2.いじめっ子といじめられっ子~喫茶リリィでパーティーを3~
ちょっとだけ昼寝のつもりが、がっつり寝てしまっていた。しかも、寝顔をさゆりさんに見られてしまうなんて恥ずかしい。いびきや寝言を言っていたらどうしよう。穴があったら入りたい気分だ。
「俺、寝ているときうるさくなかったですか?」
「とても静かにすやすや眠っていましたよ。可愛いなって思って見てました」
「可愛いだなんて、やめてくださいよ」
「ごめんなさい。男の子はかっこいいって思われたいですよね」
「当然です!」と強い口調で言ったのと同時に、お腹からきゅるると情けない音が鳴った。……恥ずかしい。寝顔を見られたうえに、腹の音まで聞かれてしまうだなんて。タイミングも悪いし、ほんと最悪。
「あら、お腹空いているんですか? もうこんな時間ですもんね」
「そうみたいです。さゆりさんは空いていないんですか?」
「私も空いてきました。そうだ、もしよかったら、近くのラーメン屋さんに行ってみませんか? 最近オープンしたんですよ。味噌ラーメンがおいしいと評判らしいんです。あっ、でもお家で――」
「――行きます。行かせてください」
二つ返事で答えると、さゆりさんは「でも、お家で夕食の準備が……」と心配しているようだった。たしかに、家ではもうご飯ができているだろう。でも、そんなの関係ない。さゆりさんと一緒に外食する絶好の機会を逃すはずがない。
「ラーメンだけだと絶対足らないんで、家でご飯も食べますから安心してください」
本当に食べられるかは不安だけど、さゆりさんを安心させるために見栄をはった。
「そうなんですか、男の子はたくさん食べますもんね。じゃあ、お店を閉めてからいきましょうか」
「はい!」
俺たちはもろもろの片付けを済ませた後、夜の商店街へと繰り出した。さゆりさんと肩を並べて歩くのは初めてで、心臓が口から飛び出しそうなほどドキドキした。
いつか、当たり前に一緒に出掛けられるようになったら嬉しいな、とひそかに願う。
――それから一週間後、いつものように喫茶リリィでアルバイトをしていると、さゆりさんが普段見慣れない物を両手に抱えていた。
「どうしたんすか、これ。風船にテープに、折り紙みたいな紙もありますけど」
「明日、貸し切りでパーティーをすることになったので、店を飾りつけようかと思って買ってきました」
「パーティー? 誰がくるんですか?」
「実可子ちゃんの小学校のお友達や、商店街の子供たちです。もちろん、あいちゃんも呼ぶそうですよ。明日で夏休みも終わるので、学校が始まる前に仲直りしたいって話になったそうです」
パーティーに並ぶ食事は、商店街のお店からボランティアで提供されるらしい。その中には鈴木のおっさんのコロッケ、溝口さんとこのたい焼きや大判焼き、石川さんのお店にある水まんじゅうなどもあるらしい。もちろん、八百屋の野菜を使った料理や果物も並ぶそうだ。
「すごく楽しそうですね、俺も飾り作るの手伝いますよ」
「ありがとう。助かります。あまり準備時間はありませんが、一緒に頑張りましょうね」
「はい!」
さゆりさんと俺は、接客の合間に風船を膨らませたり、ペーパーフラワーを作ったりして準備を進めた。それだけでは間に合いそうにないので、閉店後も作業を続けることにした。
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