2.いじめっ子といじめられっ子~母と娘7~
「そうです。噂の真相を直接本人に確かめたくて、さゆりさんに協力いただいたのですよ。ですので、彼女を責めないであげてください」
さすが石川さん、あいちゃんから話を聞いたことを隠しつつ、さゆりさんのフォローもしている。こういう気の利く大人になりたい、と素直に思った。鈴木のおっさんとは大違いだ。
「僕たちはみんな、実可子ちゃんが赤ちゃんのころから知っているし、大切に想っているんだよ。だから、実可子ちゃんから話を聞きたいと思ってるんだ」
さらに、溝口さんも穏やかに話しかける。今日は、いつもに増してお地蔵様に見えるよ。
「たい焼き屋のおじさん……」
穏やかな二人のおじさんのおかげで、実可子ちゃんは少し落ち着いたようだった。
「実可子ちゃん、嘘をついたことは心から謝るわ。ごめんなさい。でもね、わかってほしい。すべては実可子ちゃんを心配しているからなの。だから、どうか……話を聞かせてくれる?」
「話って、別に聞かせるようなことは何もないよ。わたしは、いじめなんてしてない。ただ……」
「ただ?」
「クラスにちょっと調子に乗ってる子がいたから、懲らしめたかっただけだよ」
一時はひやっとしたけれど、なんとかなりそうだと思った。
実可子ちゃんは俺たちに、自分の気持ちを話そうとしてくれている。良かった。
……そう思ったころに爆弾を落とすのが、鈴木のおっさんという男だ。
「それがいじめって言うんだろ! 悪いことをしているという自覚がないんか!」
「おっさん、乱暴な言い方は止めろって!」
その発言が状況を悪くさせると、どうしてわからないのだろう。注意をしても、本人は全く悪びれていない。
「いじめなんかしてない! そもそも、悪いのはあの子のほうなんだから!」
再び実可子ちゃんの感情が乱れる。今にも泣きだしそうな顔で、訴えるように叫んでいた。せっかくうまくまとまろうとしていたのに、ぶち壊しだ。
「あの子のほうが悪いって、何か嫌なことをされたの?」
さゆりさんが尋ねると、実可子ちゃんは堰を切ったように話し始めた。
「お金持ちで、いつも自慢ばっかりするんだ。たぶん、わたしたちのことを見下しているんだと思う。それにぶりっ子でさ。特に男子の前ではいい子ぶるの。わたしだけじゃない。みんなムカついてるよ」
たしかに、あいちゃんは女の子らしいタイプだから、ボーイッシュな実可子ちゃんからすればぶりっ子に感じるのかもしれない。家も立派で、たしかにお金持ちだ。
……でもこれって、ただの妬みなんじゃないか?
「……実可子ちゃん、どんな理由であれ、人を傷つけるのはよくないわ」
「何がダメなの? あいつのせいで嫌な思いをしているのに」
「実可子ちゃんたちの行いは、その子にもっと嫌な思いをさせているわよ? 普通に考えてよくないでしょう?」
「全然。少しは反省してくれたらいいなって思うよ」
まったく悪びれた様子もなく、けろっと驚くようなことを口にしている。
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