2.いじめっ子といじめられっ子~母と娘10~

「人をうらやむ気持ちは、誰もが持っているもの。普通のことです。決して恥ずかしいことではないですよ。でも一つだけ、覚えておいてください。あなたが人をうらやむ分だけ、誰かがあなたをうらやんでいるということを」

「和菓子屋のおじさん、わかったよ。覚えておくね」


 石川さんは、相変わらずいいこと言うな。よく本を読んでいるから、そういう知識が身についているのだろうか。今度ゆっくり話をしてみたいな。人生観が変わるかもしれない。

 それにしても、うらやむ気持ちが嫉妬に変わって、憎しみになり、結果としていじめが生まれることがあるんだと知り驚いた。それが、小学校五年生で起きているということもだ。


 あいちゃんはたしかに女の子らしくて可愛かったけど、実可子ちゃんだって元気で明るくてモテそうだから、ねたむ必要なんてないと思うけどな。



「……あら、もうこんな時間。そろそろお家に帰ったほうがいいよね」

「うん、あんまり遅いとお母さん心配するもんね」

「……そうね。それでは、私は実可子ちゃんを送っていくので、皆さんはゆっくりしていてください」


 実可子ちゃんは立ち上がると、俺たちに向かってぺこりと頭を下げた。



「今日は、どうもありがとう。わたし、もう意地悪しない。ちゃんと謝るよ」

「偉いぞ!」


 ほとんどいいとこなしだった鈴木のおっさんが気持ちよく彼女を褒めた。他の二人もにこやかに頷いている。俺も、最後にいいとこみせなくちゃな。



「実可子ちゃん、この中で一番歳が近い者として、ひとついいこと教えてやるよ」

「いいことって?」

「男がみんな、お嬢様みたいに可愛い女の子が好きだと思ったら大間違いだぜ。実可子ちゃんみたいに元気いっぱいな女の子がタイプってやつも大勢いるんだから。つまり何が言いたいかっていうと、もっと自分に自信持てってこと!」


 やや上から目線だったかもしれないけど、我ながらナイスアドバイスだと思った。きっと実可子ちゃんは目を輝かせて感動しているだろう。

……そう思ったけど、実際は違った。


「そ、そうなんだ」


 彼女はなぜか顔を真っ赤にして、恥ずかしそうにしている。どうしてだろう。


「じゃ、じゃあわたしはもう行くね。バイバイ!」


 最終的に、実可子ちゃんは逃げるようにして喫茶リリィを後にした。


「あれ、俺なんか変なこと言っちゃったかな……」と独り言を呟いていると、石川さんにぽんと肩を叩かれた。



「冬馬くん、君もなかなか隅におけないですねえ」

「え?」

「天然ですか。将来が楽しみですなあ」


 意味不明なことを言い残して、いつものテーブル席へと戻っていった。



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