229.無念の撤退
遠くに青白い火の玉のようなものがゆらゆらと浮いている。あれが鬼火?
「十六夜たちは鬼火は初めてか?」
「「はい」」
「鬼火がいると必ず亡者が現れる。そして亡者には物理攻撃が効かない」
亡者、簡単にいうと幽霊だな。こちらの物理攻撃は利かないのに、向こうの攻撃はこちらにダメージを与えるという謎仕様らしい。
そして、数が多く出るので厄介。花音さんがこれまでい遭遇した亡者は二種類いるらしく、一つは武士、足軽から武将まで出てきて襲ってくるらしく、これはまだいいほうらしい。
問題はもう一方、その姿は近代装備の兵隊で旧日本兵。銃で攻撃してくるので洒落にならないそうだ。救いなのが旧日本兵の武器なので単発式がほとんど、それでも脅威だ。
っていうか、反則じゃね? 銃で攻撃してくる
フリントロック式とはいえ弾と火薬が別になっている銃と、弾と薬莢が一緒になっている近代銃とでは性能が違いすぎるでしょう! 連発式ではないとしても、一発一発の間隔は比較にならないほど早くなるから!
「十六夜たちは氣が使えるか?」
「「使えます」」
「はにわは?」
「無理ですね」
はにわくんが氣を使っているのを見たことがない。
はにわくん、使える?
「はにゃ~?」
ですよねー。
「鬼火も亡者も実体はない。エネルギー体だと思えばいい。氣や理力でしか倒せない代わりに、相手の攻撃も氣で防げる。必ず体に氣を纏うのは忘れるな!」
どうやら突っ込むらしい。脳筋だ、脳筋がいる……。
とはいっても、少しは考えているようではにわくんミニを最初に突撃させ気を引いているうちに、はにわくんを盾にしてみんなが突っ込む作戦。
はにわくんミニは囮という名の人身御供か……ごめんな。
「行け!」
花音さんの合図ではにわくんミニが鬼火に向かって走り出す。はにわくんミニも氣を使えないので、鬼火に矛を向けて突っ込んでもすり抜けて通り越す。
その時に人の悲鳴のような音が周りに響き渡ると、鬼火の周りに半透明だが日本兵と思われる者たちが大勢現れ、はにわくんミニに向け銃撃を開始。ざっと見、百は超えているな。
だがしかし、そいつらが向いているのははにわくんミニが走り去った方向。俺たちに背を向けている状態。
「行くぞ!」
一時的に無線機を自由空間にしまい、俺もカットラスを持ち走る。はにわくんのドタドタという走る音に気づいた亡者たちだが、もう花音さんの縄鏢の射程距離。
縄鏢が放たれ一体、また一体と消えていく。亡者たちはさすがに近距離で銃は撃ってこず、銃剣で応戦してきた。銃を撃ってこない亡者はたいした脅威ではなく山姥程度の力。百体いても四人で十分対応できた。
ちなみに、鬼火は小太郎の雫で消された、存在ごとな。
俺と沙羅の体が光る。
意外と美味しい
今回は上手く相手の隙を突けたから簡単に済んだが、真正面から戦ったらこうはいかないだろう。実際、はにわくんミニは銃撃を受けてバラバラになった。やっぱり銃って反則だと思う。
「十六夜。目的地ろまではあとどのくらいだ?」
「北に七百メートルってところでしょうか」
目的地は近いがそこから周辺の捜索もあるのでそこそこ時間はかかる。昼食もまだだしな。
「目的地までは進むか。横田、大丈夫だな?」
「うぃーす」
はにわくんミニを再召喚して、慎重に進んでいく。目的地に着くまで
「不気味だな」
花音さんの一言がフラグになったのか、小太郎がぶるっと震えたかと思うと俺の服の中に入り込んだ。
これ、なんかヤバくない?
そう思った瞬間、俺たちの周りを囲むように鬼火が現れ、亡者も続々と現れる。
「ちっ、罠か。横田、道を作れ! 十六夜たちは目的地に向かえ! 一時間待っても私たちが来ない時は司令所に戻れ! いいな!」
「「はい!」」
亡者たちが銃撃を開始してくる。花音さんが縄鏢を縦横無尽に振り回し自分自身を囮として
俺と沙羅も横田さんに続き、亡者の包囲網を突破するべく剣を振るう。氣で防御しているとはいえ、地味に銃撃が痛い。針で刺されている感じで、体にダメージはないが精神的に痛い。
なんとか包囲網の一画を突破したところで、
「お前たちは先に行け!」
横田さんは花音さんの所に戻るようだ。漢だ。そんな漢、横田さんに宵月、月城、朧月をかけてやる。
「アビリティか!? 助かる!」
「命大事にです!」
「ご無事で!」
多勢に無勢。あれを相手にするには俺たちでは荷が重い。物理攻撃が効かないのは厳しい。沙羅はまだ氣を学んで日が浅い。氣のコントロールは上手いが氣の量が心許ない。なので長時間の氣での戦闘は無理。
沙羅とは逆に、俺は氣の量は多いけど氣のコントロールにまだ難がある。なので、俺も長時間の氣での戦闘は厳しい。
ここにいても花音さんたちの邪魔になるだけなので、退却の道しかない。
無念だ……。
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