4話

「あの、ここの大家見ませんでした?」


「大家さんならこの中っすけど……」


「この部屋……どうして……」


「あんた、大家さんの旦那か?」



気づけば紫苑さんが俺の後ろに立っていて、その男の人に話しかけた。



「はい、月見宗介といいます」



中に入った宗介さんは彩里さんを見ると、駆け寄って抱きしめた。



「彩里、電話もメールも返ってこなくて心配だったんだ。それに帰ってきたら家にいないし」


「宗介くん……私のこと嫌いになったんじゃないの……?」


「そんな訳ないだろ!出張の帰りに彩里の好きなケーキも買ったきたんだ」


「出張だったの……?そんなの言ってた……?」


「突然決まって、前々日の夜に言ったはずだけど……ほら、俺が布団入ったとき……」


「……あの日、宗介くんが布団来る前に寝ちゃってたような……?」



首をかしげている彩里さんに、あちゃーというように額を押さえる宗介さん。

確かに出張だと気づいていたならこんなに泣いたりすることは無かっただろう。



「でも、太ったっていうのは……」


「あ、俺もそれ気になるっす。むしろ痩せてるくらいじゃないっすか?」


「あぁ、それは……彼女と出会った当初、本当にガリガリで、捨てられた子猫みたいでしたから……太ったって言ったのは昔と比べて健康的になったと言いたかったんです」


「なるほど……言葉が足りなかったってことか」


「僕たちすれ違ってたみたいですね……ご迷惑をお掛けして申し訳なかったです」



二人してぺこりとこちらに頭を下げる。

結局のところ、仲良し夫婦がちょっとしたことですれ違っていたことが原因みたいだった。



「ふぅ、一件落着っすね~」


「ったく、人騒がせな……」


「お化けじゃなくて良かったじゃない~!」


「わかってねぇな、人間が一番怖いんだよ」


「お、さすが元ヤクザね」


「でも、紫苑さんがっかりしたんじゃないすか?重そーな事件じゃなくて」



顔を覗き込めば、ふいと視線を逸らされる。きっとこれは図星だ。



「んなわけねぇだろ。うちに依頼なんて来ないのが一番なんだよ。平和が」


「紫苑さんの口から平和なんて言葉出るんだ~」


「てめぇら、人のこと鬼かなんかと思ってんのか?あぁ?」


「鬼~!鬼畜眼鏡~!」


「てめぇ、はっ倒すぞゴリラ」


「二人とも、喧嘩はダメっすよ~!」



俺が間に入ると、年下に叱られてか二人ともおとなしくなった。

まったく、子供みたいな喧嘩なんかして大人げない二人だ。



「世の中平和にするには、まず俺らが平和じゃないと!」



「っすよね!紫苑さん!」と言えば、少し微笑んで頭を撫でられた。

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