2話

「さて、どうするか」


「まさか、何も決めないで来たんすか!?」


「店で唸ってても解決しねぇんだからよ」



沙羅さんにお店番を任せて俺と紫苑さんは香陽さんの家に来た。

店から意外と近い場所にあるため徒歩で来たものの、どうしようか決めかねて家の前にいるという状況だ。



「しかし、思ってたより綺麗なもんだな」


「確かに、そんな怪奇現象が起こるならもっと古い家かと思ってたっす」


「何年か前にリフォームしたみたいで、私が越してきたときからこんな感じで綺麗でした」


「最初から信じちゃいねぇが、幽霊だのなんだのって話じゃなさそうだな」



今日がその金曜だから、その現象が起こるまでこのアパートで待とうということになった。



「女の人の部屋で待つなら、沙羅さん連れてきた方が良かったっすかね」


「女ってあいつ……なんでもねぇ。今日は店早めに切り上げてこっち来るように電話しておくか」



電話をすれば、夕方には切り上げてこっちに来ると言っていたようだ。

しかし、なにか紫苑さんが困るようなことを言ったようで苦虫を噛みつぶしたような顔をしている。



「沙羅さん、他に何か言ってませんでした!?」


「いや、特に。ただ楽しみにしててだか言ってたけどな」


「楽しみに?」


「あいつぜってぇ何か企んでるぞ」



紫苑さんが小さくため息をつく。

紫苑さんの誕生日に上手いこと言ってお酒をどんどん飲ませ、べろべろに酔ったツケが俺に回ってきたのは記憶に新しい。紫苑さん泣き上戸みたいで、あのときは俺の隣でずっと「忍もでかくなったな……いつか巣立って……」とか親戚のおじさんみたいなことを言い出してしまった。酔っ払いの対応に慣れてない俺は「これからも紫苑さんと仕事したいっす!」と言っていたが、気づけば紫苑さんが寝ていて、結局俺が部屋まで運んだ。沙羅さん、ひどいっすよ……



「沙羅ちゃんも来るんですね」


「さすがに女子大生の部屋に男二人がいたんじゃ不安だろうと思ってな」



それから、二時間ほど経ったときインターホンが鳴った。

一瞬驚いたけど、沙羅さんの声が聞こえて安心した。香陽さんも同じみたいで、ほっとした顔をしていた。



「色々買ってきたわよ!」



沙羅さんが持ってきた荷物を見れば、袋の中にはお惣菜やおつまみ、それと大量のビールとチューハイ……



「いつも思うんすけど、怪力っすよね」


「そうかしら?」


「これなら紫苑さんくらい運べるんじゃないっすか?」


「あら、この細腕で男の人一人運べると思う?」



見せられた腕は細いものの、やはり紫苑さんくらい運べるんじゃないかと思ってしまう。

立派なオカm……お姉さんだし……



「あ、今余計なこと考えたわね」


「いやいや!でも紫苑さんにあんまり飲ませないでくださいよ!普段もっすけど、今日は人様の家なんすからね!」


「大丈夫大丈夫!紫苑さんが自衛してくれるって!」


「経費では落ちねぇからな」


「んもう!それはこの前で痛いほどわかったわよ!」



紫苑さんは怪しむように睨んだものの、肝心の沙羅さんは香陽さんと嬉しそうに話している。



「忍、音が鳴ったらすぐに行くぞ。準備しておけ」


「了解っす!」



沙羅さんが持ってきたお酒で大人たちが酒盛りを始めてから、数分が経ったとき音は突然鳴り始めた。

最初にガチャ、とドアが開けられる音が鳴り、そのあと物が動くようなガタガタとした音が聞こえてきた。確かに隣からだ。



「さぁ、お出ましだ。忍、行くぞ」



怖いもの知らずの紫苑さんはずんずんと歩いていく。

さすが俺の兄貴っす……!

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