213.厨二発病

 とても不安な月読ジョーク? がさく裂した後、月読様が座った場所と反対側にもの凄いプレッシャーを感じる。


 目を開けるなと言われているから見えないけど、確かにそこにはもの凄いジンジンと熱い威圧感を発する方がいるのがわかる。そしてすぐにもうひと方増えた。こちらはヒリヒリとした全身が斬り裂かれるのではという冷めた威圧感を感じる。


「本来であれば苦痛ゆえ片方ずつやるが、面倒なので一度で済ませるゆえ、耐えるがよい」


 まじでぇ! だ、大丈夫なんですよね!? 月読様~!


 と思った瞬間、片目が真っ赤に熱せられた棒を刺された感じと、もう片目にはつららを刺された感じを受け、一瞬で意識を手放した。



 目の痛みで目が覚めた。左目が熱く、右目が冷たい。


「大丈夫? アキくん」


 沙羅の声が聞こえるがすべてがぼやけてよく見えない。


「安静にしておれ、聖臣。言うたであろう、二、三日はまともに動けぬと。それから、回復系の護法を使ってはならぬゆえな」


 風月使っちゃ駄目なんだ……。


「ぼやけて何も見えないのですが」


 喋るのもつらい。


「力が馴染めば元に戻る。今日はもう寝るがよい。まあ、寝れればであるが」


「何もしてあげられないけど、頑張ってね」


 沙羅のその心遣いだけで十分です。


 沙羅と月読様が部屋を出て行く。それから、朝まで目の痛みに苛まれ続け一睡もできなかった。


 朝になり沙羅とうさぎ師匠が朝食を持ってきてくれ、沙羅が甲斐甲斐しく世話をしてくれる。苦労かけてすまないねぇという感じで昔話の病気のおじいさんになった気分だ。


 目の痛みがあっても腹は減る。なんとか痛みに耐えご飯を食べる。咀嚼する度に痛みが大きくなる。食べ終わり沙羅たちが部屋を出て行くと、また痛みに耐える時間が続く。


 翌日の朝食を食べた後、いつの間にか寝ていたようだ。目が覚めるとだいぶ目の痛みが引いている。ぼやけ具合もだいぶましになった。


 風呂に入りたいな。着替えを持って温泉に入りに行く。


 ふぅ。生き返る気分だ。残念ながらラッキースケベはなかった。、まあ男女で分かれているのだからあたりまえだ。


 温泉から出て脱衣所の鏡をふと見て驚く。左目が赤、右目が青のオッドアイになっている。この歳になって厨二病を発症させるなんて……。


 そして、滅茶苦茶、似合わねぇ……。


 部屋の戻る前に居間に寄ってみると、月読様が新作ポテチの食べ比べをしていた。


「サバ缶味はなかなかよの~。煮穴子味と鰻の蒲焼味は区別がつかぬぅ~」


 サバ缶味美味しいんだ……。


「サバ缶味にはマヨのとっぴんぐがべすと。わらわの底知れぬ才能がおそろしい!」


 ポテチにトッピングまでしているとは……玄人だな。


「あ、聖臣、もう動けるようになったのかえ?」


 俺に気づいた月読様がポテチ類を後ろに隠す。


 取らねぇよ!


「まだ痛みはありますが、だいぶいいです」


「ふむ。相性が良かったのかもしれぬな」


「目の色が変わっているんですが」


「馴染めば元に戻るゆえ気にするでない」


 そうなんだ。ホッとした。このまま厨二病患者のままだったらどうしようかと思っていた。


「この分であれば、明日には元に戻りそうよの。とはいえ、今日一日は安静にしているがよい」


 そう言われたのでおとなしく部屋に戻るが暇だ。


 この目じゃまだ本も読めない。体を動かすことも禁止されているのでなにもすることがない。仕方ないので布団の上で坐禅を組み心法の修行。今までおざなりになっていたのでちょうどいい。


 体を揺らされて気づく。座ったまま眠っていたようだ……心法は難しいな。


 昼食を一緒に食べないかと沙羅が呼びにきたようだ。


 食べます。


 昼食はカルツォーネとパニーニ。カルツォーネとはピザを半分に折って両面を焼いたもの、パニーニはホットサンドだな。パニーニとホットサンドの違いを俺は知らない。美味しければ問題ない。


 それにしても、沙羅って料理上手? ちょっと意外だ。


「修行はどんな感じ?」


「午前中はうさちゃんに転がされてばかり。午後は氣の訓練だね」


「きつくない?」


「訓練は楽しいよ。きついのは夜のマッサージかな……」


 確かにあれはキツイ……。うさぎ師匠、沙羅にも情け容赦なくやってるんだろうな。


 昼食後はお昼寝の時間なのでお邪魔しないように部屋に戻る。


 また、布団の上で坐禅を組み心法の修行。ジミーの所でやった氣を感じる修行をしようとしたが難航中。なぜかというと、巨大な太陽があり、周りがまったく見えない状況だったからだ。


 巨大な太陽、月読様の氣だな。でかすぎる氣のせいで、ほかの氣が感じられない。


 こりゃ駄目かと思ったが、発想の転換をすることにした。この巨大な氣に隠れて感じ取れない氣を探そうと。それは困難を極めたね。何万という針山の中から一本の針を探すようなもの。


 まずは月読様の氣に慣れることから始めた。この氣はここにあってあたりまえ。氣だけに気にしちゃ駄目だと自分に思い込ませる。自分自身に氣を纏い、プカプカと月読様の氣の海に浮かぶ感じ。


 そうしていると、自分の氣と月読様の氣の違いに気づく。


 月読様の氣は少し温かくうっすらと銀色に感じる。対して俺の氣はとても冷たく、いろいろな色が混じっている感じだ。


 おそらく俺の氣は代々逍遥派の先人が受け継いで、各々の氣が混ざりあったものだと思う。


 それでも、月読様の氣に比べれば、それこそ天と地ほどの差がある。大海に浮かぶ小舟のようだ。


 さすが、神は違うな。


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