枯れかけた森の向こうで

森の民

 ダーダーは今年で七十九になる『青年』だ。

 彼含む『モードゥ族』は平均で四百歳という地球人からすると相当長寿である。

 

「よく実っている、アガラの加護だな」


 アガラは彼らが信じる土着の地母神の一種である。

 そして彼が見ているのは自分の腕である。

 彼らは木の実を『自身の皮下』に植え、そこから栄養を摂取する。

 頭髪代わりに苔が在り、陽の光が有る限り彼らに餓死はない。

 この世界は生半な存在には生きるのすら厳しい場所だ、特に他種より体格などに劣る人間種はこうした特性なしでは生き残れないのだ。

 肌を白っぽい緑で瞳は赤く、衣服は身に纏わぬが代わりに蔦と葉が体を覆っているのでそれが彼らの服とも言えるだろう。


「早いな、ダーダー」

「そういうあなたも、ゲーダォさん」


「まだ『さん』づけか、お前ももう成人の儀を終えて四年立つ。立派な大人だ、ならば対等だと言っているだろう」

「なかなか慣れぬもので、追々直してゆきます」


「それで、警邏は順調か?」

「はい、モーブルも大人しく 出会ったコックバは三匹、いずれも仕留めました」


 モーブルとはこの地に多数生息している、痩せこけた馬のような生物。ギョロッとした目を絶え間なく動かし胴の横から突き出た鋭利な骨が有る、獰猛な生物であり近寄るのは厳禁とされている。

 コックバは虎挟みに足が生えたような虫で、茂みに潜んで来るものを襲う。

 地を歩く彼らにとっては脅威でしかなく、モードゥ族は肉を食さないので常に狩り、数を減らしている。

 二人共屈強な体格であり、二メートルを越える背にがっしりとした肉付きであり使い込まれた筋肉が盛り上がっている。

 

 話している二人に近づく影、それに対して彼らは敵対心を見せはしない。

 ゲーダォが話しかけた。


「メーディ、今日の祈祷はもう終わったのか」

「はい、お陰様で特に襲われることもなく。いつも有難うございます」


 メーディ、彼女は神官である。身を覆う草木は男性のものよりも幾分長く、ワンピースのようになっている。頭も苔ではなく蔦が主であり、彼女はそれがロングヘアーの様になっている。彼女は毎朝森深い場所で精霊に豊作などを願っている。

 精霊とはいうがそれは朧気に信仰されているものなどではなく実際に存在する。モードゥの神官は精霊の力を借りそれを部族の人々の為の行いにおける助けとしている。

 それは気象の予測であったり危険の察知などの他、作物の生育を促進させたりすることも出来る。


「はは、その言葉はこちらにとっても励みになる。しかし精霊の加護を受ける君には無用な心配では」

「偉大な精霊であっても限度はございます、それに万が一、ということも御座いますので」


 彼女の言葉に三者とも言葉が詰まる。それは彼らが直面している危難に由来する。


「その事についてはここでする話でもありませんでしたね、謝罪致します」

「いいや君も悪気あってのことではなかろう、気にしないでくれ」


 部族において神官は戦士よりも貴重な存在であり敬われることも多いのだが、メーディは常に誰に対しても丁寧な態度を崩さない。


「それよりも、実は道中に見つけたものが有りまして。何方かに報告をと思っていたのです」

「む、何だろうか」

「倒れている『人』が居まして」

「人?それは我々の――」

「いいえ、恐らく外の者だと」


 ダーダーが驚くのも無理ないことである。

モードゥ族は辺境にいることもあり他の人間族と関わることはない、昔は別々に別れていたが今は集結しており一切の外部というものがこの辺りには無い。

念のためにメーディを守る形で三人は森に足を進める。最近はめっきり草木も元気を無くしている、嘗ては見渡せぬほど広大だったこの森も年々縮小しており、いつまで有り続けられるか。

 やがて辿り着いた場所、そこには確かに人がいた。

 明らかにモードゥの者ではない。頭には苔も蔦もなく、黒い繊維が生えている。体には見たこともない、動物の皮と思える素材に異常なほど緻密な形と装飾が施されている。

 顔を見るに男性、体は小さいが鍛えられているのは革の上からでも分かる。

 用心をし距離を取ったまま声をかけたが、反応はない。死んでいるのか、だが息はしているようだ。もう一度声をかけると微かに動き、やがてこちらを見た。






 頬にひんやりとした心地、草の臭いがする。短期間に二度も似たような目覚め、近くに人がいるのも同じ。すぐに仕掛けてくる様子はないがこのままでは嬲り殺されてもおかしくない。

 未だ若干軋む体を起こして向き合う。

 先程から話しかけられているのだが、言葉がわからない。成る程ミントの言うとおり、これが普通なのだろう。それもそうだ、ここは地球ではない。気を失う前に見たあの光景がそれを俺に教えた。

 こちらからも声をかけるが、言葉が通じぬのがわかったようで困った顔をした。そういう所は俺の知る人間らしい反応だ。

 すると前の大男の後ろにいた少女が何やら男達に声をかけた、驚いた顔をした男だが観念したように頷いた。少女は男の横に立ち、俺の顔をじっと見た。


『どうも、初めまして。私はメーディと申します、異邦の方。どうか貴方の事を教えて頂けませんか』


 驚いた、彼女とは話が出来るようだ。感覚としては喋るというより、通じ合うと言った方が良さそうだが。


「これはテレパシーというやつかい」

『てれぱしーという物は存じ上げません。これは精霊に意思の疎通を補助して頂いております』


 精霊。呪いの類では無さそうだ。こうして効力を実感できるのだから。


「そうか、俺は理。そんでどうしてここにいるかって言うとだな――」


 部分部分、説明が難しい所。主にどうやって来たのかという辺りをかなりぼやかして話した。ただそれはあくまで地球からの話であって、今ここに落ちてきたことに関しては詳らかに言う必要がある。後はそれを向こうがどう捉えるかということだが。






 ダーダーとゲーダォは目を合わし、そして両者ともに同じ結論を出す。

『こいつは狂っている』

 何かに襲われたか、或いは行き倒れなどなのかはわからないが。どうにも正気を、まともな思考が出来なくなっているようだ。或いは元々そういう者なのか。

 これがこの種族の特性なのかはわからないが、今の話は信じる必要がないだろう。問題はここから、この男、コトワリの扱い。

 二人共よく鍛えられた戦士である、彼らは地球であれば十分に超人の部類になる。そこいらの格闘家などは相手にもならない。モードゥ族としての能力を発揮すれば戦場でも鬼神の如き戦果を残すだろう。

 そうした者が出す見解は一つ、この男は只者ではない。それは直感でもあるが状況からの推測でもある。

 ここに男が倒れてからの時間は分からぬが、森には凶悪な生物は多数いる。それに襲われていない、この森の生き物は総じて警戒心が強い。恐らくコトワリになんらかの脅威を感じたのではなかろうか、そしてそうだとしたならば、その強さはこちらを上回る可能性がある。

 我らの中で最も強い男、デードル。その強さには敵うまいど、今二人で押さえられぬ相手と敵対することは避けたい。なにせ横には神官もいる、彼女を失うのは大きな損失となる。

 しかし狂人であるとして上手く会話、交渉が出来るだろうか。不安にかられる中でゲーダォが話しだした。


『貴方の話は理解した、それでこの後はどうされるおつもりですか?』


 取り敢えずは平身低頭、何が彼の気を害するか分からぬ以上仕方がない。ゲーダォもその程度で傷つく程、安いプライドは持っていない。


「どうするも、なあ。目的があって、自分の意志でここにいる訳じゃあないからな……」


 思案している様子のコトワリ、少なくとも話も聞かずに暴れる輩では無いようで内心で胸を撫で下ろす。最初の接触で大凡そういった問題はないと思ってはいたが。

 そうしていると顔を上げたコトワリ、こちらを横薙ぎに見渡し、何かを思いついたようだ。


「お前たち、どこかに集落を形成しているのか」

『……はい』


 正直答えたくない質問だった。無害な存在か分からぬ者にこちらの情報はあまり与えたくない。特に村については。


「見てみたいな、案内してくれないか」

『それにはこちらからの質問、簡単なことですが良いですか』


「良いとも」

『では、それは何故ですか。そして私達、村に害を成さないこと。特に後者は出来る限り明確な、可能であれば形を持って示して頂きたい』


「ううむ、前者は答えるのは容易だ。好奇心、それに尽きる。そして無害な証明と来たか」

『はい、どうかご理解下さい』


 無茶な要求だとはわかっている、それがこの男の逆鱗に触れるやも知れぬと肌が粟立つ。

 頭を掻いたコトワリが顎に手を当て俯いている、かなり考えている。正直この様子で一定の信頼は持てる、演技も考えられるが狂人という推測は撤回しても良いかもしれない。

 やがてコトワリが両手を後ろに回して話しだした。


「腕を縛ってくれ、出来るだけ硬く。お前たちの集落ではそれを解かないと誓おう、反故にした場合は出て行くし追い出してくれて構わない」

『有難う、御座います』


 少し胸の内が言葉に出てしまった。それだけ予想外、想像以上に譲歩を申し出てきた。

 そしてメーディを見る、こちらを向き頷いた。

 精霊を操る彼女は、人の心の『形』を測れる。それは抽象的ではあるが思いや考えをある程度推測できるようになる。それがコトワリにも有効だったようで、彼の言葉の裏付けが取れたということを示す。

 であればこちらがこれ以上彼に尋ねることは現状無い。後は元老院の老人たちの判断に委ねることになるが、この男の態度を見たならば礼節を尽くすように進言すべきだろう。






 何とか案内を取り付けることが出来た、俺がこんな丁寧な対応など地球でもそうそうしたことがない。

 気まぐれでもあるし、理性的な判断でもある。今は後者がやや比重に勝る。

 なにせ全く知らない世界なのだ、現地の人間に聞くのが筋だろう。それにしても変わった恰好だ、これがこの世界の普通なのか。訪ねたがどうやらこの種族の特徴だとか、進化もこの世界に合わせるとこうなるのか。

 次いでこれは相手からすれば奇っ怪な質問だろう、『空の模様の説明』など。

 これには俺も常識はずれなことだとは思うが、それでもこれは放置せずにいられなかった。

 空には三本の帯がある。赤、黄色、黒といった傾向の光及び闇。空の帯は一本が太くなっており、残りが細くなっている。今は明るさで言えば午前に当たる感じであり、赤い部分が広くなっている。

 こんな質問に答えてくれたのは少女、メーディという娘だった。

 あれは朝昼晩を構成するものであり、朝は赤いものが、追って黄色、黒と変化していく。それらが空の色、及び明るさを変えるらしい。

 太陽はどうなっているのかという質問には疑問が帰ってきた、存在は不明だが少なくとも彼らは知らないようだ。

 懇切丁寧に、或いは子供に教えるように話したメーディという少女。傍目には異質な光景だろう。自覚はあるが恥などとは言っていられない。

 

 やがて枯れ木の目立つ森を抜けた先には目的の彼らの集落が見えてきた。

 想像がついたとはやや言いすぎかもしれないが、彼らの風貌からイメージされたものに近い。それは多くの木の集まりであった。その木々はどれも巨大であり、中をくり抜いて。それには語弊がある。まるで木が自ら中心に空間を作ったかのように、壺形に広がっている。穴の幅は大小あるが多くは二、三メートル。木そのものは上に十メートル以上、横には入り口付近は倍程度、それ以外は入口の幅と同じ位。そこに梯子を掛けており、そこから昇り降りしている。

 数は思ったより多く、一つの家に平均二人と考えても千は居るかもしれない。複数の集落が寄り集まっていると聞いたので、それを加味すればこんなものと言えるのか。

 俺は約束通り腕を縛られた状態で入口付近に突っ立っている。ゲーダォにここで待つように言われ十分少々。

 当然というべきか、奇異の目は多く遠巻きにこちらを見るものは数多い。ダーダーが説明し離れるように言っているが中々難しいだろう。なにせ今までに他の人種との交流は無かったというのだから。

 それから待つこともなくゲーダォがこちらに駆け足で向かってくるのが見えた、この集落の政治を担う元老院と会うように言われそれを承諾した。

 元老院が御わすと言う建物、木は特に変わった風体だった。他と変わらぬ太さ、大きさの木が五本。繋がっている、それもまるで融合したかのように複雑に絡み合っている。恐らくその中も繋がっており大きな空間を生み出しているのだろう。

 飾り気はない無骨な建物の中は外観とは違い凝った調度品がある、それらも殆どが木製。鮮やかな色の布も所々に。

 扉は蔦が絡まっており、通る際に門番か警備の者が手をかざすと蔦が横に掃けて入り口が現れる。


『ようこそ異郷の者、我ら初めての来客者よ』


 出迎えたのは十四名、内の七名が椅子に座っており後の七名はその後ろで立っている。立っている者は武装しているので護衛だろう。なので座っているのが元老院の面々なのだろう、見た目はそれらしい。なにせ殆ど『木』なのだ、その前に見てきた者はあくまで人間に葉が茂っているのだが、これはもう木が人の形を取っているようだ。

 通訳は変わらず、メーディという女。


「ああ、光栄だよ」

『ふふ、貴方はお世辞が下手、というよりもしたこと無いのじゃないかい?』


「おやご存知で」

『正直な人だ、どうも私は元老院と呼ばれる者たちの一人。サーディナと言う』


違いを見分けるのは困難だが、何となくに男女の違いは分かる。そしてサーディナは男、蔦は顎から下がり髭のようになっている。ここで見分けよう、こいつは『髭爺』。


『呼びつけて悪いけれど、どうしてもね。話さない訳にはいかないからね、幾つか聞きたいのだけれど』

「構わないさ、聞かれて困るようなこともない」


『豪気なことで、じゃあ早速。――何処から来たか、教えてくれるかい』

「どうせ分からんさ、そういう所だ」


『……』


 後ろの者たちが明らかにムッとした。しかし憮然とした態度は変えない、気を使うのも飽きてきたし、もういいだろう。


『じゃあここに来た経緯、本当なのかい?』

「そうだ、ある女に。その女の作った巨人にぶっ飛ばされた、そしてここに落ちてきた」


『うん、そう聞いている。ただね、そうすると当然の疑問なのだけどね。どうして生きているのだい』

「聞く意味がわからない、こうして立っているのが答えだろう」


『ふふふ、それで信じろってのは難しいのだけれど。……どうしてだろうね、何故か満更嘘でも無いのじゃないかと思わされる』

「結構、好きに思えば良い」


 向こうの表情を計るのは難しいが、笑っていないのは先ず間違いない。するともう一人が話しだした。


『私はムジャーサ。それじゃあ一番大事な質問です、ここには何をしに。これから貴方はどうするのですか』


 やや若い、木に『成りかけ』の女。


「途轍もなく、下らない質問だな。旅に目的など有るものかよ、歩きながら考えるものだ。まあ、そうだな。面白いもの、特に強い生き物、人間がいたら見てみたいな」

『それはお話をしたいと?』


「まさか、戦う。そりゃそうだ、見ただけで何になる」

『それは運がいい』


 別の方向、というよりもやや遠い所。座っている老人達の後ろに立っている男が声の元だった。

 体躯の良い戦士たちの中にあって一際に大きい男。髪のようになっている苔は真ん中だけ残ったモヒカン状。顔は厳しく精悍。戦士たちは顔や蔦に色を付けたり、紋様を書いたりしているがこの男は鼻の頭に横長に、目の下を隈取のように、赤く塗っている。

 並びを見るに恐らくリーダー格の男がこちらを睥睨している。


「どういう意味か、聞いても?」

『阿呆なのか、惚けているのか。ここにいるだろう、お前の望む強者が』


 呆気にとられる理、何を言っているのか理解するのにやや時間が掛かる。


「おお、そうか。……そうか」

『なんだ、何か言いたいことでも』


「あー、まあ。思うのは人の勝手だな、好きにしろ」

『なんだと?』


 場がざわめく。他の戦士と元老院の幾人かが俺と向かいの男を見比べる。


『その言葉、そのまま返そう。世間知らず故の視野狭窄、そういうことにしてもいいが?取り消すなら今だぞ』

「へえ、流石だな。田舎者は、なあ『ガキ大将』」


 一歩前に出た男を横にいる者が止める。


『デードル!こんな男の言葉など気にするな』

『いいや、こいつはここを見て回りたい。つまり滞在するのだろう、ならば立場を分からせる必要があろう』


 こいつはデードルという名前のようだ。知った所で特になんだということもないけれども。


『表にでろ、そこで教育してやる』

「要らん。それはもう『受けている』、俺は学生じゃないんだ。そう何人も教師はお求めじゃあない」


『逃げるのか?』

「どうとでも。はっきり言わないと分からんか。俺はお前に一切興味がない、だからお前と遊ばない。面倒だからな」


『な!?』

「おい、サーディナ。結局俺は滞在して良いのか」

『……ああ、良いとも。住むとこも貸すよ、一つくらい余っている筈だ』


『おい爺!何を言う――』


 そう言い残し踵を返す。メーディを半ば強引に連れ出し、当面の仮宿に案内させる。






 残されたデードルがサーディナを睨みつける。


「何故許可を出した、遂に呆けたか」

「デードル殿、その言い方は……!」


 横の戦士が慌てた。それをサーディナが手で制する。


「よい、どうせ言ってもわからんさ。なあデードル」

「……どういう意味だ」


「何故あの男が自分より弱いと思った、何かを感じたのか」

「いいや。だが俺の強さは皆が知る所だ、それはこの村だけではなく、この辺り一帯においてだ」


 サーディナが息を吐いた。それの意図は測れるが、敢えてデードルは口を出さない。


「この一帯、か。それはどの位『広い』のだろうかね」

「……」


「知らないだろうね、勿論私も、この村の誰一人として知る者はいないさ。けれど皆、外の世界について、考えたことぐらいはあるだろうさ」

「それとあの男、外から来た者の強さの理由になるのか」


「そんな単純な話ではないさ」

「では――」


「お前はこの辺り一帯、では最も強い。そう言ったね」

「ああ。事実だ」


「それに『海食い』は含まれているのかい?」

「!」


 言葉を失うデードル。海食いとは、現在この村及び周囲の自然を壊滅の危機に陥れている存在。

 遥か昔から存在していると言われる生物、その名の通り海を喰らう。それが近年に近くの森の先にある、巨大な湖に現れたという。それは現在の元老院の二世代前になるが、その頃から存在が知られるようになった。

 海食いという名から本来は海にいるであろう、少なくとも村に残された太古の文書にはそれだけ書き残されていた。それによって嘗て繁栄を誇った祖先が住処を失ったと言い伝えられている。

 そしてそれがこの周囲の水を吸い上げている。速度こそ緩慢なものではあるが、確実に。それも広範囲を同時に吸い続けている。

 当然草木は枯れ、その結果彼らも行く行くはこの地を追われることにもなるのではと嘯かれている。

 その海食いは大きな湖の三分の一にもなる巨体の持ち主で、村の中には神に近しい存在だと畏れるものもいる。

 それと戦う、比べるなどとこの老人は宣った。


「……よもや、本気ではあるまいな」

「半分はね」


「半分、だと」

「我々もあれには手のうちようが無いと、そう意見が一致している。だがこのままではただ滅びを待つだけだ」


「……そうだ」

「ならば我々は外の世界に出ていかなければならないだろう。そしてそこに、どのような存在が居るのか。知る術は無い」


「それとあの男がどう」

「あれに海食いの話を聞かせればどうなると思う」


 驚くデードル。つまりサーディナは。


「あの男、コトワリを仕向けるのか。海食いに。それを以て外の世界を測ろうと?」

「そこまで単純には考えてはいないけれども、あれは恐らく興味を持つだろう。あれが傾いているのでは無ければ、だが」


「それまでは我慢しろと」

「逃げ出せばそれまでの男。だが本当に興味を、戦うと言ったならば。お前はどうするね」


「……」

「我々は今、転機を迎えている。よく考えるが良い、一番の戦士。デードルよ」


 デードルは拳を握りしめ、黙した。

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