238.悪代官

 帰ってきた。やっと帰ってきた。とても久しぶりに感じる下宿先の俺の部屋。


 小太郎は帰ると同時に加奈ちゃんに拉致された。まあ、いいけどね。


 明日は天水家でマーブルとアディールさんと打ち合わせ。仕入れや魂石のことを話し合わないといけない。


 早く寝よう。


 と思ったが机の上に紙がパラリと舞い落ちる。月読様だ。アイス、お菓子~💢と書かれている……。しょうがなくない? あんな所にコンビになってないよ? はぁ~、買いに行きますか・・。




「完全に駄猫化したな……」


「マーブルさん曰く、ここでは可愛がられることが仕事だそうです」


「働きたくないにゃ~」


 沙羅は苦笑いだ。


 沙羅がお茶を淹れてくれ、俺が買ってきたケーキを食べながら報告を聞く。


 まずはアディールさんからだ。


「会議の途中でガマガエルが乱入して来まして、白熱した討論というより乱闘状態になりました」


 なんだそりゃ? 


 ガマガエルは桐生副官房長官のことだ。俺たちの間での隠語だ。予想どおり、ゼギール帝国との間で上手くいっていない様子。


 成果が出ていないようで、相当追い詰められている感じだったらしい。アディールさんを詐欺師呼ばわりして、利権を全部寄越せと怒鳴り散らし、結局警備員に取り押さえられ退場。


 代わりに財務省分室TLの渡辺さんが現状の進捗具合を説明。


 ゼギール帝国はまったく財務省分室チームの話を聞く気がなく、取り引きを停止すると言っても好きにしろと取り付く島もなく、交渉にすらならないらしい。


 ゼギール帝国がどれだけこちらの世界の国々と取り引きをしているかわからないけど、日本の魂石の割合は少ないのかもしれない。


 しかしだ、財務省分室チームには悪いが、好きにしろと言質をもらったのはプラスの評価点だな。


「次の会議でそこはアディールさんから褒めてあげてください」


「なるほど。すぐではありませんが、この後徐々に首が締まっていくことになるでしょう。ゼギール帝国の慌てる顔が浮かびますね」


 そう、好きにやっていいならゼギール帝国とはすぐに手を切って、日本の同盟国に日本で魂石を今より高く買い取ると言えばいい。その後に世界中にこの情報を流せばどうなるか、面白くなりそうだ。


 ガマガエルにはさっさと退場してもらい組織を一本化してもらう。そのうえで、手数料の無料化を申し出て政府に貸しを作る。毒を含んだ大きな貸しだ。その大きな貸しで、この国の馬鹿な政治家の頭を押さえつけてもらう。


 できないと言ってきたら、含ませていた毒を開放する。魂石の換金はしないとね。ゼギール帝国と手切れとなった以上、俺たちを通す以外ない。世界中の国がゼギール帝国と手を切った後なら、もう大変。間違いなく、世界中から袋叩きにあう。


 そうなることを回避するため、政府はこちらの言うことを聞くしかない。今更だがゼギール帝国に泣きついても相手にされないか、更に叩かれて換金率を下げられるだけだ。


「あきっちが悪代官の顔になってるにゃ。金さん出番にゃ!」


「えぇーい。この桜吹雪が目にはいらぬか~」


 アディールさん、付き合わんでいいですから……。


「サラさん、この駄猫を懲らしめてあげなさい」


「こ、黄門さまにゃ!?」


 黄門さまはどうでもいいとして、政府との話し合いは良いほうに進んでいるな。このままガマガエルが自滅するようにアディールさんに後押しするように言っておく。


「意外と早く結果が出そうですね。あとは詳細を詰めて文書化するだけです。私の得意分野ですのでお任せください」


 頼もしい。なのに会頭であるこの駄猫には不安しかない。


「マーブル、PCは使えるようになったんだよな?」


「ま、まあにゃ」


 アディールさんはこちらに来てから意欲的に文字を覚え、PCの使い方もマスターしてインターネットを使いこなして情報収集をしている。


 なので、マーブルにもインターネットを使えるようになるように指示していた。


 向こうで売れそうな物のピックアップしてもらうためだ。驚くことに、ちゃんとやっていたようで印刷したリストを渡してきた。


 だがしかし!


「マーブルさんや」


「なにかにゃ? あきっち」


「誰がマーブルの食べたいものをリストアップしろと言った!」


 こ、この駄猫、一度三味線にしてやろうか!


「あ、あきっちの後ろにオーガが見えるにゃ……ガクブル」


 リストに載っているのは庶民派スナック菓子から有名菓子店の洋菓子まで幅広く記載されている。なぜに、ふるさと納税品まで!? ボケなのか? 突っ込んでほしいのか? 突っ込んでほしいんだな!


は趣旨を理解していないようだね。そんなにはぐりぐりの刑を差し上げよう」


「い、痛いにゃ~! さらっち助けてにゃ~!」


 それよりだ。そろそろマーブルの正体を明かす時じゃないだろうか。


 仕入れた品を会社に取りに行くのも、誰かが付いていかないと受け取れない。今までは沙羅かアディールさんがついて行っているが、正直時間の無駄だ。


「えぇ~、嫌にゃ~。今のままがいいにゃ~。そうにゃ! プッカが品を取りにくればいいにゃ! そうだ、そうしようにゃ!」


 まあ、プッカもケット・シーだからマーキングは持っているだろう。


 けど、駄猫の姉を持ったばかりに、プッカ憐れだ。







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