212.両目に宿すは

 うーん、悩む。


「聖臣はどのような力が欲しいのかえ?」


 どんな神の力を選んでもいいと言うが悩ましいところだ。


 欲しい力はいくらでもある、だが己の目に宿せるのは二つ。それも、大きな力になればなるほど、大きな苦痛を味わうという。


 それに宿せる力はなんでもできるわけではない。神の力の一部、それも限定的なもの。


 それと結局、理力を必要とするので大きい力にはそれに比例して多くの理力を必要とする。小さい力で汎用性を持たせるか、一発逆転を狙う大きい力にするか悩むところだ。


 月読様にどんな能力があるのか聞きながら考える。正直、浪漫溢れる能力がいろいろある。それこそ、火遁、水遁などという忍術の元になった能力や、アニメや漫画に出てきそうな能力まであった。


 そして悩んだ挙句、二つを決めた。


 一つは天目一箇神あめのまひとつのかみの力。天目一箇神あめのまひとつのかみは鍛冶の神様でその力を目に宿すと、武器防具の耐久値を回復する力を得る。


 武器防具の耐久値は整備すれば回復するが、整備すればするほど最大耐久値が減っていく。そして、どんな性能の良い武器防具でも、いつか最大耐久値が底をついて使えなくなるのが理。


 それが天目一箇神あめのまひとつのかみの力を使うとその理から外れ、最大耐久値が減ることなく耐久値が回復するそうだ。これは途轍もなく凄いアドバンテージだ。


 武器防具の耐久を気にせず戦える。今まで何本の刀を駄目にしてきたことか。最後は斬れなくなって打撃武器になっていたからな……。


 だが、地味だ。天目一箇神あめのまひとつのかみのことはリスペクトするけど、地味だ。


 例えば、迦具土神かぐつちのかみの力なんかだと、大いなる炎で見ているものを焼き尽くすらしい。おそらくこれが火遁の元だな。


 思金神おもいかねのかみの力なんて、使用する理力の量によって時間を遡れるそうだ。人の理力量だと数秒から数分が限界みたいだけど。魔法石を使えば、切り札になり得る。夢だ、浪漫だ。


 だがしかし、俺は天目一箇神あめのまひとつのかみに決めた!


 二つ目は悩んだ、凄く悩んだ。ちなみに月読様の力を宿すとどんな能力が? と聞くと、夜目が利くようになる、運が良くなるそうだ。


「わらわは月と夜と運の神ゆえそうなる。その顔はわらわに喧嘩を売っているのかえ?」


 売っていません。攻撃関係が無いのでがっかりしているだけです。


 そこで決めたのが天之尾羽張神あめのおはばりのかみ。この神様は刀の神様であり刀そのものでもある変わった神様。天羽々斬あめのはばきりとか天十握剣あめのとつかのつるぎといわれている。


 天之尾羽張神あめのおはばりのかみの力は武器にいろいろな特攻属性を付ける。例えば龍特攻属性は龍(竜)種、蛇種、蜥蜴種に特化し大ダメージを与える。しかし、デメリットもあり種族に特攻属性持つ攻撃は、逆にその種族以外の種族には攻撃が効き難くなるといった感じ。


 使いどころが難しい力だが特攻属性は十種あり使う理力が少なく、戦況をひっくり返すポテンシャルを持っている。それになによりに特攻属性をつけるので、自分が使う武器以外にも強化バフ弱体化デバフとしても使えるのだ。


 天目一箇神あめのまひとつのかみ天之尾羽張神あめのおはばりのかみの力は神様には失礼だけど地味。


 いや、考えたよ、建御雷神たけみかづちのかみの力で派手に雷攻撃とか。確かに凄い力だけど汎用性がないんだよ。使う相手に雷に耐性があったらまったく意味がなくなる。


 俺が欲しい力は短期決戦用でなく、継続戦闘用の力なのだ。一撃離脱のHit and Awayの戦法には憧れるけど、探究者シーカーにとっては実用的ではない。


天目一箇神あめのまひとつのかみ天之尾羽張神あめのおはばりのかみでお願いします」


「よいのかえ?」


「はい」


「しかし、地味よの~。目の前に山のような壁を作るとか、生きとし生けるものを死の国へ誘うというのもあったであろうに」


 あったけど今の俺には使えないって言ってましたよね! 理力が半端なく必要だって言ってましたよね!


「聖臣は浪漫がないよの~」


 浪漫で戦いには勝てませんよ。質実剛健が一番です!


「ふぁいなるあんさー?」


「イエス。ファイナルアンサー」


「うむ」


 いつも寝ている寝室に連れてこられ、布団に寝るように言われる。


「目を瞑っておれ」


 月読様が言われるままに布団に仰向けになり目を瞑る。


「これより、十六夜聖臣の施術を始める。よいか、如何なることがあっても目を開けてはならぬぞ」


 な、なんだ? 何が起こるんだ?


「メス!」


 メスなんて使わんやろ!






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