蛇と蛙が手を繋ぐ

「――ううん」

「起きろ」


「あ痛っ」


 モコモコが目を覚ます。砕かれた大岩だが、それでも大きな破片の一つがモコモコの頭に直撃した。一時的に気を失ったそれを、理が引きずり安全な場所まで連れてきた。


「おお、なんじゃ、どうなった」

「無事か、モコモコ」


 近寄るデグ。顔が汚れているが、目立った怪我は無い。


「だから儂はモコモコじゃあない、ってなんじゃありゃ」

「……暫くあそこには行けんなぁ、狩場も荒れてしまっとる」


 噴火した火山はその周囲の環境を大きく変えた、デグは慣れたもので狼狽えた様子はない。モコモコも気づいた瞬間こそ、目を見開いたが直ぐに状況を理解し落ち着いた。


「というか、何度も噴火しているのに、その下でグースカ寝ていたんだろお前」

「おお、小さいのに強い奴。お前も無事だったのか」


「当たり前だ、それより……」

「そうじゃ、起きたんなら良いじゃろ、羽根寄越せ!」

「まだ言いよるか、こんガキ――」


 目覚めたばかりだというのに、また臨戦態勢になるモコモコ。気を失っていたというのに堪えた風ではない。


『待てって言っているでしょうが!』

「……なんじゃ小娘、いい加減に――」


『少し黙って下さい、モコモコさん』

「お、おう」


 怒りが頂点に達しているメーディに、流石の超生物も圧される。


『デグさん』

「お、……はい」


 矛先が向き、立ったまま姿勢を正すデグ。既にメーディが場を支配している。理も頭を掻いている。


『貴方は直情的過ぎです、ちゃんと言葉を相手に、正しく伝えてください』

「儂はしっかり――」


『出来ていません、反省して下さい』

「はい」


 デグを一喝すると、改めてモコモコに向き直る。


『済みません、モコモコさん』

「――儂は、リュリャンドラ・エグニバル・ノインツァ。モコモコではない」


『そう、なんですか。ではリュリャンドラ・エグニ――』

「ノインツァ、でよい」


『……ノインツァさん、デグさんは、何も貴方の羽根を全て毟り取りたい訳ではないんです』

「――は?」


 ポカンとした顔を作るモコモコ――改めノインツァ。それを見て、やっぱりという表情のメーディ、と理。


『その大きな羽根の、ごく僅か。デグさんの体格にあわせた、二枚ほど頂ければそれで良いのです』


 同意を求めた視線に、デグが頷く。


「そう、じゃったのか……、儂はてっきり」

『不思議ですよ。それだけの威容と、智慧を持ちながら、基本的なコミュニケーションすら取れないなんて……』


 甚くがっかりしたメーディ。初めてみた時は、その姿に感動すらしたのに。中身がこれほど残念とは。


「ガキンチョ、それならそうと言ってくれれば……」

「言うたろうに……」

『言ってないです』


「はい」


 子供のように窘められ、すっかり形無しのデグである。


『それで、どうでしょう』

「うむ、それぐらいであれば幾らでも持っていけ。どうせ直ぐに生えてくる」


『全く……、理さんも、分かっていたでしょう?なんで言ってくれなかったのですか』


 腕を組んで話を聞いていた理に水を向ける。


「別に、死体から剥ぐのも変わらんだろうに」

「なっ……」


 さらりと言い放つ様子に、目を剥くノインツァ。圧倒されたという事実があるので、理が言っていることが冗談でも、満身でもないと分かるからだ。


「何じゃ、この男……、儂を何だと」

「でかい蛇」

「おお、なんとも……」


 唖然とする二匹。


『デグさん、この人を焚き付けるということが、どれほど愚かか、理解して頂けましたか?』

「ああ……。分かった、凄く……」


『では、話は終わりです。お二人とも、何か言うことはありますか』


 伺うようで、ほぼ威圧しているメーディ。言うことがあるだろう、と目が言っていた。


「すまんかった、はっきりと言わんで……」

「儂も、早とちりしてしまったようじゃで」


 蛇とカエルの、和解が成立した瞬間である。


「話は終わったな?んじゃあ」

「うむ!それでは……」

『ええ』


 三人共、それぞれが思いを口にする。それは意図せぬが、同時であった。


「「『海へ!』」」

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