客人

 メーディに案内された、させた場所。俺の宿になる所。無ければないでもよいのだが。野晒しで寝たぐらいでは風邪も引かない。ともあれ用意するというのだから断る理由はない。


『こちらになります……。申し訳ありません、何分空いているのがここしか無かったもので……』

「構わんさ。屋根があるだけで随分違う」


 他と同様の木を開いたような住居なのだが、どうやら長いこと住人が居なかったようで。それで倉庫として利用していたようだ。俺が入るということで慌てて片付けたのだろう、少ないが雑多なものが散らかっている。

 本当に済まなさそうなメーディだが、そもそも家を提供される。それなりに受け入れられただけで重畳。予想外なのだから一切気にしないでもいい。

 そう伝えた所、頭を恭しく下げた。どうにもこの女、メーディは相当丁寧な態度であり、最初はこういう人間達なのかと思ったがどうにも彼女が変わっているらしい。


「なあ、俺以外にここを訪れたやつは居ないのか?」

『そう聞いております、少なくとも私が生きている間には一人もここに部外者は来ておりません』


「ふうん。それで『最強』ね。大したもんだ」

『――デードル様のことですか』


 やや棘のある言葉。どうやらあいつはこの村の中ではかなり尊敬を受けているらしい。確かにこの中では強くはあるのかもしれない、俺からすれば違いは有って無いようなものなのだが。


「そうだが、なにか?」

『貴方はデードル様よりも強いのですか』


「比べられるのが心外な程にな」

『それは、物凄い自信ですね』


「まだなにか聞きたいことが?」

『……貴方、外の世界は――。……いえ、何でもありません』


 謙虚なことで。


「あー。そうだ、食い物だが」

『食べ物!?』


 素っ頓狂な声。始めてこの女の人間らしい声を聞いた気がする。


「……何か?」

『あな、貴方は、『肉食』なのですか』


「そうなるな、雑食だが。俺は肉が特に好きだな、うん」

『ひえっ……』


 後ろに飛び退いた、そして怯えた目。


「別に獲って食いやしないぞ」

『本当ですか?』


「ああ。人間なんぞ、よっぽど飢えなければ口にしたいとも思わん」

『……本当に?』


「くどい」


 どうやらこいつらは肉食ではない、肉は食わんらしい。そしてこの怯え様、この辺りには獰猛な肉食獣でもいるのだろうか。そう聞いてみた。


『そういう訳ではありませんが……。デードル様よりも強いと仰る方がそうだとわかると、どうにも……。失礼致しました』

「ってことは備蓄とかは無い、そもそも食わないから狩りもしないのか」


『そうなります、脅威を退ける為に狩りは行いますが、亡骸は燃やしてしまいます。又、それが食べられるかどうか、毒などがあるかは……』

「それは構わん。肉さえあれば“大体食える”」


『そういうもの、なのですか?』

「いんや、俺が特別なんだ。んじゃあちょっくら行ってくる……、あ」


『え?』

「これ」


 腕が縛られているのを思い出した。まあいいか。


「行ってくる」

『ええ?困ります、解かれては!』


「問題ない『解かない』から」

『ええ!?』


「なんか塗料……、これでいいか」


 そこに落ちていた木の実。潰して縄に擦り付けるように頼む。

 頼むと取り敢えずやってくれる。素直だが流されやすいのか?


「これで解いたらわかるだろ、証人になってくれるか」

『それは構いませんが……、ああ!』


 話半分、同意を得た所で外に飛び出す。なんとかなる、ならなければそれは俺にとっては良いことでもある。それだけ強い生き物なのであれば。






・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・






 ダーダーは再び森の外側をぐるりと周るようにして歩いていた。

 想定外の事態、理との接触により中断を余儀なくされた警邏の任を改めて行こなっていた。

 理という男には皆警戒をしているが、ダーダーとゲーダォに限ってはやや認識が異なる。というのも彼らだけがあの男とまともに接触しているからであり、元老院との会合があったとはいえその模様は他の人間には預かり知れぬことであるでもある。

 ダーダーはコトワリという男に強い関心を持っている、それは好意的な意味を多分に含んでいる。

 それは彼がまだ若者の範疇であるからだろう。要するにダーダーは外の世界への興味があるのだ。故にそこから来たであろうコトワリに惹かれている。

 その点においてはゲーダォとは意見を異にしている。ゲーダォもコトワリにはある程度信頼、村に害をなす類ではないと思っているようだが、それだけだ。恐らく責任感。ベテランと言われる年齢にあるゲーダォは外への思いは、本心はどうにせよ表に出すことはない。

 只々、自分が成すべきことを行う。その姿勢にダーダーは素直に尊敬しているが、同時に自分とは違う、達観にも似た見識には今は共感できない。

 とは言え、今は警邏が大事だ。手を抜けば自身もそうだが、村への被害が及ぶ。それだけは避けなければいけない。


 これはダーダー、モードゥ族。閉じた世界に於いて致し方ないことではあるが、全員が帰属意識。集団への奉仕を常識として扱っている。それは存続に必要不可欠でもあるが、それがある限り『発展』は望めない。あっても微々たる、酷く低速な進歩が精々だろう。


 仕事に専念するために私事は心にしまい込む。

 そうしていると村の方向から近づく気配、ここはダーダーの責任の範囲であり基本誰かが来ることはない。

 つまり厄介事か。心当たりはあるが。

 思っていると、現れたのは予想外。いや心に思い描いていた人物が現れた、それ自体が来ることが予想外なのだが。

 コトワリ。今村の話題の中心人物がこちらに向かってくる。何故、逃げ出したのか。

 そう考えたがどうにも違う、何故なら彼は未だ腕を後ろに回している。つまり縛られた縄を解いていないのだ。それは約束を守っている証左であり、そうでもなければそのままにしているコトワリ由がない。


『何故貴方がここに?』

「……ああ、そうか。言葉がわからんのだった」


 コトワリの言葉がわからない、そうであった。だから村ではメーディが付いているのだった。

 であればどうしたものか、話せないのであれば理由が聞けぬ。だがコトワリは止まらず横を通り過ぎる。流石に放っては置けないので呼び止める。


『ちょっと待ってくれ、どうして。なにをするんだ?』

「だからわからんっての。見てりゃ分かる、お仕事の手伝いさ」


 ダーダーがコトワリの肩越しにモーブルを見つけた。それも二頭、恐らく“つがい”であろう。今は繁殖期に当たり、その時期のモーブルは何時にも増して獰猛であり狩りには慎重を期する必要がある。

 それを知らないのであろう、コトワリは無警戒に近づいていく。こうなれば力づくでも止めるべきだろう。彼も分かってくれる筈だ。

 しかし止める間もなくコトワリが走り出した、かなり早いが姿勢で言えば軽く、駆け足程度である。その事に驚いている間にモーブルに接近してしまった。

 モーブルもそれに気が付いたが、やはり気が荒くなっているモーブルは逃げること無く頭部の三本角を向けて威嚇している。

 あまりにも不用心に、真正面から突っ込むコトワリ。あれでは殺してくれと言わんばかりだ。


『コトワリ殿!』

「……食いでが無さそうだな。まあ無いよりましか」


 四肢を踏ん張り構えたモーブルが角を突き出す刹那、その頭が弾けた。

 訳が分からなかったが、コトワリの姿勢。そしてその足についている『血』を見れば明らか。

 蹴り殺したのだ。それもダーダーにも見えず、モーブルの反応も出来ないほどの速度の蹴り。

 野生動物であっても異常に気が付いたのであろう、モーブルが嘶いた。甲高い、鳥類にも近い鳴き声は多くの者を強張らせる不気味さを携えている。

 しかしコトワリはまるで意に介さず襲いかかる。やや距離がある、モーブルが加速するには充分なだけはある。やはり迎え撃つモーブルが走り出した、そしてコトワリも変わらず正面から向かう。

 中間地点でコトワリが跳んだ、モーブルが前足を上げて迎撃する。

 空中で体を捻り、横に回りながら蹴りを放つコトワリ。

 角とぶつかり、そして角が粉々に砕けた。


『馬鹿な!』


モーブルの角は武器にも成る程に強靭であり、加工にモーブルの角を用いる程だ。それ程の硬さの角が粉々になる。信じられない威力の蹴り。

更に驚くべきは、二頭を仕留めた蹴り。それは明らかに『手抜き』した攻撃であることだ。

草木を払うかのような仕草。二頭目を仕留めたのは曲芸じみた技であったが、それも練習にしても気の抜けたものに見えた。


「うーん、やっぱり食うとこあんまり無さそうだな。どうしたもんか、他にもっと良いのがいればいいが」

『あ、あの!』


「ん?」

『貴方は、どれ程の。どれだけ強いのですか?』


 凡そ理解の及ばぬ戦い、にもならない。羽虫を払うかのような行いに畏怖する。

 これだけの強さ、もしや本当にデードル殿よりも……。


「言葉がわからんと何度……。まあ今のは何となく分かったが。そうな、途轍もないさ」


 何とでもない、と言ったようなコトワリの仕草は、その強さ。それが俺の想像に及ばない次元だと、そう示しているように見えた。


 ダーダーは理に、確かに今までに見たことのない。『広さ』を感じさせた。






 メーディはコトワリの仮宿でオロオロしていた。

 この事を報告すべきか、彼は戻ってくると言った。なれば悪戯に騒ぎを起こすのは良くないのではないか。

 しかし私に役目は彼の面倒を見る、そして監視をすること。今はその半分が出来ていない。

 困る中でメーディは少しだけ苛ついていた。なんで最も若い神官である自分にこの様な大役を任せたのだろうか。そしてあの男は何故人の話を一つも聞かないで行ってしまったのか。概ね後者に苛立っている。

 野蛮。初めてみた外の人間種があれだったことに動揺する、もしも外の世界に出た時にあのような人間が大勢なのだとしたら自分はやっていけないのではないだろうか。

 少なくともコトワリと会話するのは相当に神経を使っている。

 自分がこれほど悩むのは初めてだった。今までは言われたことを忠実に熟していれば良かったのに。変わったことをする必要もなかったのに、あれに出会ってからまだ幾ばくも経っていないが先を思うと辟易してくる。

 疲れているのだ、そう思おう。そしてあの男がさっさと出ていくのを願おう。そうしたらいつもの平穏が待っている筈だ。






 デードルは自分の家で座り込んでいた。恐らく他の者が今のデードルを一目見て声を発せる者はいないだろう。生まれた時から神に愛された者、選ばれし戦士と呼ばれ続け。事実彼はその期待に応え続けた。村を害する生物を数え切れないほど屠ってきた。

 デードルに掛かればモーブルの群れも何の事はない。

 彼は未だかつて無い恥辱に憤っていた。最強というプライド。誰もが認める事実であるにも関わらずあの男、そしてサーディナの言葉。

 それがデードルの脳内でリフレインする。拳を握り、ただ黙っている。


 その時外で騒ぐのが聞こえた、それは戦いの音に聞こえたため飛び出した。

デードルの家の前は戦士の家が集まる場所であり、修練場を兼ねているためかなり広い。

 そこにいたのは件の男、コトワリだった。

 大火の前に立っていたコトワリ、まさか火事でも起こす気かと声を上げた。


『何をやっている!』

「……なんだ?」

『デードル様、これは違うのです!止めたのですがこの人が聞かなくて……!』


 横にいたのはお目付け役のメーディとかいう神官。あまり関わったことがないのでよく知らないが、それが慌てていた。

 よく見ると周りには戦士が幾人も倒れていた。

 コトワリの足元にはモーブルの死体、コックバもある。しかし数が多い、全部で数十。モーブルも10以上ある。殆どが骨だけになっている。

 奴はそれを食べていたのだ、驚きに目を見張る。コトワリは肉食だったのか。


『なんと野蛮な……!』

「お前もか。細かいこと気にしてんな、良いじゃねえかなんでも」


 近づき胸ぐらを掴む。コトワリは顔色も変えずに立っている。


「なんだよ、邪魔すんな。食ってる途中なんだから」

『今すぐ出て行け!』


「許可は取ったろうに」

『俺が許さん』

『デードル殿、流石に元老院の決定を反故にする訳には!』


 ゲーダォが止めるが、苛立ちは収まらない。手は放したが睨みつけている。それも涼しげに流すコトワリに更に腹を立てる。


『こうなったら力づくにでも……』

「やってみろよ」


『――な』


 一瞬、呼吸が止まる。コトワリの眼を見た、そして“逸してしまった”。


「……はっ、そんなもんか。やっぱり駄目だなお前。この娘のほうがまだマシかもな」

『……』


 最後だったのだろう、モーブルの足を齧りながらコトワリは立ち去っていく。こちらを一度見たが、已む無くと言った様子でメーディが付いて走っていく。

 それにデードルは声を掛けることが出来なかった。






・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・






 次の日の朝、理は起き上がると大きく伸びをした。肌掛けをくれると言ったが断った。

 なにせ禄に寝ていない、寝る必要がないから。これまでの日々。戦いに明け暮れる中でいつの日か睡眠というものに対する抵抗というものが出来た。生きている中で最も無防備な瞬間。それの一つが睡眠中。だから理は質を上げた。野生動物のような臆病さで、横にはならず座った状態で短時間、数十分。短い時には十分少々で済ませる。その中で充分に回復できるようにする、体に促す。それも理の肉体が有ってこそだがそれ以上に弛まぬ精神性が要になる。

 理は最強を目指す中で、当然のことながら敗北は出来ない。最終的な敗北、つまりは死。それさえ無ければ一時的な撤退など気にもしない。どこに自分を殺し尽くせる者がいるとも限らない。耐えられさえすればどうとでもなるが。

 という訳で夜間は座り込み精神を研ぎすませていた。外に出て森のなかで感覚を養うこともした。日々是鍛錬。それを当然のように、生命活動の一部に組み込めるのが強さの秘訣でもある。


 立ち上がり動き出す、朝飯を調達しなくては。昨日は同じものを多く食べたが今日は趣向を変えて野草の類や果物に手を出そうか。毒物も大概は何とかなる。昔に毒を克服するためとドクツルタケとかカエンタケ等の猛毒系食物を食べて死にかけたが乗り越え、好んで食べていた時期もあった。

 この世界特有の毒。それに耐性ができたら一挙両得と言うやつだろう。

 歩くと入り口の横にメーディが寝ていた。見張りをしている以上致し方ないのだろうが代わりもいないとは可哀想なことだ。なんだかうなされているようだ。


「コトワリ様……、止めて。……止めろ――」


 何を言っているかわからないが、俺の名前を呼んでいる。参った、惚れられたか?これだけの年下は守備範囲外なんだが。二十歳にもなっていないのではなかろうか。

 まあいいか。どうでも。


 野草を片っ端から食べ、きのこや果物にも手を出した。毒らしきのもあったが害される程では無かった。若干胃もたれしている気もするが。

 朝早く、空の帯での朝は独特な雰囲気があった。これだけでも地球から来た者がいれば体調を崩しそうだ。別世界、そうありありと感じさせる景色だ。

 途中で見回りの兵士に会った。昨日食事を邪魔した者の一人で、頬の植物の色が殴られたせいか、悪かった。こいつらの区別は顔ではなく植物で見れば、葉の数などでまあまあ見分けられる。大雑把だが。

 挨拶したが怯えられ遠回りされる始末だった。仕方ないとは言え悲しいものだ。……そうでもないか。

 村に帰ると入り口でメーディが佇んでいて、俺の顔を見るなり近づいてきた。これは俺でも分かる、怒っている。プンプンという音が聞こえそうだ。


『どこに行っていたのですか!』

「朝飯食いに。そう怒るな」


『怒っていません!』

「じゃあ問題ないな」


 唖然とするメーディを置いて歩き出したが、すぐに兵士に囲まれた。

 その中から昨日見た元老院だかの一人、話した奴が現れた。


「なんだ?やっぱり追い出す気にでもなったか」

『すぐそうやって結論を出してはいけませんよ、まだお若いからですかね』


「あんたは……、えーと。サーダ、デ?」

『サーディナ。今日は貴方に用、話がありましてね』


「話とは?」

『海食い、という生き物。存在を知っておりますか』


「知るわけ無いだろう。昨日来たばかりだぞ」

『まあ、そうでしょうね』


 歯に衣着せぬ物言いに兵士も不快感を隠さない。しかし理の強さを知った以上迂闊に手は出せない。

 しかもサーディナが何も言わぬのだ、後ろからしゃしゃり出る訳にもいかない。


「で?強いのか、そいつ」

『そういった物差しで計れる存在では有りませぬ故、なんとも。ですがそれ以外、どういったものなのかは説明できます』


 サーディナの話、海食いとやらのことを聞くに連れて口角が上がる。

 喜色満面の俺を見て兵士が騒然とする。サーディナも驚く素振りを見せたが、どこか分かっていたような風でもある。


「良い、実に良い。そういうのだ、そいつを求めていたんだ……!」

『やはり、挑まれるおつもりですか』


「当然!」

『あれは神にも例えられる存在ですよ?』


「なればこそだ。神に近ければ近いほど良い、挑み甲斐がある。意味がある」

『流石ですな』


 昂りは抑えられないが、ふと思う。


「お前らはそれをどうしようともしないのか?昨日の……、デードルだったか。そいつがいるだろう」

『あれは人の手には負えません、そう私たちは判断したのです』


「それで俺をけしかけようってか」

『極論を申せばそうなります。ですが言いました通り、こちらは既に踏ん切りを付けつつあります。貴方様が強い者をお求めと聞いたので、試しにと』


「ふん」


 治める者、上に立つ者としてはまあまあだろう。使う、という程ではないにせよ出汁にされている感は否めない。だがいい。このことを教えただけでも貸し借りは帳尻が合う。

 本当に言葉通りの強さであれば、にはなるが。


「それじゃあ早速」

『少し待って下されますか』


「は?」

『私も同行を願いたいのですが』


兵士が驚いている。聞いていなかったのだろう。


「なんだ、自殺願望でもあるのか?」

『まさかです。村を治める者の一人として、そして知識を蓄えた者として。海食いをこの目で見たいのです』


「そうかよ、勝手にしてくれ」

『メーディ、付いてきてくれるか』

『えぇ!?』


 話を振られると思っていなかったメーディが素っ頓狂な声を出した。


『な、何故!?』

『言葉を交わすのに、後は神官としての見識を広めて欲しいのだ。それはまだ若い君にしか出来ないことだ。なあデードル』

『……気が付いていたのか』


 奥の方に、気にもたれかかっているデードルが見えた。


『お前らしくもない、直ぐに飛びついてくると思ったのだけれど』

『……ふん』

「おい、もういいか。早く行きたいんだが」


『どうする、デードル』

『……行く、付いて行くさ』


『メーディはどうだね?無理にとは言わないよ』

『私は……』


 メーディが俺の方をちらりと見た。


『見識、ですか』

『そうさ。コトワリ殿と一日共にした君には何か思うこともあるのじゃあないかな』


『確かに、ありますが』


 俯き、やや黙った後にゆっくりと話し出す。


『この方は、コトワリ様は型破りな方です。それは村の誰も真似は出来ぬでしょう。それでも、村のためになるのならば。私も同行しようと思います』

『決まりだ、済まなかったね時間を取らせて。では行こうか。案内も出来るし一日とちょっともすればつけるだろうさ』

「年寄りをつれてもか?無理をすると寿命を減らすぞ」


『心配しないで頂きたい。まだ大地に還るには早い。それにこれだけの強者二人に囲まれては襲われることもそうは無いでしょう』

「そりゃそうだ、あんな痩せた馬なんぞ相手にならん。じゃあ行くぞ」


 そうして俺は三人を引き連れて海食い討伐へ向けて出発する。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る