2.いじめっ子といじめられっ子~喫茶リリィでパーティーを4~
「こういうのって、なんかいいですよね」
「こういうの、とは?」とさゆりさんが首をかしげる。
「商店街が一丸となって子供を楽しませようとしているじゃないですか。温かい大人が多いんでしょうね」
「そうですね、私が子供の時も、皆さんに優しくしていただきました。たまに叱られたこともあります。最近は、親以外の大人が子供を叱ることが少なくなりましたけど……私は、古い考えだと言われても、地域で子供を守っていくことが大切だと思います」
さゆりさんの言うとおり、その考えは古いっていわれてしまうかもしれない。
それに、子供たちからも鬱陶しがられるかもしれない。心を開くまえの実可子ちゃんがいい例だ。
俺だって、喫茶リリィでアルバイトをしなかったら同じだったと思う。でも、俺はこの場所で、何人もの温かい大人と知り合うことができた。泣いている子供を放っておけない人、口うるさいけど物おじせず注意ができる人、大きな優しさで包み込むことができる人。自分の部下でもないのに、悩んでいる若手社員にアドバイスをする人。
彼らをみて、俺は、大人ってすげーなと思った。いろんな経験をしているからこそ、子供たちに的確なアドバイスができるんだ。
鈴木のおっさんなんかには憎まれ口をたたいてしまうけど、俺は、喫茶リリィで知り合ったみんなのことをすごく尊敬している。
仕事ができて、若手社員に的確なアドバイスができる竹内さんや、一生懸命ひたむきに働いている小林さんのこともだ。
「俺も、さゆりさんと同じ意見ですよ」
「冬馬くんのような若者に共感して頂いて嬉しいです。さあ、残りあと少しですね。さっさと終わらせてしまいましょう」
「はい!」
明日になれば、実可子ちゃんやあいちゃんを始めとした子供たちがこのお店にやってくる。すでに飾り付けられた店内を見て、テーブルに並べられた豪華な料理をみてどう思うだろう。
誰か一人くらいは、自分の知らないところで誰かが準備してくれていたことに感謝してくれるのだろうか。別に感謝されたいっていうわけじゃないけど、こうやって、影で頑張っている人たちの存在に気がついてもらえたら嬉しいな。
そんなことを考えながら、店の飾りつけをしていた。
――夏休み最終日のパーティーは、予想以上にたくさんの子供たちが遊びに来てくれた。商店街には子供たちがこんなにもいると知り、驚いたくらいだ。
実可子ちゃんがあいちゃんを連れてきて、ちゃんと「意地悪してごめんなさい」と謝っていた。
あいちゃんは「誘ってくれてありがとう」と笑顔で返していて、実可子ちゃんは目に涙を浮かべ、笑い合っていた。たぶん、この二人はもう大丈夫だと思う。
こういう風に、うまくいじめが解決するパターンは少ないかもしれない。大人が介入することでよけいにややこしくなるかもしれないし、いじめの原因が“ねたみ”以外にあることも多いだろう。
一筋縄ではいかないからこそ、いじめの問題は無くならないのだと思う。
「おにいちゃん、ありがとう」
パーティーにきた子供たちから、何度も感謝の気持ちを伝えられた。俺は、このあたりの子供たちのことを甘く見すぎていたのかもしれない。俺が思っていたよりずっと、子供たちはしっかりしていて、与えられることを当たり前だと思っていないみたい。
素直にありがとうと言える、純粋な心を持っている。これも、温かい大人たちの影響なのかな。
うまくいえないし、きれいごとなのかもしれないけれど。こういう子供たちが、この純粋な心を持ち続けたまま成長してくれたら、今よりもっといい世界ができるんじゃないか。
……なんて大袈裟なことを考えながら、子供たちにまじってパーティーを楽しんでいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます