第三話 虚構の正義と真実の悪
取り込んだワイヤーウルフの再生機能が、俺の再生機能を優先して修復した。
再生能力が復活した俺の身体は、見る見るうちに元の姿を取り戻す。
同じ改造人間の身体は修理用の素材としては最適だったようだ。
俺は、ただ呆然と修復されていく自分の身体を見ていた。
「お前……泣いているのか?」
身体を修復し終わった俺に、いつの間にか傍らまで接近した仮面アベンジャーがそう言った。
…………そうか、俺は泣いているのか…………。
「……どうしてこんな事になったんだ?」
俺は胸を切り刻むような喪失感に耐え切れず、
「なぜ俺はお前と戦っていたんだ?
あの子を危険にさらしてまで……なんの為に…………。
教えてくれ、仮面アベンジャー」
「そうか、脳を半分破壊されて脳改造の影響が消えたのか……。
お前はただ命令に従っていただけだよ、ロボットのようにな」
あれほど憎いと、倒したいと思った仮面アベンジャーに、今はなんの感情もわかない。
胸に大きな穴が開き、そこから何かが漏れ続けているようだ。
苦しい、苦しい、胸が、心が、どうしようもない程に痛む。
「……俺は、どうすればいいんだ」
「知らん。もうお前に用は無い、好きに生きろ。
俺は大首領ゴッドダークを倒す」
そう言って俺に背を向け、地下基地の入り口へ向かう仮面アベンジャー。
大首領?
俺は思い出す。
これは全てあいつの所為じゃないのか?
俺を、彼女を改造し、支配したのは奴だ。
心を壊しそうな痛みと苦しみに耐えかねた俺は、生まれた憎悪に必死ですがり付く。
そうだ……奴が悪い、奴が憎い。
大首領ゴッドダークが!
「待て、仮面アベンジャー」
「なんだ? まだ戦う気か? ワイヤーウルフの復讐だというなら付き合っても良いぜ……」
「違う。そうじゃない。
いいかよく聞け、地下基地にゴッドダークは居ないんだ」
脳改造の呪縛から解放された俺は、自分の知っている情報を仮面アベンジャーに伝える。
「どういうことだ?
ここがジャッジ最後の基地であることは調査済みだ。
……まさか、この期に及んであいつを庇う気なのか?」
「違う。出来るなら俺もこの手で奴を八つ裂きにしてやりたいくらいだ。
だが、本当に大首領ゴッドダークは居ないんだ」
仮面アベンジャーが身体ごとこちらを向き、俺の話に耳をかたむける。
「全ては茶番だったんだ。
ジャッジは単なるダミー組織で、貴様の裏切りも予定通りの行動だった」
「……な、なに?」
仮面アベンジャーが怪訝な声をあげる。
「俺達の争いはカモフラージュだったんだ。
本当の世界征服を担当する別の組織を動きやすくする為のな」
まだ理解が追いつかないという反応をしている仮面アベンジャーに、俺は話を続ける。
「要人と入れ替わったジャッジの改造人間を排除したと言ったな? だがその後、改めて政府や大企業の要職に納まった人間も、ほとんどがゴッドダークの支配する改造人間だ。
ジャッジのそれと違って、どんな検査でも人と区別出来ない完璧な完成度を誇る……な」
そこで俺は一旦言葉を切ってから、
「つまり、ゴッドダークの世界征服はもう完了しているんだ」
仮面アベンジャーに絶望的な真実を突きつける。
「今回、俺達に課せられた本当の任務は、悪の組織として盛大に滅ぶことだった。
ジャッジによる一連の大事件が終わり、大団円に収まったように見せかける為にな。」
「…………馬鹿な」
「事実だ」
「出来れば貴様を道連れにするように言われていたが、失敗しても特に問題は無い。
平和になったように見える世界で、突出したお前の力は危険視されていく予定になっているからな。
良くて軟禁、最悪新たな人類の敵に仕立て上げられるぞ」
「そんな馬鹿な…………」
仮面アベンジャーがうめくように声を絞り出す。
「万物王、お前はその入れ替わった組織の改造人間が誰なのか知っているのか?」
「知らされていない、必要が無かったからな。
だが、おそらく大量に居るぞ、もしかしたら世界中で全ての要人が取って代わられているかもしれない」
しばらくの沈黙。
「畜生……こうなったら、怪しい奴を片っ端から締め上げて…………」
「それこそゴッドダークの思う壺だ。
今はどこかに潜伏すべきだろう。そして、協力者を増やし真実を…………」
――アラート オートマチクリィ トランスフォーム オーバークロッキン――
突如脳内に響く、聞きなれた自動音声。
俺達の自動防御システムが作動していた。
戦闘形態になると同時に思考加速装置も起動されている。
なにが起きた?
原因は直ぐに判明した。
俺の複合センサーが、地下から広がる爆発の波を探知していた。
これは爆弾か?
そうだ、この反応には心当たりが有る。
時空破砕爆弾だ。
ジャッジの新型爆弾で、まだ一度も実戦で使用されたことは無い。
空間すら破壊しつくすと言われており、何が起こるかも確定していないという恐ろしい爆弾だ。
俺と仮面アベンジャーは、熱核爆弾の至近爆発ですら簡単に死なない程の防御性能を誇るのだが、それでもこの爆弾が相手ではひとたまりも無いだろう。
俺達は重力と慣性を最大限制御し、最大加速で離脱を試みる。
だが、それでも振り切れない。
そして俺達は爆弾の効果範囲に飲み込まれる。
世界が白く輝き。
全てのセンサーがホワイトアウトした。
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