱かれていた。

 まあ、信じられないのも無理はない。


「そうだよ、ほら」

ポンッ


 サティが俺を床に置き、いとも簡単に人の姿へと戻す。


「!」

「よっ」


 目を見開いて驚いているガールルに、俺は片手を上げて軽く挨拶する。


「す、凄いじゃない! こんなの始めて見たわ、魔法でこんな事が出来るなんて、サティちゃんは凄いんだ」


「えへへ、えいっ」

 ポンツ

「きゅ?」


 ガールルに褒められて上機嫌なサティが、俺を再びぬいぐるみに変えて誇らしそうにその腕へ抱え直す。


 コンコンコン

「私だフェンミィ」


 ノックと共にワルナの声が聞こえる。


「入って、ワルちゃん」


 ガチャ


にぎやかだな」


 ワルナは客間に入ってくると、ガールルの方を向いた。


「ガールル殿、挨拶が送れてすまない。よく来てくれた」

「ワルナ姫様、フェンミィの事、ありがとうございました」


 ガールルは立ち上がり、スカートの裾をつまんで一礼する。なかなか様になってるな。


「いや、至らぬ事ばかりだった。バンが居なければどうなっていたか、恥ずかしい限りだ」


 ワルナが恐縮して頭を垂れる。


「そんな、姫様がフェンミィを大切に思って下さっているからこそです、こうしてこの子が無事なのは」

「違うよ、私が馬鹿だったんだよ。その所為でみんなに迷惑かけて……本当にごめんなさい」


 続いてガールルとフェンミィまで頭を下げた。

 いかん、なんか暗いな。


「きゅうきゅうきゅうきゅきゅ、きゅきゅうきゅきゅっきゅ、きゅううきゅきゅきゅうきゅきゅきゅう。


 (まあまあお嬢さん達、過ぎた話をするより俺のモフモフボディでも堪能しないかい?)」


 俺は精一杯かっこつけたポーズでそう言った。

 最後にはウインクだ。

 そしてサティに翻訳してもらう。


「そうか……そうだな、もっともだ」


 ワルナが笑顔になった。

 うん、良かった。


「実は以前から、ぬいぐるみとなったバンを思う存分撫で回してみたいと思っていたのだ。ありがたい」


 ポキポキと指を鳴らしながら、ワルナがそう言った。


「きゅ?(え?)」


 いやワルナさん、冗談のつもりだったんですけど。

 てか、目が怖いんですが……。


「はいお姉ちゃん」


 無常にもサティによって、俺はワルナに手渡されてしまった。


「では思う存分」

「きゅうきゅきゅー(優しくしてー)」


 このあと無茶苦茶撫でられた。

 フェンミィやガールル、サティも加わって十五分以上。

 いつの間にか、サティの後ろでおとなしくしていたココまで参加していた。

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