会話不成立
理とメーディは宙にいた。
危惧された防衛装置への対処とは、メーディの術であった。自然への同化、それを以て舞い降りる。策は成功し、無事に通路へと着地できた。
降りる最中に門が見え、その前に兵がいるのが確認できた。取り敢えずは街へと入りたいので普通に接触することにし、門番の前で術を解く。
すると二人を発見した二人の門番が驚きに目を開き後ずさり、片方が何やら後方に合図を行った。大事になる前に話を付けるべく声を掛ける。
「よう。初めまして、俺は理と言う者だ。そんでこっちが……」
『メーディと申します、どうぞ宜しく』
「……!う、うん。私はナッシュと言う、ここには何用だ」
メーディが通訳している、が理の声をある種のフィルターを通して伝えており、向こう側が理解しやすいニュアンスで届けている。
質問を受け、理とメーディが顔を見合わせる。
「『興味がある(ので)』」
「興味……?それにしても二人だけとは。どこからか逃げて来たのか」
「いんや、ふらっと立ち寄ってな。風の噂でここに街があると聞いて」
「ふむ……。であれば暫し待たれよ、ある程度検査をさせて貰う。街へ害を齎すか判断せねばならん」
「手早く頼むぜ」
「善処しよう」
理は相手の身なりを見て、この街が少なくともメーディのいた村よりは文化的であると判断した。それが強さに直接繋がるとは言えないが。兵器が強いだけでは戦う相手としては不適である。
メーディはかなり興味を示している。理に次いで、二度目になる外の人間との接触。それもある種『普通』とも言える相手である。
そうこうしていると門が開いて十数名の兵が現れ先頭の人間、恐らく隊長の者が近づいて来る。門の奥には更に門が見えた、かなり厳重に防備しているようだ。
それはナッシュと会話をしており、理との会話を伝えているのだろう。
隊長と思しき相手は爬虫類のような顔でナッシュと同様に、何かの獣の革で出来ているスーツを着ているがナッシュのそれよりもやや装飾が多い。立場を示しているのだろうか。
「どうも、私はアデールと言う。理殿、どうぞよろしくお願い致す。……それで幾つか聞きたいのだが――」
「……ふうむ」
話を受け流しながら、理の興味は警備兵の装備へと向いている。
「――理殿?聞いておられるか?」
「ん?ああ、聞いてる聞いてる。大丈夫だ、殴り込みに来た訳じゃない」
「なので第一門の内にある兵舎で細かい話を聞きたいのだが」
「……面倒だな」
『ヒエッ』
メーディが小さく鳴った。
「それだと困る。無害を証明して貰わないと入れる訳にはいかない」
「んー。最悪それでも良いんだが。俺は只この街にいる強い奴と戦いたいだけだから。――あ、それだと殴り込みになるのか。……悪い、やっぱり殴り込みだわ」
『ヒャー!』
辺りがざわめく。同時にメーディが大きく鳴ったので理が見た。
「なんだよ、煩いな」
『なんだよじゃあないですよ!なんで急に喧嘩を売っているんですかぁ!通訳を止めていいですか!』
そうは言うが、役目を放棄した時に自分へ被害が及ぶのではと思うとメーディも動きが取れない。
「……そうなったんだ」
『ならないでしょう!普通!』
「……理殿」
アデールが震えながら声を出し、その後ろでは兵たちが言葉を交わしている。
「まさか、こいつがカガール様と……?」
「馬鹿な、こんな男に――」
「静まれ!」
アデールが一喝すると理に話しかける。
「それではこの門を通すわけにはいきません。どうかお引き取りを」
「嫌だよ」
『会話をして!』
紛糾している中で、理が一歩を踏み出した。今まで交渉などしたことも無い理が、穏便に会話など出来る訳が無い。ある種子供のように素直な男なのだ。
理が交渉など出来ないと分かったメーディが取りなそうとするが既に遅い。兵たちは臨戦態勢だ。
もう一歩理が進むと、一人の兵が足元に矢を撃った。それを手に持った理がしげしげと観察する。
「これだ、これ。……でも今のは大した事が無かったな」
『ちょっ、待……』
更に進み兵の一人に近づいて弓を奪い取った。理にとってはなんてことがない動きだが彼らにすると恐るべき早業に、反応できず奪われたことに遅れて気づいた兵たちが慄く。
「構え!」
アデールが号令を放つと兵が一斉に矢を向けた。メーディには目もくれずに理を狙う。理は涼しい顔でそれを見ている。
「――放て」
矢が飛び、ほぼ全てが理に真っ直ぐ進む。まさに直撃せんという瞬間、理が腕を振り下ろす。軽い動きに見えたそれは、矢を残らず吹き飛ばした。
「……やっぱり大したことないな」
「――、馬鹿な」
「なあ入れてくれないか、強い奴を探したいだけなんだよ」
「警報を鳴らせ!レベル3!緊急事態である!」
……面倒事になってきたな。
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