208.結納品?

 このポーションは医学会に大きな進展をもたらすとこの医官の代表は言っている。


 手術して即退院ということがありえるからだ。ただ、取り除いたがん細胞までもが復活するおそれがあることから、今後の検証が重要になってくるらしい。


 ここまでくるとハイクラスのポーションは蘇生薬、現代のエリクサーと言ってもいいのではないだろうか。今後、医学のブレイクスルーが起きるのかもしれない。正直、恐ろしい。


 この後はほかに持ち込んだ各ポーションについて、事前に検証された結果が映像付きで説明された。


 例えば毒消しのポーションは自然界にある毒には効いても、科学的に作られた毒には効かないとか、麻痺回復ポーションは正座して痺れた足が治るが、毒による痺れには効果がないとかの説明があった。この医官の代表は、化学兵器に毒消しポーションが対応していないことを非常に残念がっていた。


 ちなみに、向こうの世界にはファンタジー定番の何にでも効く万能薬といったものはなかった。一般の病気に対しては、効果は別として意外とこちらと同じような薬学が主流のようだった。


 こちらの世界の薬を持っていけば売れると思うが、禁止されているので諦めるしかない。


 説明が終わった後は質問が飛び交う。専門的なことはわからないが興味ある質問もあった。それは価格だ。貴子様はその質問の答えを濁していたが、いくらぐらいが適正価格なのだろうか?


 ただのポーションはそれほど高くない。高くないどころか、こちらの十万円もするポーションと効果はほぼ同じもので、日本円に換算すると五千円くらいになると思う。


 でも安くしすぎるとポーションを作っている会社から恨まれそう。さすがに十万円で売る気はない。探究者シーカーが無理なく買える値段がいい。となると、二万円くらいだろうか? 二万円で命が助かると思えば常備するはず。要相談かな。


「体力回復薬とか精力剤ってのないのか? 十六夜」


 幽斎師匠、体力回復薬はわかるけど、精力剤って……愛人さん対策か!?


「なくはないと思いますが。そういうのはこちらのほうが進んでいるんじゃないですか?」


「使えねぇ。異世界だろう? マジックなんちゃらってのはねぇのかよ? 探してこい!」


 知らねぇよ! そういうのが欲しいなら、夜中の繁華街に行ってください! 捕まっても知りませんけど。


 まあ実際、プッカとエリンさんがエナドリ飲んでハイテンションになって喜んでいたから、向こうにそういうものがないとは思うが高級で庶民に手が出ないということもあり得る。それに向こうにも、違法薬物は間違いなくあると思う。マーブルに聞けばわかるかな?


 さて、すべてのスケジュールが終った。まだ、あちらでは意見交換など話し合いが行われているが俺には関係ない。黒岩さんは異世界は脅威だ規制をかけるべきだと騒いでいるが、元から繋がっていたから今更だし、これからどう付き合っていくのかが大事だと思う。


 じゃあ、帰りますか。迎えの車に乗り込んだところで、幽斎師匠から声が掛る。


「十六夜、ちゃんと探しておけよ! 剣タイプで我慢してやるからな!」


 知らんがな。



 高速を使って天水家までノンストップ。横を走るバイクのおじさんががこちらにサムズアップ。こんな日にバイクとでツーリングとか良さそうだね。今度の夏休みに免許取りに行こうかな。


「サラは車の免許持ってるの?」


「持ってるよ。普通免許に大型。大型特殊も欲しいな~」


「そ、そうなんだ」


 大型自動二輪はまだいいとして、大型免許って何に使う気? 大型特殊も何に使う気だ?


「取りに行くの?」


「自動二輪がほしいかなと思って」


「じゃあ、アキくんが免許取る時、私も大型特殊を取ろう!」


「なぜに大型特殊? 一緒に自動二輪でいいんじゃない?」


「大特は姉さんが持ってるから私も取りたくて。それにバイクはアキくんの後ろに乗りたいから……」


 紗耶香さんは自衛隊務めだから持っていてもおかしくない。というより、天水家はみんな自衛隊だからみんな持ってるのか? 実は天水母や天水祖母も持ってたりして?


 そして想像してみる。大型バイクの後ろに沙羅を乗せて走る俺を。


 いい、凄くいい! よし、大型自動二輪を取ろう!


 天水家に到着してお茶をご馳走になっている。すぐ、帰るつもりだったが天水母と天水祖母に小太郎が猫質になっているので帰るに帰れない。


 マーブルにお菓子を与えながらアディールさんと雑談していているときに、ゴリラ怪獣の襟巻を渡していないことを思い出した。


「そういえば、お土産があったんだ」


「えっ!? いつの間に買ったの?」


「今回のじゃなくて、向こうに行った時のね」


 自由空間からゴリラ怪獣の襟巻を出して沙羅たちに渡す。


「凄~い。ふかふかだ~」


「デミパズズの毛皮ですか……。よく手に入りましたね。貴族が権威付けで狩らせるモンスターですよ」


 あれを狩らせるのか……。幽斎師匠でさえ倒し切れなかったのに。やはり、向こうの世界にはこちらより強い人がいるんだな。


「と言っても、上級貴族かお金の余った貴族ですが」


 超一流のレイダーを雇い、多くの兵とレイダーを投入しての物量戦らしい。もちろん、失敗も多く成功しても被害は甚大。そこまでしても欲しいのか?


「あらあら、貴族様が身に着けるものらしいですわよ。お母様」


「これは結納の品かしら? 沙羅ちゃん」


「ふぇっ!?」


 本当に天水母と天水祖母は沙羅をからかうのが好きだな……。







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