230.ビバーク

 沙羅の手を握り走る。銃撃されているので追われているのがわかる。散発的な銃撃なので追手は少ないと思うが、逃がしてくれそうもない。


 沙羅に目でお互いの意思を確認。沙羅が頷く。


 沙羅と手を離し背負っていた無線機を投げ捨て、左右に分かれて走る。亡者を挟み撃ちにする。


 亡者は二十体くらい。沙羅も俺も銃撃を浴びるが氣を纏い痛みを我慢して突撃。接近してしまえばこちらの独壇場、斬り捨て御免だ。


 敵を全滅させたが、沙羅は無傷だが氣を使いすぎダウン寸前。俺はところどころに銃撃による傷を負っていたので風月で治す。


 沙羅を休ませてやりたいが雨が降ってきた。合羽を着て無線機を拾い目的地を目指すが、走って逃げたせいと雨が土砂降りになってきたせいで方向がわからなくなる。


 まいったな。弱り目に祟り目だ。雨がやむまでどこかでビバークするか。


 疲れた体に鞭打って、土砂降りの中場所を探しなんとかテントを張れそうな場所を発見。


 自由空間から最悪の事態を想定して用意していたテントを出して張る。張ると言っても投げれば拡がるタイプだ。タープも張り風で飛ばされないようにペグでしっかりと固定。


 沙羅を先に入らせ着替えをさせる。その間に無線機の確認。亡者の銃撃を受けて破損している。うんともすんとも言わない。駄目だなこりゃ。


 あとははにわくんたちの召喚をしてみる。亡者の攻撃で帰還していれば召喚できる。召喚できない時は花音さんたちと一緒にいるということだ。


「はにゃ~」


「……」


 はにわくんもはにわくんミニも召喚できた。これで、花音さんたちの安否が不明になった。沙羅の着替えが済んだようなので俺もテントに入り着替えをする。はにわくんたちには見張りを頼んだ。


「無線機が壊れた。花音さんたちの安否も不明」


「そう。花音さんたちなら大丈夫だよ!」


 沙羅は小太郎を拭きながら、敢えて明るく振る舞っている。


 まあ、俺も大丈夫だと思っている。あの花音さんだからな。


 問題は無線機が壊れたことと、自分たちのいる場所がわからず連絡が取れないということだ。ちなみに自由空間に入れていたスマホを出して確認したが圏外だった。運が悪い。


 外は土砂降りで数メートル先も確認できない状態のため、目印に付けたリボンも探せない。すぐにやめばいいけど。


「お腹が空いたね」


「にゃ~」


 ここは簡単でおいしいカップラーメンの出番だな。タープの下でお湯を沸かして入れ三分待つだけ。小太郎にはカリカリをお皿に出してやる。


「美味しいね~」


「うみゃうみゃ」


 外で食べるカップラーメンってなんでこんなに美味しいのだろう、それに冷えた体が温まってきた。


 残ったお湯でお茶を淹れ飲む。雨がやむ気配がない。はにわくんたちはずぶ濡れだが大丈夫だろうか? 土器って濡れても平気だったよな? 煮炊きに使うくらいだし大丈夫だろう。


 困った。雨がやまない。そして天候ではなく時間的に暗くなってきている。


 ここは月虹で戻るべきか、戻るにしてもどこに戻る? 転移系の力をほかの者に知られるわけにはいかない。残月(鑑定)以上に知られてはいけない力だ。


 もし、目的地に月虹で転移したら、花音さんたちとバッタリということも。それは絶対に避けなければならない。


 それと、今から目的地に戻ったとしても、この雨では司令部まで戻るのは厳しいだろう。結局、どこかでビバークしなくてはならなくなる。


 それならもう開き直って、ここで夜を明かしたほうがよくないか? また濡れるの嫌だしこの雨の中歩くのも危険だしな。


「晴れないことにはどうしようもないよね」


「もうすぐ時間的に日没だし、明日の朝一で司令部に戻ろう」


 はにわくんたちが見張りをしていてくれているとはいえ、二人とも呑気に寝るわけにはいかない。ここは敵地のど真ん中。雨だから夜だからといって、怪異モンスターが襲ってこないとは言えないのだ。


 最初に俺が寝て沙羅が見張りをすることにした。とはいえ、こんな状況で爆睡できるほど神経が図太くない。テントに打ちつける雨の音もうるさく気になって眠れない。結局、一睡もできずに沙羅と交代。


 沙羅は小太郎を抱いて横になるとすーすーと寝息を立て始める。沙羅さん、大物です……。


 夜中を過ぎているので外は真っ暗、そのうえ雨。外を見ていても何もわからない。ライトを点けると逆に怪異モンスターに場所を教えるようなもの。


 することがないので、気配察知の訓練。氣を使って周りを探ることと、氣を使わず気配を探ることを切り替えながら違いを感じる。


 そこで気づいた。周りの木々の氣に紛れて大きくはないが氣がテントの周りに二つあることに。あれ? これって、はにわくんたちじゃね?






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