249.人材ゲット

 適温の会議室にいるのに、あかねさんの額に玉の汗が浮かんでいるのがわかる。


「勘違いしないでくださいね。違法な物を扱っているわけではありません。ちゃんと国の認可は下りています」


「で、ではなぜ、政府からも狙われるのでしょうか?」


「その技術、材料の入手先の情報が欲しいんですよ。うちの独占状態なので」


 天水専務も頷き、あかねさんもそういうことかと安堵の表情になる。おそらく、違法な物を扱っていると勘違いしたのだろう。


「来月からその政府から各国のサイバー攻撃への対応をするという名目で、元ブラックハットハッカー二人送られてきます。これは名目上うちの情報を守るという意味もありますが、各国より先に日本政府がうちの情報を得ようとしているだけです。それを防ぐのが一番の仕事になるでしょう」


「ほ、本当にそんな、え、映画みたいなことがあるのですか?」


 あるんです。


 少しばかり、情報公開しますかね。うちに引き込むのだから、兼好けんこうの時みたいに、少しは正義のヒーローごっこっぽくしたほうがわかりやすくていいだろう。


「あかねさんは神が実際にいると思いますか?」


「きゅ、急ですね? か、神と呼ぶかは別として、我々より高次元体は存在すると思っています」


「そうですか。神はね、本当にいるんですよ。この日本、いえ、この世界には表に知られていない、もう一つの裏の世界があります。その裏の世界から表の世界を守っている人がいるんです。実際に」


「そ、それが神だと?」


 ちょっと違う。


「十六夜くん! それ以上はいかん!」


 天水専務から制止の声が入る。


「大丈夫です。信じるも信じないはあかねさん次第。誰かに言ったところで、頭がおかしいと言われるだけです。ちなみに、神は力を貸してくれるだけ。実際に戦うのは我々です」


 ごくりとまた唾を飲む音がする。あかねさんの顔が汗だくだ。ハンカチ貸しましょうか?


「風月」


「えっ!?」


 体調が悪そうなので使ってみた。


「気分はどうですか? 回復魔法ってやつです」


「……」


 口をパクパクさせて声が出ないって感じ。


 じゃあ、もう一押ししてみるか。とはいっても、俺の使える月彩の英気の名かでわかりやすいのってなんだろう? バフ系はわかり難いし、デバフだと大混乱になりそう。


 そうだ、あれを使おう!


「月兎」


「「!?」」


 シャドーボクシングをしたミニうさぎ師匠が現れる。やる気満々をアピールしているけど、周りの状況に気づいて困惑顔。ごめんな。今回は戦いじゃないんだよ。


 またかよって顔になり、orz状態になって項垂れるミニうさぎ師匠。意外と芸達者だな。恨めしそうな目で俺を見ながら消えていく。次はちゃんと戦闘の時に呼ぶから!


「みたいな力が与えられます。そんなヒーローたちが使う武器防具なども、うちで取り扱う商品にあるのですよ。その武器の中には現代兵器を凌駕するものまである。そんな物が共産主義者やテロリストに渡ったらどうなるでしょう?」


「……」


「裏の世界からの侵略の前に、世界の覇権を狙う連中が第三次世界大戦を起こすのではないでしょうか?」


「そ、そんな大事に、わ、私を巻き込むと?」


 そういうことです。


「そこまで気を張る必要はありません。いずれ、これらの情報は世界各国に開示されます。ですが、それは今では困るのです。こちらの準備が整うまでは、少しでもその情報が広まるのを遅らせなければなりません」


 マーブル商会が確固とした地位を手に入れ、各国の上層部に認知されがっちりとその内部に喰らいつくまでは情報を広めたくない。というより、よそから横槍を入れてもらいたくない。


 もしかしたら、ゼギール帝国以外の国とやり取りしているこちらの国があるかもしれない。その国から横槍が入る可能性もある。そうならないためにも、しっかりとした基盤を作っておきたい。


「どうでしょう。力を貸してもらえませんか?」


「こ、雇用条件は、ど、どうなっていますか?」


「給料はxxxで、住む部屋はこのビルに用意します。仕事柄、就業時間は定めません。空いている時間は自由にしてくださって構いません。ゲームをしようが、創作活動をしてもいいです。ただし、長時間外出する場合は事前に申告してください」


 ほかにも細かいことも説明していく。


「ほかに何か条件を付けることはありますか? できるだけあかねさんの要望にお応えしますが?」


「ほ、本当にこ、こんな条件で雇ってくれるのですか?」


「物理的なセキュリティならどうにでもなります。というより、既に対応策が進んでいます。ですが、情報セキュリティだけはまったく手垢の付いていない信用でき信頼できる人間が必要です。あかねさんは兼好けんこうの姉、俺にとってはこれ以上ない人材だと思っています」


 悩んでいるな。


「兼好は、こ、このことを知っているのでしょうか?」


「すべては教えいませんが、少しだけ手伝わせています」


 将来的にはうちの会社に入れたいと思っている。


「わ、わかりました。ひ、引き篭もりでいいなら願ったり叶ったりです。よ、よろしくお願いします!」


 よし! 人材ゲットだぜ!


 取りあえず、明日から通いで来てもらう。政府の犬が来る前に、あかねさんのほうである程度のネットワークを構築してくれることになった。政府の犬にはダミーのサーバーを預け、本当のサーバーはあかねさんが管理するというもの。


 そのための設備も必要になってくる。世界を相手にするならスパコンも必要だと言っている。


 スパコンって買えるの? 買えるそうだ。と言っても沖縄の地下にあるような膨大な物でなく、大企業で使うような小型の物。それでも水冷式の本格的な物らしい。すぐに手に入るような物じゃない。だけど、導入は必要だ。


 設備費用だけで二億近くが消えそうだ。


 天水専務、顔を引きつらせている。俺もあかねさんの説明を受け顔を引きつらせるが、これも設備投資と諦めた。


 それだけの価値があると期待したい。










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