第十四話 小説におけるお風呂回の存在意義とは?

「ただいま戻りました、大魔王様」


 フェンミィが換金と買い物を終え、応接室に入ってきた。


「……と、サティちゃんが寝てますね」


 そう言って口に指を当てて『しーっ』というポーズで微笑んだ。

 驚いたな、このポーズってこの世界にも有るのか。

 待てよ、そういえばフェンミィは『あかんべえ』みたいなポーズをした事もあったな……。

 あれか、収斂進化しゅうれんしんかみたいな物か?


「フェンミィ、その服と靴は当家で洗濯しよう。ついでに強化の魔法もかけ直しておく」


 ワルナがフェンミィの服を見てそう言った。

 なるほど、大切な一張羅いっちょうらが汚れていたが……強化の魔法?

 あの服や靴にも魔法がかかってるのか……。

 まあ、フェンミィがいつもあの速度で動いていたら、普通の服や靴はあっという間にボロボロになりそうだよな。


「着替えに私の古着と靴を進呈するから何着か持って行くと良い」

「え! 洗濯と魔法はありがたいけどワルちゃんの服や靴は貰えないよ。そんな高価なもの……」


 フェンミィがワルナの申し出を断る。

 なるほど、本当に理由のない施しを受け取らないんだな。


「今回の討伐報酬だと思ってくれ。本当は金貨を支払いたいくらいなんだがな」

「要らないよお金なんて、友達なんだから。それに大魔王様を治してもらったし」

「だがそれでは不釣り合いだ、私が恐縮するぞ」

「う~ん…………分かった。じゃあ、ありがたく貰うね」

「うむ、そうしてくれ」


 ワルナがフェンミィに服と靴を受け取らせる事に成功した。


「今日はもう遅い、二人共泊まっていってくれ。

 フェンミィには話したい事もあるから、明日時間を作って欲しい」

「分かったよ」


 明日、ワルナが話したい事というのは、大魔王に関する各国の真実についてなんだろうな。



 ◇



 その後は、まず入浴となった。


 この世界にもお湯につかる文化があり、獣人の村や大魔王城にも風呂は存在する。

 だが、さすがは領主の館、獣人達の手作り感溢れる風呂とは違いホテルの大浴場といった豪華さだった。

 驚いた事にシャワーまで存在する。


 ちなみに、この建物はトイレも水洗で、蛍光灯並みに明るい魔法の照明が有る。

 魔法って凄いな。


 実は大魔王城にも立派な浴場はあるらしいが稼動していない。入れるのはフェンミィ用に獣人族が作った風呂だけだ。


「あーっ、良い湯だなぁ……」


 俺は足を伸ばせる広い風呂を満喫していた。


「バンお兄ちゃん!」


 いきなり目前の空中に裸のサティが現れた。

 瞬間転移だと! そんな事も出来るのか。


 ばっしゃーん


 盛大な水しぶきを上げてサティが着水する。


「ぷはっ」

「おい、大丈夫か?」

「あはは、へーき、へーき」


 なんかテンション高いな。まあ、楽しそうだからいいか。


「ねえ、みんな向こうでいっしょだよ、なんでバンお兄ちゃんは来ないの」


 向こうで一緒ってフェンミィとワルナか。

 この屋敷に浴室は複数有って、男女で別々の入浴となっている。

 残念ながら混浴をする文化ではないみたいだ。

 なら一緒に入るわけにもいかないだろう。


「いいんだよ、俺は一人で」

「どうしてえ? いっしょにお風呂入りたくないの?」


 サティの言葉を受けて俺は美少女二人のあられもない姿を想像する。

 

「そりゃ入りたくないか? と言われれば入りたい……というか、見たいけどさ。そんな訳には……」

「ならいっしょに入ろ」


 そう言ったサティが俺の手をとった。


 次の瞬間、湯に浸かっていた筈の俺は空中に浮いていた。

 そしてすぐに落下し、湯船に着水する。


「ぶはっ、おい、サティ……」


 お湯の中から顔を上げた俺の前に……。


「だ、大魔王様……」

「バンだと?」


 全裸で湯船に立つフェンミィとワルナが居た。

 一瞬、まるで時の流れが止まったかのように固まる三人。


 湯の深さは膝より高い程度なので女性二人の身体は丸見えだ。 

 まずいとは思ったが男の性で目が離せない。


 十代半ばである少女達の裸体は若さを誇るように水を弾き、瑞々しくハリがあり艶やかで美しかった。

 

 年相応にまだ成長の余地を残しているように見えるフェンミィの、どこにあのパワーが潜んでいるのかと思うほどスマートでしなやかな肢体。

 そして、その若さで既にスーパーモデル並みのおうとつを持つワルナの、筋肉質だがマッチョという程ではない躍動的な肉体。

 両者は甲乙付け難い素晴らしい魅力に溢れている。


「バンお兄ちゃんが見たいって言うから連れて来たんだよ」


 一人、時間が止まらなかったサティがとんでもないことを言い出す。

 そして、それをきっかけに俺達は動き出す。


「ななな何してるんですか!」


 顔を真っ赤にしたフェンミィが、両手で身体を隠し湯の中に沈みながら背を向ける。

 うんうん、女の子らしい当然の反応だな。

 だが、ワルナの方は何故か仁王立ちのままだ。


「あっ、いや、その、ちが……」


 なんとか言い訳を捻り出そうと慌てる俺の前で、全裸のワルナが腰に手を当て胸を張る。


「なんだ? 私の裸が見たかったのか?

 また随分と俗なことを……だが、まあ良いだろう。

 貴公には礼が足りぬと思っていた所だ。正面から堂々というのも気に入った。

 見るくらいなら許そう。存分に堪能たんのうするといい」

「……え? いいの?」


 ガシッ


 ワルナの裸をじっと見つめた俺の頭を背後から挟む物があった。

 いつの間にか俺の後ろに回ったフェンミィの両手だ。


「だ・い・ま・お・う・さ・ま」


 あ、声が怖い、これは相当怒ってるな……。

 物凄い力で頭を捻られ、横を向いた俺の視線からワルナが消える。


「あいたたたっ」


 遮断する程でもない痛みが俺の首を襲う。


「そのまま立ち上がってください、ほら、早く!」


 俺は少しでもフェンミィの怒りを静めようと、素直に従い立ち上がる。


「はい、歩いてください、お風呂の外まで! いっちにっ、いっちにっ」


 頭を掴まれたまま視界に女性の肌が入らないように誘導され、浴場から退出させられる俺。

 だがフェンミィ、君は興奮して気がついて無いようだが、その裸の胸が俺の背中に当たっているぞ!

 俺は指摘しようか迷ったが、事態を悪化させるだけのような気がしたので黙っておいた。


 うう……柔らかくてスベスベでなんて心地良い、そしてぽちっとした先端の感触が……。


「いいですか大魔王様っ! 覗きは禁止です! 分かりましたね!」


 俺を浴場から廊下に裸で押し出し、フェンミィがそう言ってドアを閉じた。


裸で廊下に取り残された俺を見て、通りがかったメイドさんらしき二人がクスクスと笑っていた。

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