219.全力

「始めよ」


 月読様の合図で、はにわくんが六角棒を振り下ろしてくる。


 カットラス二本をクロスさせ六角棒を受ける。ガッキーン! という金属がぶつかった音とともにもの凄い衝撃が俺を襲う。な、情け容赦ないなぁ……。


 それでも、問題なく受けきった。氣を乗せているおかげでカットラスも無事で問題なく戦える。


 はにわくんが俺を押し込もうとし、それを俺は押し返そうとする。所謂、鍔迫り合いの様相を呈している。単純な力比べで、はにわくんは氣とアビリティで強化した俺と同じってことだ。


 はにわくん、なんて恐ろしい子……。


 強く押し込み素早く引いて、一度間合いを取る。まさかはにわくんがここまでとは……。いつも、軍神の横に並び立っているつわもの。はにわくんは伊達じゃないってことか。


 力は互角。ならば、速さはどうだ?


 一気に突っ込み一度フェイントを入れる。そのフェイントにはにわくんが引っ掛かり、そこにわざとけん制で武器を振るう。武器を振るった体勢の逆に体を捻らせ移動。その勢いのまま二度のフェイントで完全に態勢を崩したはにわくんの二の腕を、カットラスで斬りつけすぐに離れる。


 紙を斬ったかの如く手に感触が残っていない。はにわくんの腕が六角棒を握った状態でブランブラ~ン。


「はにゃ~?」


 片腕が無くなり、六角棒を上手く扱えないうえ、斬られた腕が邪魔になっている。


 はにわくんには悪いが追撃。近寄らせまいと大振りする六角棒を躱し、残りの腕も斬り飛ばす。更に追撃で右肩からの袈裟斬り、ほぼ同時ほんの少し遅らせて左肩からの袈裟斬り。はにわくんの体をクロスに斬り裂く。


 崩れ落ちて、地面に落ちた衝撃でガシャーンと粉々になり、消えていくはにわくん。今のはにわくんは地面にぶつかったくらいで砕けるような軟な体じゃなくなっているのに、なぜに砕けた? 負けた時の様式美か?


「力は同等。速さは聖臣が遥か上であるな」


 はにわくんは元々パワー重視の重戦車タイプ、動きは機敏なほうではなかった。止まって見えるなんては言わないが、それでもここまでの差が出るとは自分でも驚きだ。


「その力を基準に修練に励むとよい。さすれば、更に先に進めるゆえな」


 再度、はにわくんを召喚。


「はにゃ~!」


 俺に負けたのが悔しいのか、やる気に満ちている。というより、殺気に満ちてない? 一応、俺があるじだよ?


 そんなはにわくんと、今度は武器を使わずに六陽掌のみで相手をする。この六陽掌は剛の拳ではなく柔の拳。柳に風の如く躱し、するりと近づき氣を相手に叩き込む。


 距離は関係ない。最小の動きで最大の力を発揮する。所謂、寸勁(寸→3.03cm)とかワンインチパンチ(インチ→2.54cm)と呼ばれる技法。そこに体の内部にもダメージを与える氣の攻撃。天山六陽掌は反則級の技だ。


 胴体に六陽掌を受けたはにわくんは、木っ端微塵になって消えた。


「恐ろしい技よ。間違っても使い方を誤るでないぞ。聖臣」


 これは生身の人間に使っては駄目な技だ。確実に人を殺す暗殺拳のたぐいだ。間違いない。だが、怪異モンスターになら問題はない。


 今のところ氣を使ったことによる体への反動はない。だが、この全力で戦えるのはせいぜい十分程度だと思う。それ以上は体がもたないだろう。氣の修練も大事だが、基礎能力の向上が最も大事そうだ。保有する氣と俺の体がミスマッチ状態なのが、今回の検証でよくわかった。


 あとやはり、一度ちゃんと剣術というものを学んでみたい。足さばき、体さばき、剣さばき、本を読んでの我流では頭打ちが見えている。


 天山六陽掌や打狗棒法は先人たちが研鑽し、磨き上げて完成された技なので使い慣れていけばいい。既に基礎から応用まで学んでいる。


 どこかの剣術流派の道場に通ってみようか? なんとかしたいところだ。


 はにわくんをもう一度召喚。


「はにゃ……」


 なぜか、落ち込んでいる。もしかして、俺に勝つ気でいたのか!? 仮にもあるじだぞ? それらしいことしたことないけど。


 天目一箇神あめのまひとつのかみの力でクロムモリブデン鋼の六角棒の耐久力を回復してやる。酷使してきたせいで耐久値がかなり減っていたようだ。


 六角棒が回復して喜んでいるはにわくんを帰還させ、剣術と基礎能力向上について月読様に話してみる。


「わらわは剣術は使わぬゆえ教えられぬ。ここで修業をしておれば自ずと基礎能力の向上はしよう。されど、それで満足できぬとみれる聖臣のために、特別に新たな修行を用意するとしよう」


 えっ? そんなこと一言も言ってませんけど? 


 月読様が緑の腕輪を渡してくる。翡翠みたいだ。


「腕に着け、氣を流してみよ」


 言われたとおりやってみる。


「ぐぇぇ……」


 急に体が地面に縫い付けられ動けないぃ……。


「その腕輪に氣を流せば流した量により、己に負荷がかかるようになっておる。氣を精密に操作するすべも学べ、体に付加もかかり鍛えられる一石二鳥よ!」


 腕輪に氣を流すのをやめると体が軽くなる。もう一度流すとヒキガエル状態。


「本来、一でよいところをそなたは十以上で行っておる。無駄に氣を垂れ流しておる。もっと繊細に氣を扱えるようになれば、それだけ長く氣を扱えるということよ」


 今でも氣を抑えているつもりだが、まだまだってことか。まったく身動きが出来ないことから、今の俺には二百キロくらいの負荷がかかっていると思う。百キロくらいならなんとか立てるか? まずは氣の量を今の半分できるようになろう。


 と頑張ってみたものの、この日は挫折。


 そんなこんなで修行が続き、気づけば修行最終日になっていた。




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