第二十四話 戦闘決着そして奪還

 メイコ共和国の兵士四十八名が、超加速状態で俺に向かってくる。

 残り十二名は魔術師で後方から動かずサティと交戦中だ。


 今更、奴らがフェンミィを人質にとることは無いだろう。

 ならばこの場所は彼女に近すぎる、少し離れよう。 


 敵の反応速度、及び加速力と最高速は想定通りで、俺とほぼ同じかやや遅い程度だ。 

 もしかしたら思考の加速には、光速度のように絶対的な限界があるのかもしれない。


 俺は窪地の中心近くまで後退した後、速度を落としメイコ共和国の兵士達を迎え撃つ。


 この世界の戦士が行う超加速戦闘は、小さな鋼鉄の刃を使用して行われる。

 普通の剣を使用すると、命中した際にその凄まじい運動エネルギーで粉々……というか粒子にまで分解する上に持っている手にも大きな負担がかかる。

 それ故、魔力をまとめて剣のような形にし、鋼鉄で出来た使い捨ての小さな刃をその一部に埋め込んだもので切り合うのだ。


 使い捨ての刃は複数持つのが普通で、通常は二十本程度携行しているそうだ。

 それを魔力を使い、投げて使用したりもする。


 もちろん格闘戦どころか接触も厳禁である。


 先陣を切って俺に向かってくる兵士三名に対し、電磁投射機から散弾を打ち出す。

 改造人間の戦法に彼らは戸惑ったようで、それぞれ数発を魔法の剣で処理したのだが、残りの大半を自らの身体で受け止めてしまう。


 散弾が当たった場所に穴が開き、そこからゆっくりと崩壊が広がっていく。

 被弾した兵士は超加速が解除されスローモーションの汚い花火が咲いた。


 俺はこの兵士達に恨みが有るわけじゃない。

 知り合いを殺されたし両手両足を折られもしたが、彼らも命令に従っただけだろう。


 殺した罪悪感を感じない訳じゃないし、自分が正当だと主張するつもりも無い。

 だが、手加減などしていられない。

 以前ワルナが言った通りだな。

 俺たちは双方共に武器を取り、相手を殺そうとしているのだ。油断は大敵である。

 なあ、お互い覚悟の上だよな? 俺だって命がけだ。


 一瞬で三名を倒されて警戒した兵士達が、まっすぐ切り込むのを止めて俺を取り囲むように移動する。

 同時に鋼鉄の刃を魔法で投げつけ牽制してくる。

 俺は散弾で応戦する。

 広範囲に広がる散弾を避け損ねて、新たに兵士二名が脱落した。


 だが、さすがに精鋭部隊と言うべきだろうか。

 散弾に対する対応を即座に修正し、回避の動きを大きく変更した。

 ただ進路にばら撒くだけの散弾はもう当たらなくなっていた。


 メイコ共和国の兵士達は俺を取り囲み、刃の投擲とうてきを主体にした攻撃に切り替える。

 俺は散弾と、レーザーによる目潰しで応戦する。


 事前の想定通り、圧倒的な人数の差が徐々に俺を追い詰めていく。

 投擲された刃を回避し体勢が崩れたところを狙って、兵士五名が切り込んできた。 


 散弾だけでは迎撃が間に合わず、網状のワイヤーを射出してなんとか対応する。

 飛び込んできた五名は迎撃出来たが、その隙に残りの兵士が俺に向かって加速しながら大量の刃を投げつけていた。


 俺を囲む兵士と刃の輪が閉じていく。

 なかなか見事な密度の攻撃だった、無傷で回避するのは難しそうに思えた。


 なにもかもが想定の範囲内で、俺は予想通り絶体絶命の危機におちいっていた。


 このままだと被弾は免れない……ただし平面的に見るならだ。


 俺は一気に上空へと舞い上がる。

 俺達が行っている超高速戦闘は、思考の速度を一万倍以上に加速し、重力や慣性を制御して動くものだ。

 通常の時間で計算すれば数千Gの加速を行っており、惑星の重力など無いも同然で、地表との接触で損傷しないように常に低空へ浮いた状態で戦っている。


 改造人間にとって空を飛ぶ事など当たり前なのだ。

 だが、この世界の住人は少し事情が違う。


 サティの監禁場所がなぜ高かったのか。

 それと同じ理由だ。


 ダンジョンから供給される魔力は、大地を伝わっている間は減少量が少なく、逆に大気中だと大幅に減少していくとあの時説明された。

 つまり、地面から離れると一気にダンジョンから得られる魔力が少なくなっていくのだ。


 五十メートルも上昇すれば、受け取れる魔力の量は地表の半分にもなるという。

 この世界の常識では上空=不利なのだ。


 しかし、魔法炉から魔力を得ている俺には関係ない。


 メイコ共和国の兵士にとっては、俺の急上昇は想定外の行動だっただろう。

 途中まで追撃してきたが、それも三十メートルと上昇しないうちに止まっていた。


 敵を振り切った俺は一気に百メートル以上も上昇する。

 そこで反転し、今度は急降下しながら大量の散弾で爆撃する。

 同時にメイコ共和国の兵士を取り囲むように小さな人型が現れる。


 高度なステルス機能と両手に電磁投射機を二門装備し、低加速とはいえ慣性の制御で超高速戦闘にも対応できる。

 人型形態の俺を四十センチ程に小さくしたような姿の分身体だ。


 人質対策等に二十体を伏せてあるので、その数は残りの十八体。

 以前、仮面アベンジャーに仕掛けたのと同じ、あらかじめ分身を潜ませておく罠だ。

 敵の退路を断つように俺の分身が散弾を撒き散らしていく。

 前回より数が少ないために散弾の密度は低いが、仮面アベンジャー程の機動力を持たない敵兵にはそれで十分だった。


 メイコ共和国の兵士は逃げ場を失い、上空から降る、俺の運動エネルギーを上乗せされた散弾の前に次々と撃破された。


 結局、勝負を分けたのは魔力の供給方法で、接近戦を挑んできた四十八名の兵士を全員倒す事が出来た。


 前衛を排除した俺は、後衛の魔術師部隊へと向かう。

 フェンミィの檻になるべく余波が及ばないように、遠回りをして接近した。


 十二名の魔術師に接近すると、あの森で見たゴロツキのマジックミサイルのようなものが現れる。

 大きさは小さめだが遥かに強い魔力を感じる。


 事前にワルナから受けた説明では、魔術師も思考は加速しており魔法で超高速戦闘を行える。

 だが、身体の超高速移動は不得意な者がほとんどらしい。


 回避しようと身構えたが、敵の魔法攻撃らしきものはすぐにかき消された。

 おそらくサティの援護だ。


 俺は、内蔵したレーザーで目くらましをした後、電磁投射機で散弾ではない単発の弾丸を射出する。

 距離がフェンミィに近い為、俺自身の速度は加算しない。

 

 まかり間違ってサティが止めを刺したりしないように、十二名全員を一気に片付けた。


 サティには殺人をさせたくない。

 ワルナを見ていると貴族という立場的に、いずれサティも人を殺さねばならない時が来るのかもしれないが、それは今で無くても良い筈だ。


 メイコ共和国の兵士六十名を殺し終わった俺は、思考加速を解く。


『定速』


 超加速状態では声を出せないので口だけがその形に動いていた。


――リターン トゥザ レイテッド――


 機械音声と共に周りの景色が動き出す。


 俺達は戦闘に勝利した。



 ◇



 超高速戦闘で生まれたエネルギーが荒れ狂い、窪地に暴風を撒き散らす。


「ぶほっぶほっ、くそ、派手にやりすぎおって、馬鹿者共め。もう少し静かに出来んのか」


「これでも気を遣ったつもりなんだが……ああ、もちろんお前の為じゃないけどな」


 兵士達の勝利をつゆほども疑っていなかったジンドーラム国王の背後から、俺は歩いて近づきながら声をかける。


「ん? 貴様いつの間に?」


 振り向いた国王の声には特に慌てた様子も無かった。


「おい誰か、この醜い化け物を取り押さえろ。不愉快である。自由にさせるな。

 いや、まず両手両足を切り落とせ」


 俺達が戦闘した時間は十分の一秒にも満たない一瞬だった。

 この裸の王様には、何が起きたのかまるで理解できていないのだろう。

 まあどうでも良い、早く終わらせよう。

 俺はフェンミィの檻と、その側に居る国王に向かって歩き続ける。


「寄るな無礼者!」


 目の前まで接近した俺を、国王は手にしていた棒で突こうとする。

 俺はあえて避けなかった。


 バシンッ


 それは一昨日、城でフェンミィに使用された棒だった。

 痛みに鈍い筈の戦闘形態が、自動的に遮断する程の苦痛が全身に走る。

 おそらく痛みを与える事だけに特化した魔法の拷問具だ。

 こんな物でフェンミィを突いていたのか……。


「お前には責任をとってもらう。国王の仕事だよな?」

「誰かっ、なぜ誰も……くそ、まさか……いや、そんな……」


 やっと状況が飲み込めたらしい国王が、きょろきょろと周りを見回して怯え始めた。


「有り得ぬっ、こんなっ、こんな馬鹿なっ! 世界最強の兵が六十名だぞ! 一軍に匹敵する戦力が……おい誰かっ! 誰か残っておらぬのか?」


 みるみるうちに顔色が青くなり、恐怖でガタガタと小刻みに震えだす。


「ま……待て、分かった。この獣は返してやろう、そうだ金もやる、貴族に取り立ててやるぞ……。

 だから……の?」


「いいからもう黙れ」

「ひいいいっ、よせっ、余を誰だと……」


 ボシュンッ


 俺は戦闘形態の腕力でジンドーラム国王を容赦無く殴った。

 慣性の制御により砲弾に匹敵する速度を得たパンチは、人体を容易く爆発四散させた。

 ほんの一遍の罪悪感も感じなかった。むしろ怒りが収まらない……いや、こんなヤツに怒るだけ無駄だ、忘れよう、それよりも……。


 俺が側に置かれていた檻をこじ開けると、よたよたと中からフェンミィが四つん這いで現れる。 


「あうああううあああ」

「いま外してやるからな」


 俺は人型に戻り、拘束具と口枷を外す。


「もう大丈夫だ、遅くなってごめんな」


 四つ足の姿勢から解放され、座り込んだフェンミィの頬に手を当てると、怯えて固まっていたその表情が歪む。

 それは泣き顔で、そのまま彼女は俺にすがり付いてきた。


「ぁ……ぁぁああああっ、うあああああああああああぁぁ、だいっ だいまおっ……さま、えぐっ、こわっ……こわかった……こわかったよおおおぉ」


 フェンミィの両腕に精一杯の力がこもり、おれに必死でしがみつく。


「わあああああああああん、ひぐっ、うああああああああああああっ、あっ、あっ、ああああああああああああ」


 俺も子供の様に泣きじゃくる彼女をしっかりと抱きしめた。


 二人とも全裸だったが全く気にならなかった。

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