241.マグロパーティー
「出来なくはないが、そんなに需要があるか?」
「試しにオプションでパーソナルマーク入れをやってみればいいと思います。間違いなく多くの人が入れます。それを見てから色や形をオプション化していけばいいと思います」
ギルド長以外は俺の話を聞いて納得の模様。特に秘書さんは女性だけあっておしゃれ感覚でいいと、ギルド長に迫っている。
そのおしゃれに関してもう一つの提案をする。
「それでは次の話に移ります。手元資料の二十ページをご覧ください」
「ほう。俺の好みじゃねぇが。腕のいいドワーフの職人が作ったに違いねぇ」
「いえ、普通の職人が作ったものです。違うとすれば専門の職人であり、デザインは別の人が考えたというところでしょうか」
そう、ジュエリー、装飾品だ。ハンドメイドで職人自身がデザインを考えることもあるけど、俺たちが狙っているのは高級志向のジュエリー。
以前、ドワーフのジュエリーを見せてもらったが正直やぼったい。種族柄かもしれないが、でかい宝石がでーん! って感じで繊細な意匠の物がなかった。
剣や鎧には繊細な意匠が施されているものがあるのに、ジュエリーに関しては大雑把。こちらの世界では宝石や貴金属のジュエリーより、木材やサンゴなどのジュエリーが好まれるから需要がない。なので、ドワーフ感覚なのは否めないけどね。
「どうでしょう、こちらでデザインを作りますので職人を紹介してもらえないでしょうか?」
「しかしなぁ、こんなの売れるのか?」
こちらの世界では売れなくとも、向こうでは間違いなく売れるだろう。
「いいぜ。この手の意匠造りの職人は仕事が少ねぇからな。金さえもらえるなら喜んでやると思うぜ。職人ギルドとしても歓迎だ」
職人ギルドのほうで声をかけてくれることで話がついた。詳しい契約は鉱石の話も含めて後日、アディールさんとしてもらう。
「あんにゃの売れるにゃか?」
「間違いなく売れるよ! マーブル。アキくん、ブランド名も考えないとね!」
今、月彩 Tr.Co のほうでデザイナーを探しているほか、武器や鎧、パーソナルマークのデザイナーも探している。ブランド名は人が集まってからだな。
最後に職人ギルドに依頼を出した。ファングベアーの革鎧二十組、ファルスドラゴンの革鎧二十組、ケイブウルフの革鎧二十組だ。形は前回と同じでいいので、色を青、赤、白、黒で五組ずつ作ってもらう。
ギルド長は嫌な顔をしたが、秘書さんはいい笑顔で契約書を作って持ってきてくれた。できた秘書さんだな。
マーブル商会に戻ると鍵がかかっていて誰もいない。隣のパチェット雑貨店も閉まっている。
「サボってどこ行ったにゃ?」
毎日サボり放題の駄猫のどの口が言っているのだろうか?
しょうがない帰ろうかと思ったときにエリンさんが現れた。
「みなさんのことを待っていたんですが、プッカとパチェットさんが勝手に店を閉めてしまってお魚を抱えていなくなったので慌てました」
要するにプッカがマグロを食べたくて店を閉めていなくなったということだな。そこにぱっちょんも加わったわけだ。
エリンさんが探したところ行きつけの食堂に二人プラスプルーネさんがいたらしい。ケット・シーだからな。
居場所がわかったのでエリンさんはここに戻ってきたってわけだ。
「行くにゃ! マグロはお刺身が命にゃ! 全部焼かれる前に確保にゃ!」
たしかにマーブルの言うとおりなのだが、何か釈然としない。沙羅も苦笑いだ。
食堂に着くとちょうど解体中。一メートル超のクロマグロなので料理人二人は四苦八苦。しょうがない手伝おう。といっても、俺もマグロの解体なんてうさぎ師匠の横で見ていただけ。まあ、なんとかなるだろう。
正直、包丁というか調理用のナイフが小さすぎる。牛刀クラスのものがないとこれは苦労する。
そこで考えた。ないならほかのものを使えばいいと。
自由空間から千子正重を取り出す。沙羅がギョっとした目で見てくるが、大丈夫まだ未使用です。九字村正は鵺を斬ったからちょっと食品を扱うのは気が引けるからね。
頭をバッサリ。三枚におろす。凄い斬れ味。重文級もしかすると国宝級の刀で捌いたマグロはさぞ美味しいことだろう。
刺身用に赤身、中トロ、大トロを切り分けておく。頭とカマ部分はそのまま窯に入れた。兜焼きとカマ焼きだな。
骨を鍋に入れて出汁を取ろうとした料理人に待ったをかけ、スプーンを使って中骨から身を削り取る。忘れちゃいけない、中おちだ。凄い量になった……。
ここはご飯だろうということで自由空間に入れっぱなしだった、飯盒と白米で米を炊く。
出汁を取ったスープに野菜とアラ、味噌を入れ完成。
さあ、マグロパーティーの始まりだ!
「にゃ~!」
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