3話

玄関を出ようとしたとき、後ろの沙羅さんから声をかけられる。

なんだか、不安そうな声だ。



「私たちは?」


「お前らは待機だ。安全が確認でき次第呼ぶ」


「あの、大丈夫なんですか?危ない人だったら……」


「香陽さん、心配しないでください。紫苑さん、頭脳派でもあるんすけど見た目に似合わない武闘派でもあるんすよ!」



香陽さんを安心させることと俺の兄貴分を自慢したくて言ったのに、スパーンと頭を叩かれてしまった。



「見た目に似合わないは余計だ」


「すいません!でもかっけーじゃないっすか!頭脳も喧嘩も!みたいな!」


「うるせぇ!逃げられたら元も子もねぇんだから早く行くぞ!」



音で気づかれると困るとゆっくり隣の部屋まで来る。

いつ攻撃されても大丈夫なように戦闘態勢を保ったまま慎重にドアノブを回す。鍵はかかっていないようで、紫苑さんが小さな声で「ビンゴだ」と呟いた。



「誰だ!そこで何している!」



ドアを開け放ち、部屋の中を見れば部屋着のような、運動着にも見えるような服の女の人が一人だけ。見たところ、20代後半から30代前半といったところだ。

寝る前のようにも見えるその人はこちらを見て固まっている。

紫苑さんも拍子抜けしてしまったようで呆気に取られていて、世界中でこの部屋だけが異様な空間なのではないかとすら思えてくる。



「あの……大丈夫ですか……?」


香陽さんの控えめな声が部屋に聞こえてきて、俺たちは現実に引き戻された気持ちになった。



「あ、あぁ……」


「じゃあ、入るわよ」


「失礼します……え!?彩里さん……?」


「香陽ちゃん、誰なの?この人?」


「大家さんだけど……なんで……?」


「……随分と若いんだな。勝手なイメージだが、大家といえばある程度歳のいった方のようなイメージで……」


「紫苑さん、大丈夫っすか……えっとそれで、大家さんはなんでここに……?」



先ほど唖然としていた紫苑さんは、今は動揺しているみたいで……

そうしている間に彩里さんと呼ばれた大家さんが小さな声で話始める。



「一か月前、旦那さんに「最近太ってきたね」って言われてしまって……それでダイエットしようと思ったけど、旦那さんがいるところでするのは恥ずかしいから、ここに来てやっていました……」


「でも、この前聞いたときなんで教えてくれなかったんですか」


「香陽ちゃんに言うのも恥ずかしくて……香陽ちゃんから見たら、私なんておばさんでしょうし……」


「そんなことないですよ……!」



ついに彩里さんは泣き始めてしまった。

どちらかといえば細身で美人だと思うのだけれど、どうしてダイエットなんて……



「一週間前から旦那さんが帰ってこなくて……」


「あれ……?旦那さん出張じゃなかったんですか……?一週間ぐらい前にスーツ姿にキャリーケースで歩いていくところ見ましたよ……?」



香陽さんがそう伝えれば彩里さんがハッとした顔をする。

外から走ってくる音が聞こえきた。そちらを見てみれば、スーツ姿の男の人がキョロキョロと周りを見回しながら走っていたが、こちらの姿を見て駆け寄ってくる。

もしや……

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