209.沙羅と月へ修行に

 権威付けとはいえ一体につき金貨五十枚程度にしかならないのに、そこまで犠牲を出してでも欲しいのかね? まあ、だから上級貴族かお金持ち貴族だけなんだろうな。


 ちなみに、デミパズズを狩るのは竜の大回廊ではなく、魔獣の樹海と呼ばれる森の奥深くだそうだ。


 アディールさんに竜の大回廊の五十階で狩ったデミパズズと言ったら、よく生きていましたねと呆れられた。やはり、あそこは異常なんだな。


 生きていたのはうさぎ師匠のおかげだけどね。


 まだ、あわあわしている沙羅とマーブルをつれて沙羅の部屋に移動。今後の予定を話し合わねばならぬ。


 明日から三月に入るまでは月彩 Tr.Co でお仕事。覚えなきゃならないことが山ほどあるらしい。天水叔父と弁護士さんが付きっきりでの勉強会になる。


 その間にもマーブル商会に渡す品が随時搬入されてくるので、マーブルとアディールさんも忙しくなる。


「い~や~にゃ~。アディールに任せるにゃ~」


 働け、駄猫!


 それにアディールさんは政府との話し合いがある。顔合わせは終わっているし、アディールさんはこちらのスタンスを理解しているのでお任せする。


 四月に入れば月読様の所で修業。沙羅を連れて行く許可はもらっている。いつもより多めの奉納をしたし、行くときにも奉納品を多めに持っていくつもりだ。


 修行から帰ってきたら人工迷宮にも行きたい。異界アンダーワールドの探索もしないとな。まったくしていないからな、俺。




 そんなこんなで、忙しい毎日が始まる。


 天水叔父と弁護士さんはスパルタだった……。下宿先に帰るまではほぼ缶詰状態。資料とPCを交互ににらめっこ。書類の見方から決裁の仕方、会社と個人のお金の使い方までレクチャーされた。


 マーブルは沙羅を連れて向こうとこっちを行ったり来たり。おそらく、アップアップのプッカとエリンさん用に、エナドリを箱で持たせた。俺も飲んでいる。


 そんなマーブルが朗報をいくつか持ってきた。薬師ギルドとポーションの定期購入の契約を結べたそうだ。


 今後、薬師ギルドの信頼を勝ち取れれば、購入量を増やすことも可能らしい。そして、職人も紹介してもらえれば、自前で工房を作ってもいいね。


 それと職人ギルドというより、ドワーフ族と宝石の原石定期購入の契約と、いろいろな金属の入手依頼まで結んできた。


 どうやらお酒で釣ったらしい。現金払いよりお酒の現物払いで契約してきたみたいだ。それでいいのか? ドワーフの職人たち……。


 とここまでマーブルがやったように言っているが、実際は影の軍師たる沙羅の助言のおかげみたい。ですよねー。


 なんとか勉強会も乗り越え、今日は月読様の所へ出発の日。昨日のうちに奉納品を山のように買い込み準備は万全。


 マーブルは居残り。月読様にどんな粗相をするかわかったもんじゃないからな。いや、意外とだらけ仲間として仲良くなるかも……。


 今回は天水家の倉庫から直接月読様の所に月虹で移動。通常は月虹では行けないらしい。さすがに神界だけあって資格がないと入れないそうだ。そこで、事前に以前もらった翡翠の勾玉に許可証を追加してもらっている。


「よく来た。聖臣。そして、水の巫女沙羅よ」


「初めまして、天水沙羅と申します。月読様のご尊顔を拝し恐悦至極でございます」


「そう固くならずともよい。それとも、それがでふぉるとかえ?」


「そ、そういうわけではありませんが……」


「ならば普通に話すがよい。おうおう、小太郎、元気だったかえ?」


「にゃ~」


 月読様、デフォルトなんて言葉どこで覚えたんだ? もしかして、俺か?


「それより、水の巫女ってなんですか?」


「沙羅は善女龍王の寵愛を受けておるゆえ、当然であろう」


「そうなの?」


「さ、さあ?」


 というやり取りをしていると、うさぎ師匠がやって来た。


「う、うさちゃん!? 可愛い!」


 月読様の前だというのに、沙羅はうさぎ師匠に飛びつき、ハグしてモフモフに顔をうずめる。


 うさぎ師匠が俺にこれどうすんだ? と目で訴えてくるが、俺は目を逸らさせてもらった。


「さて、聖臣よ。わかっておろうな?」


「もちろんです。わかっておりますとも。今回はパトロンがいますからね、奮発しました!」


「たわけ者め!」


 あれ? 違うの?


「わらわが言うておるのは、卑小な亜神と契約したことよ! まあ、貢物も大事ゆえ否定はせぬが……」


 否定はしないんだ……。


 沙羅がうさぎ師匠をハグしたまま、怪訝な目を向けてきたので事情を話す。


「河上先生でも倒せないモンスターなんだ。うさちゃん、強いんだぁ」


 ハグされたままホールドされたうさぎ師匠、まんざらでもない様子。


「聖臣。媒体に使われていた書物は封印したものの、そなたと亜神の契約は切れておらぬゆえ、気をつけねばならぬ。必ずそなたに接触してこよう。惑わされるでないぞ」


「と言われても、どうすればいいんですかね?」


「強くなれ。力を見せつけ、その亜神を服従させよ。心して聞け、そうせねば体どころかすべてを乗っ取られかねぬぞ」


「そ、そこまでですか?」


「異界の者ゆえ、わらわの威信は効かぬ。成り上がりの亜神ゆえ、ほかの神に対しての畏怖も薄い。厄介な者と契約したものよ」


 まじかぁ。


 亜神を服従させるって、できるのか?






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