217.次なる修行へ

 凄い経験をした……。


 まさか、幽体離脱するとは。


「たわけが。体から魂が抜ければ死んでおるわ」


「でも、自分を上から見てましたよ?」


「うさぎの施術で一時的に氣が活性し、感覚が拡がっただけのことよ」


「「氣が活性し、感覚が拡がる?」」


 そういえば、いつもより体が妙に調子がいい。これが氣が活性したせいなのかも。


「氣とは己の一部よ。その氣が体の外に拡がれば視覚、聴覚、触覚などすべての感覚が拡がる、聖臣はたまたま広がった視覚と感覚共有したまでよ」


 それって空間把握ってことか?


「それは身につけられるものなのでしょうか?」


 俺も知りたい。


「氣の奥義中の奥義。氣を極限まで薄め、広げ全方位を認識するゆえに常時は使えぬ。精度は落ちるが同じような技能もある」


「それはどうやれば覚えられます?」


「まずは気配察知を覚えることが条件よ。そこからの派生技能よ」


 気配察知か。小太郎にお任せ分野だった。訓練してみるか。


「覚えたいのかえ?」


「覚えたい」


「覚えたいです!」


「うさぎ、今日から追加するがよい」


 うさぎ師匠がコクコク頷く。とはいえ今日で五日目、十日の予定できているので、あと五日しかいられない。覚えられるのか?


 朝食後、さっそく気配察知の訓練が始まる。


 兎と猫がゴロゴロしている場所に行き、座らせられる。うさぎ師匠が俺に白黒の兎、沙羅には白の兎を渡してくる。


「可愛いぃ~」


 そういう問題ではないと思う。どうやら、この兎と猫だらけの中で、渡された兎だけの気配を感じろということらしい。もちろん、氣は禁止。


 目隠してしばし兎をモフり、そして離す。あとはその兎の気配をずっと追い感じる。これがまた難しい。動いている間はなんとなくわかるが、一度止まりまた動き出すとほかの兎や猫と入れ替わっている。集団に紛れこまれてもわからなくなる。今日から午前中はこの訓練になるそうだ。


 お昼にハヤシライスを食べ、お昼寝後に沙羅の氣道を広げる施術があり、一瞬で沙羅が気絶。布団まで運んだ後うさぎ師匠と組手。


 無手の組手が良かったことから、一段レベルアップして武器ありの組手となった。


 使うのは打己棒での打狗棒法。この棒法は剛の技ではなく柔の技。己の力だけでなく相手の力も利用する合気道的棒法なので、うさぎ師匠相手には向いている。


 なんて思って挑んだが、いい所までもっていくとギアをひとつ上げて速さで上回れ、逆に翻弄される。さすが、うさぎ師匠。


 ならばと、打狗棒法に六陽掌も織り交ぜて挑む。先ほどと比べても明らかに手応えを感じる。うさぎ師匠が何かを仕掛けてくる気配を感じる。


 きた! 奇を衒うムーンサルトキックキックだ。トラ覆面の技なのに兎が使ってどうする!?


 腕でガードするが思った以上に重い攻撃だ。だが、飛んだのは悪手だな。俺を蹴った後、どうしても一瞬空中で無防備になる。そこを六陽掌で迎撃。取った!


 ……と、思いましたさ。


 うさぎ師匠、空中で体を捻り六陽掌で伸ばした腕につかまり腕十字固めに持っていかれる。飛びつき腕十字変形バージョンってところか。


 空は黒いな……。


 それと、飛びつき腕十字は反則技ですよ?


 うさぎ師匠、チッチッチッと可愛い指を横に振る。情け無用ですか。


「聖臣、よい技を会得したものよ。氣と氣道を調整したことで体のキレも見違えた。あの軟弱な聖臣がこんな立派に……およよょ」


 さめざめと泣くふりをする月読様。わざとらしい。


 この後も何度かうさぎ師匠と組手をしたが、結局一本も取れなかった。乗り越える壁は高いな。


 夕飯はホワイトシチューにした。ハンバーグ好きの月読様のためにお肉の代わりにミートボールを入れてみた。大喜びだ。


 目を覚ました沙羅も夕飯を食べて英気を養う。なにせ、今からあの悶絶、激痛マッサージが待っているのだから。


「美味しいけど、気が滅入るよ~」


 頑張れ。


 俺の夕食は月読様の酒の肴に作った鯛のカルパッチョの残りで鯛飯を作ってみた。身は少ないけど骨からいい出汁が出てめちゃくちゃ美味しい。


 カツオのたたきも作ってたっぷりのネギ、みょうが、大葉、そしてニンニクで食べる。薬味とたれが良く合って、美味い!


 たたきはカツオの皮を炙ることで柔らかくなり、香ばしさがカツオの生臭さを和らげるなんて言われているけど、美味しければ理由なんてどうでもいい。美味いは正義!


 そしてその夜、夜もすがら女性の悲鳴とすすり泣く声が聞こえたとか、聞こえなかったとか……怪談か!?


 昨夜の悲鳴はどこへやら、沙羅の調子は絶好調のようだ。うさぎ師匠との組手をしているが、一段階レベルアップして軍神モードを手に入れたようだ


 いや、冗談じゃなくて、沙羅の体から青い光が出ているのが目に見えている。


「まさかここまでとは……奥義中の奥義を既に身につけておる。なんという才能よ」


 それって氣による空間把握ですか!?


「うむ。末恐ろしい女子おなごよ」


 さ、さすが、軍神沙羅……。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る