210.修行内容

 呆然としている俺。


 とてもシリアスな場面なのに、月読様の両手がわきわきと怪しい動きをみせている。


「聖臣。それはさておき、はよう、はよう」


 俺のことよりそんなに貢物が大事ですか!


「なにを怒っておる? 強ようなればよいだけのことよ。誰がそなたに加護を与え鍛えておると思うておる。わらわは月読ぞ!」


 いや、そうなんだけどね。貢物のスナック菓子やアイスに心奪われている姿を見ると不安しか感じない。


 まあいいか、じゃあいつもの部屋に出しましょう。


 小太郎はご両親の所に行ってくるといい。お土産渡すの忘れるなよ。


「にゃ~」


 それと沙羅さん、そろそろうさぎ師匠を離してあげて。


 巫女姿でルンルンとスキップをして部屋に入る美女。これが神かと思うと、なんかシュールだな。


「聖臣、はよう、はよう」


 お子ちゃまか!?


 座卓にアイスを並べ、載りきらないスナック菓子を座卓の脇に山積みにして置く。


「おぉー、待っておったぞ、新作ポテチ! こ、これは、も、もしや、お徳用サイズポテチかえ!? でかした、聖臣。褒めて遣わす!」


 スーパーハイテンションな月読様に若干引き気味の沙羅。こんなことで驚いていたら、修行が終わるまでもたないぞ。


「ここは天国かえ? 天国であろう? なんたる至福、なんたる眼福。これぞ神饌しんせんの極み!」


 天国というより高天原? 天国には違いないのか?


 歓喜乱舞する月読様がお徳用アイスに手を伸ばした瞬間、すべてのお菓子類が消えた!?


「う、うさぎ!? 何をする!」


 うさぎ師匠の仕業のようだ。うさぎ師匠、指をチッチッチッと振り座卓にバニラアイス一個を出す。


「お~まいごっ~ど……」


 ORZの体勢で項垂れる月読様。あんたが神やん!


 立ち直れない月読様をよそに、うさぎ師匠が俺と沙羅にタオル類と作務衣を渡してくる。風呂に入れと? 頷くうさぎ師匠。


 沙羅と温泉? 混浴ですか!?


 ちょっとルンルン気分で温泉に向かうと、男女に分かれていました……。い、いつの間に!?


 仕方なく温泉に入れば、女湯から沙羅の歓喜の声が。


「うさちゃんと猫ちゃんも一緒!? な、なんてパラダイス!」


 俺もそっちに入れたらパラダイスで幸せだったんだけどな……。


 温泉から上がり戻ると、寂し気にアイスを食べる月読様がいた。


「聖臣。盛者必衰、諸行無常よのう……」


 平家の落ち武者か!? 


 うさぎ師匠が持ってきた冷えた麦茶を飲む。乾いた喉に染み渡る。


 沙羅も戻ってきて麦茶飲む。妙に艶っ艶だ。うさぎと猫たちは大丈夫だろうか?


「して、聖臣と沙羅よ。今回はどんな修行が望みかえ?」


「全体の能力向上と印瞳術の修行ができればと」


「私も全体能力の向上と氣の修行をつけて欲しいです」


「能力向上と氣はいいとして。聖臣、印瞳術はインドの山奥で修業するものぞよ?」


 虹色マンか!? 月読様は意外と特撮好きか?


「冗談はさておき、印瞳術は既に廃れた技よのう。苦痛が伴うがよいかえ?」


 痛いの!? どうしよう? ちょっと嫌だなぁ。


「そこまでの苦痛なんですか?」


「目の中に印を刻むゆえ、二、三日は眠れぬし、まともに動けぬと思うがよい」


 目の中に刻む……魔眼か!? 厨二病が発病しそうだな。それに代償に苦痛をともなうのか。


「苦痛ですか……。月読様から見て苦痛に見合うだけの価値はありますか?」


「わらわは神ゆえまったく必要とせぬが、人の子の聖臣には能力にもよるが大いなる価値があるであろうな」


 能力によるか。


「いくつ付けられるのでしょうか?」


「そなた、二つしか目を持っておらぬであろう?」


 八目ウナギは八個付けられるんだな。羨ましい。ちなみに本当は八目ウナギに目は二つしかないけどね。目が多い生き物としたら蜘蛛かな。複眼も多いといえるかも。


「どんな能力がありますか?」


「それは食事の後にしようぞ。聖臣、スパゲッティを所望する」


 はい、俺が作るんですね。だから、体を清めさせたのね……。


 台所に移動しうさぎ師匠に材料を用意してもらう。うさぎ師匠がお子ちゃま用料理本を開き指を差す。ナポリタンとカルボナーラですか。


 問題ない。作りましょう。


「アキくんが作るの?」


「うさぎ師匠も料理はできるけど和食が専門でね。こういう系は俺が作るのがお約束なんだ」


「じゃあ、私も手伝うよ」


「えっ1? 料理できるの!?」


「私をなんだと思ってるの……プンプンだよ」


 というわけ材料を切るのは沙羅に任せ、うさぎ師匠が用意した材料の吟味。


 ほぼ全部、そろっているんですけど……。前来た時は調味料とか無かったはずだけど? 探したらあった? そうなの? うさぎ師匠が頷き、マヨを掲げている。マヨ、気に入ったんだね……。


 日本で作っているものであれば、すべてではないがあるようだ。だが、アイスとかスナック菓子、カップラーメンは無かったようだ。違う神様に奉納しているんだろうね。残念。





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