2.いじめっ子といじめられっ子~喫茶リリィでパーティーを1~


 さゆりさんと実可子ちゃんが店から出ると、タイミングを計ったように八百屋のおばさんが休憩室から出てきた。娘のいじめ荷担が発覚したからか、表情は暗い。まあ、無理もないよな。


「鈴木さん、ごめんなさいねえ。あたしが間違ってたみたいだ」

「気にするな。親は自分の子供を信じるもんだぞ」


 

 もっと攻撃的な態度をとるかとおもいきや、そうでもなくてほっとした。

 ここで喧嘩をされたらたまったもんじゃないし。


「ありがとう。溝口さんに石川さん、それに冬馬くんもありがとうね。今回は、あたしが聞いてたことは言わないでおくよ。知ったらきっと実可子は怒るだろうから」


 やっぱり、おばさんは自分が出てくるとややこしくなると思って、出てこなかったのだろう。娘の性格をわかっている、立派な母親だと思った。



「それがいいと思うよ。これまで以上に実可子ちゃんを気にかけてあげてね」

「もちろんそのつもりさ、溝口さん」

「それにしても、僕は感動しちゃったよ。さゆりちゃん、大人になったなぁってしみじみ感じたねぇ。若かりし頃の百合ちゃんのを思い出したよ」


 俺以外全員がしみじみうなずいている。よっぽどさゆりさんとお母さんは似ているのだろうな。



「さゆりちゃんのことは勝手に娘のように思っていますから……彼女の成長は嬉しいようで、少し寂しい気もしますね」

「俺もだ。嫁にいったら尚更寂しいだろうな」


 ジジイたちの会話を聞いて、俺は今まで勘違いをしていたことに気がついた。てっきり、さゆりさんのファンだから毎日通いつめてるんだと思ってたけど、本当は実の娘のように彼女を見守ってきたようだ。


……あれ?さゆりさんの本当のお父さんは、いまどこにいるんだっけ。そういえば、さっき実可子ちゃんとの会話のなかで「父も母もいない」って話してたような気がする。お父さんもすでに亡くなっているのだろうか? それとも離婚しているとか?


 俺が知らないこと、知りたいことは、おそらく、この人に聞けばすべてわかるだろう。本当なら本人に直接聞くべきだけど、家族の話って聞きにくいからなぁ。チャンスは、さゆりさんが留守中の今しかないかもしれない。



「あの、さゆりさんのお父さんは今……どちらにいらっしゃるんですか?」



 勇気を出して聞いてみると、全員が沈黙した。聞いてはいけなかったのだろうか。でも、もう口に出してしまったし、撤回は出来ない。ほどなくして、重い沈黙を破ったのは、八百屋のおばさんだった。



「本当はさゆりちゃん本人から聞くべきなんだろうけど、冬馬くんにも世話かけたからねぇ。あたしから話すよ。……いいよね?」

「勝手にしろ」


 鈴木のおっさんから了承を得て、八百屋のおばさんは静かに語り始めた。


「さゆりちゃんの父親がどこにいるかは、あたしらにもわからないよ。さゆりちゃんの母、百合子は……未婚の母だったのさ」

「未婚の母……」

「その男は、仕事の都合でこの辺に引っ越してきた。この喫茶店で働いていた百合子と知り合い、恋に落ちたよ。でも……結局別れちゃってね。別れたあとで、百合子は妊娠していることに気がついたんだ」


 さゆりさんの父親はいわゆる転勤族で、数年に一度、会社の都合で引っ越しをしていたらしい。そのため、今はどこに住んでいるのかわからないそうだ。


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