235.土蜘蛛と鵺

 大妖怪大戦を観戦しようと小高い丘に登ってみる。


 丘の上にはストンサークルのように石が敷き詰められ、二メートルを超す五つの大きな石が円を描くように立っている。そのうち二つの石が真ん中から二つに割れている。


 まさか、この二つ? 大きな石の並びをよく見れば、これって五芒星になってね? 真ん中の石の並びも九字印のようにも見える。所謂、ドーマン、セーマンっていう奴だ。


 ここって非常にまずい場所のような気がする。


 大きく回り込んで反対側の林のほうに来た。木の陰から大妖怪大戦を覗き見ると、鵺の爪が土蜘蛛の頭を捉え深々と突き刺さっていた。


「無念……」


 土蜘蛛って喋れたんだ。鵺が勝利の雄たけびでも上げるかと思ったら、ヒューヒューと気の抜けた声が響く。なんか様にならない……。


 勝者の鵺が先ほどまで俺たちがいた丘の上に登っていく。


 これはチャンス!


 気配を殺し、動かない土蜘蛛の近くに移動。二度、階位が上がったレベルアップ。魂石も一個半溜まった。魂石の溜まり具合から見ると、竜の大回廊の怪獣どもほどではない。それが力と比例しているかはわからないけど。


 最後に自由空間に土蜘蛛を収納。さっさと、とんずらなんて思っていたが、なぜか視線を感じる。その視線を辿れば、鵺と目が合った。


 あらやだ、見てたのね? 


 鵺の目は完全にいっちゃてるね。これは見逃してくれそうにないかな?


「にゃ……」


 ですよねー。


 相手は満身創痍。十分に勝機はある。問題があるとすれば、それは手負いの獣ってこと。甘く見たら大変なことになる。


 さあ、修行の成果を試す時だ。小太郎、ちゃんと掴まっていろよ。


「にゃ~」


 相手は手負いとはいえ、格上。舐めプをするつもりはない。最初から全力で行く。


 九字村正を出して腰に差す。今俺が持つ武器の中で最強だけでなく、無絶という固有技まで持つ刀。


 はにわくんとはにわくんミニを召喚。


「行け!」


「はにゃ~!」


「…(コク)…」


 正直、はにわくんたちでは相手にならないだろうが、時間稼ぎはしてくれると思う……思いたい。


 はにわくんたちが突撃している間に、全身に氣を巡らす。宵月(攻撃力UP)、月城(防御力UP)をかけ、印瞳術天之尾羽張神あめのおはばりのかみ天十握剣あめのとつかのつるぎを発動。闇(黒)と獣(橙)特攻属性を付ける。


 鵺といえば一説によれば雷獣とか怪鳥と言われているから、本当であれば雷と鳥の特攻属性を付けたかったけどないからしょうがない。


 今持てる最強の力で挑む。


 鵺の攻撃で破壊され消えゆくはにわくんたちの時間稼ぎに感謝しつつ、鵺との間を詰める。


 ここでもう一手。竜牙を投げて竜牙兵を召喚。竜牙兵の剣が傷は浅いが確実に鵺の体を斬りつけ鮮血が舞う。


 鵺が竜牙兵に気を取られている間に背後に回り込み斬りつける。卑怯? それがどうした!


 九字村正に氣をのせ理力も注ぎ、竜牙兵を狙らう右腕を斬りつける。ぼとりと右腕が落ち鵺の声にならない悲鳴を発する。落ちた右腕は黒い煙となって消えていった。


 驚くほど凄い斬れ味。右腕を狙わず首を狙えばよかったかも。


 右腕の無くなった鵺の右肩からブクブクと黒い泡が出て、よく見ると右腕が再生しているように見える。


 超再生か!? とも思ったけど、ほかの傷はふさがっていない。なんらかの条件があるのか?


 そんな黒い泡がぶくぶくと出ている場所か急に発火し燃え、再生を阻害している。小太郎か!? いい仕事してますね~。


 俺も追撃をかけたいがなかなかチャンスがない。竜牙兵が連撃で攻撃しているが、すべて傷は浅い。それに鵺の敵愾心ヘイトは完全に俺に向けられている。


 けん制程度に斬りつけるが、今度は左腕で完全に防がれる。九字村正を受ける瞬間、鵺の左腕に大きな氣が纏われるのがわかる。


 体全体に薄く万遍なく、一部の場所に必要に応じて多くの氣を使う。俺より氣の扱いに長けている。さっきのように不意をつくか、この鵺より大きな氣で攻撃するしかない。


 正直、こうまで敵愾心ヘイトを向けられると不意をつくのは難しい。


 となれば、正攻法でより大きな力で叩き潰すのみ!


 これが無傷の万全な状態の鵺なら、俺は逃げ出していたかもしれない。だが、この鵺は満身創痍。俺の九字村正を受ける氣は濃厚でそれでいて洗練されているが、万全な状態なら体全体をその氣を纏っていたはず。それができずに薄く氣を纏っているのは、残りの氣が少ない証拠。


 ここで畳み掛けないでいつ畳み掛ける? 今でしょう!


「にゃ~!」


 小太郎も全力でサポートするにゃ~と気合をいれた、のかな?


 鵺の体至る所から発火し見えない風の刃で傷が増えていく。初めて小太郎の本気を見た気がする。


 負けていられない。正攻法で攻めるとはいっても鵺との実力差は歴然。真っ向勝負の殴り斬り合いでも勝てなくはないと思うが、支払う代償も大きくなりそうなので少々搦め手を使う。


 刀は一撃必殺。だが、鵺にそんな隙はない。ないなら作ればいい。


 本来はそんな使い方をしない刀で棒法を使用し、そこで作った隙に六陽掌を叩き込む。天山六陽掌は防御無視の内部破壊技。


 手さえ届けば絶大なダメージを与えられる。多少は氣で相殺されると思うが、今の鵺の氣の量と俺の氣の量なら間違いなく俺のほうが勝っている。


 内部にダメージを蓄積させ、そこで作られる大きな隙を突いて俺の最大の氣をのせた一撃必殺を喰らわせる。


 ジ・エンド……になるはず。なるよね?


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る